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<偽装豆腐>という間違いだらけの指摘にこそ注意!

食品添加物は悪者ではありません。

<偽装豆腐に注意>イオンのスーパーで最近やたらと出回る激安食品という記事が、話題になっています。メディアゴンに掲載され、Yahoo!ニュースにも登場しています(現在は削除済み)。

でも、この記事、間違いだらけです。食の安全について長年取材してきた私から見て問題のない成分しか入っておらず、安心して食べて大丈夫です。いくつか具体的に説明しましょう。

ヘキサンとトランス脂肪酸は関係がない

まずはこの一文。「しかもこの油・・・この価格で売り出している以上、どう考えても一番搾りの油は使っていないと容易に想像できます。つまり、ヘキサンという劇薬で処理しなければいけない油。ご存知、トランス脂肪酸の油を使っているということです。」

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ヘキサンは劇薬ではありません。ヘキサンは炭素原子と水素原子からなる有機溶媒で、油を溶かし出す作用を持ちます。食品添加物に指定されており、大豆や菜種などから油を効率よく抽出するのに用いられます。食用油が精製されて製品になる際に、ヘキサンは蒸留で取り除かれます。

劇薬という言葉をどういう意味で用いているのでしょうか。通常、毒薬、劇薬という言葉は、「毒物及び劇物取締法」の対象である毒物や劇物に用いられるのですが、ヘキサンはそのどちらでもないのです。食べた場合の急性毒性が極めて低い物質です。

また、トランス脂肪酸は、二重結合のトランス型という化学構造を持つ脂肪酸を指します。牛乳やバター等に微量含まれますが、植物油など液状の油を固形化するときの加工技術である「水素添加」という工程で主にできます。

トランス脂肪酸は確かに、多く摂り過ぎていると、心臓疾患のリスクを上げるとされています。でも、この筆者が問題視しているパーム油は、植物油でありながら液体と固体の中間くらいの形状を自然に保っています。そのため、トランス脂肪酸が批判された時、それまで水素添加したショートニングなどを使っていた事業者が、なだれを打ってパーム油に切り替えたくらいです。

筆者はもしかして、ヘキサンで処理するとトランス脂肪酸ができる、と勘違いしておられるのでしょうか?

消泡剤は、適切に使えば安全

消泡剤の使用を断罪しているのも、気になりました。写真で紹介されている豆腐のパッケージに消泡剤として記載されているレシチンは、人や植物など多くの生き物が持っている脂質の一種です。

グリセリン脂肪酸エステルは天然の油脂にも含まれる物質で、乳化剤としてさまざまな食品に用いられています。いずれも、食品添加物として、専門家の評価の末に使用を認められています。ちなみに、レシチンは、健康食品としても売られています。

シリコーン樹脂は、「ポリジメチルシロキサン」というのが正式名称。樹脂というとプラスチックを食べさせられるような印象を持たれがちですが、ケイ素、炭素、酸素、水素の原子がつながった構造です。ケイ素は土壌に多く含まれ、食品中にも含まれ人の体の中にもあります。ちなみに、人は主にビールからケイ素を摂っているとのことです。

ポリジメチルシロキサンは実は、胃カメラの検査時に胃の中の泡を抑える薬としても利用されています。食品添加物としても医薬品としても用いられているので、世界中でよく調べられ評価されています。

食品添加物は、日本では食品安全委員会の専門家が安全性の評価をしたうえで、人に影響が出ない量や方法で用いられています。適切に使われていれば安全性に問題はありません。

消泡剤を豆腐製造に用いるのは、泡があると食感の良いきれいな豆腐に仕上がらず、日持ちも悪くなるから、と全国豆腐連合会は説明しています。

「偽装」の根拠は個人の感想

さらに筆者は、「愛情という手間暇を省いている食材を口にするから、愛情の希薄な人間が出来上がるように思います」という自説の根拠として、細部は全体と似た形をしているという「フラクタル理論」を挙げています。が、フラクタル理論のこのような引用の仕方を私は初めて見ました。

また、「現代人のカラダの不調は、戦前の日本にはほとんど見られなかった内容だそうです。高度経済成長とともに培った流通、保存のための食品添加物、農薬などによる『人工的なもの』の副産物なのです」と断定していますが、その根拠はあるのでしょうか? 

なぜなら、日本人の平均余命(平均寿命)は、1947年(昭和22年)で男性50.06歳、女性53.96歳。戦後10年の1955年であっても、男性63.60歳、女性67.75歳なのです。

戦前は、現代人が感じるような不調など経験できずに、多くの人が亡くなっていた、というのが実際のところではないでしょうか。高度経済成長と共に、どんどん寿命が伸びていったのは、みなさんご承知のとおりです。現代社会でがんが多いように感じられるのも、長寿になったから。高齢化の影響を取り除く「年齢調整」を行って比較すると、多くのがんの死亡率はむしろ近年、減少しています。

結局、この筆者の方にとって、「本物の豆腐」は国産大豆と凝固剤(塩化マグネシウム にがり)を使ったものだけのようです。それ以外の、法律上まったく問題のない大豆や油や食品添加物の使用が、この方にとっては“偽装”らしいのです。

個人が、「私はこれが好きだ」と感想を述べるのは大歓迎。昔ながらの豆腐、おおいに結構です。しかし、事実誤認をもとに「不自然」「人工的」だから、「偽装」と主張するのは、いかがなものでしょうか?

特に、筆者の職業が管理栄養士だからこそ、私は気になるのです。管理栄養士は、個人の主観ではなく、科学的な根拠をもとに思考、判断することが必要な職業です。

掲載する媒体に責任はないのか?

もう一つ付け加えれば、シリコーン樹脂などの消泡剤は、多くの豆腐で使われています。なにも、イオンに並ぶ豆腐だけではありません。イトーヨーカドーだって生協の「コープみらい」だって、消泡剤が使われた豆腐を売っています。なのにイオンのみを誹謗中傷するとは、イオンがかわいそうです。

個人の主観による「偽装」という批判を、メディアゴン、Yahoo!ニュースは取り上げ、情報として拡散させました。掲載する媒体に責任はないのでしょうか? WELQ問題を連想したのは、私だけでしょうか?

豆腐の定義作りはこれから

ちなみに、日本農業新聞が6月、『豆腐業界 初の定義 大豆10%以上「とうふ」 「品質」明確に安売りを防止』という記事を報じています。

豆腐と一言で言いますが、多くの製品があります。大豆の割合や大豆以外の副原料の使用量などにより、さまざまです。

ほかの食品の中には、景品表示法に基づく「公正競争規約」というのを業界の自主ルールとして策定して運用しているところがあります。たとえば、「豆乳類」だと、「豆乳」は大豆固形分8%以上で添加なし、「調製豆乳」は大豆固形分が6%以上で油や砂糖などを加えたもの、などと決まっています。

現在のところ、豆腐はこの自主ルールを策定していません。だから、日本農業新聞の記事の書き出しが「豆腐の定義作りに業界が乗り出した」なのです。定義がそもそもないのだから、偽装もへったくれもありません。

ただし、業界としても「いろいろな種類があるのに一緒くたに豆腐では、消費者も混乱するのでは?」という話になり、現在策定中のようです。

でもこれは、品質の話。安全性とは関係がありません。適切な原材料に食品添加物を正しく使い、衛生管理に十分注意して作られていれば、どの豆腐も安全です。国産だから、オーガニックだから、より安全、という根拠はありません。

安全面でもっとも重要なのは微生物対策を中心とする衛生管理。昔は豆腐による食中毒が多かったので、事業者は気をつけて対策を講じています。消泡剤の使用には、「日持ちが悪くなって食中毒につながったら大変だ」という意味合いもあるでしょう。

安全性が確保されたうえで、どのような原材料、品質の豆腐を選ぶかはその人次第です。味も大事だし、価格も大事。他人の主観には惑わされず、あなたの好きなものを選んでください。

参考文献

全国豆腐連合会・豆腐の添加物を知る

厚労省・食品添加物

JECFA・Food Additives

農水省・トランス脂肪酸に関する情報

国立健康・栄養研究所・「健康食品」の安全性・有効性情報

日本医薬品添加剤協会・シリコーン樹脂エマルジョン

日本農業新聞(2017年6月5日付記事) 豆腐業界 初の定義 大豆10%以上「とうふ」 「品質」明確に安売りを防止

松永 和紀(まつなが・わき) 科学ジャーナリスト

京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち独立。食品の安全性や生産技術、環境影響等を主な専門領域として、執筆や講演活動などを続けている。「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008を受賞。新刊は「効かない健康食品 危ない天然・自然」(同)