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「飲めば痩せる」健康食品に初の行政処分 効果効能をうたうからくりとは?

機能性表示食品は安倍首相肝いりの制度ですが・・・

葛の花から抽出したエキスには、主に7種のイソフラボンが含まれるとされています。「葛の花由来イソフラボン」と呼ばれて今、人気のダイエット成分です。

ところが11月7日、消費者庁が葛の花由来イソフラボンを含み「痩せる」などとうたっていた機能性表示食品を販売する16社に対し、景品表示法違反として措置命令を出しました。

その商品を飲むだけで、誰でも簡単に内臓脂肪や皮下脂肪が減り、おなか周りが痩せる効果が得られると宣伝していましたが、裏付けがなかった、というのです。機能性表示食品が行政処分を受けるのは初めてのことです。

あれ?機能性表示食品って国の制度じゃないの?そこで認められているものなのに、どうして消費者庁が?しかも、16社一斉ってどういうこと?

ちょっとわかりにくいですね。解説しましょう。

安倍晋三首相が肩入れして鳴り物入りで始まった機能性表示食品なのですが、今回の事件だけでなく、実はいろいろと困った事態が起きているのです。

太田胃散など16社が、景品表示法違反

機能性表示食品は、安全性や機能性、効果について国がガイドラインを定めています。企業は、それをクリアしたと考える製品を届け出て、根拠を説明する書類も提出し、その後に販売を開始します。

でも、書類の中身、根拠が妥当なのかどうか、誰も審査しておらず、企業の自己責任です。消費者庁は、提出された書類の書式等が整っているか確認して、その資料をウェブサイトで公開するだけなのです。

よく比較される特定保健用食品(トクホ)は、内閣府食品安全委員会や消費者委員会等の専門家らが審査をしたうえ、広告の文言等にもある程度、口出しをしています。比べると、機能性表示食品は、同じ国の制度とは言え、非常に緩い仕組みです。

今回、景品表示法違反に問われたのは(株)太田胃散、(株)スギ薬局、(株)ニッセンなど16社。各社の広告のどれが問題となったかも、消費者庁が公開しています。

どの社も、製品を飲むだけで誰でも容易に、内臓脂肪(及び皮下脂肪)が減り、外見上、はっきりとわかるほどの腹部の痩身効果が得られる、というような広告を出していました。

以下の図が典型的な広告事例です。

研究で確認された“効果”はごくわずかなのに……

実際にはどうなのか?

機能性表示食品の届出資料では「腹部総脂肪面積、腹部内臓脂肪面積、腹部皮下脂肪面積、体重、胴囲の有意な減少が認められた」などと書かれています。

しかし、そもそも効果を調べる試験の被験者はおもに、BMI(体格指数)25〜30の人たち。日本ではBMIが25以上は肥満とされ、WHO(世界保健機関)や米国等は30以上を肥満と定義しており、太めの層、と言えます。胴囲(ウエストサイズ)も平均して90を超えるようなタイプです。

そんな人たちを被験者にして、葛の花由来イソフラボンが含まれるサプリメントや飲料、成分は含まれないけれど外見はそっくりで被験者には区別できないプラセボのサプリメントを飲んでもらって、脂肪面積やウエストサイズへの影響を比較して調べ、統計的に有意差あり、としています。

でも、減り方はごくわずかしかありません。

たとえば、腹部総脂肪面積。4つの研究を統合して解析した結果、プラセボ群に対して、葛の花由来イソフラボン摂取群は平均して11.7平方cm減っていました。

すごい、と思いますか?

でも、試験前の面積自体が、平均して300平方cmを超えています。つまり、実際には3%程度しか減っていないのです。

ウエストサイズは、3つの研究を統合した結果で、プラセボ群に比べて葛の花由来イソフラボン摂取群が平均して0.7cm、減っていました。

たしかに減っている。でも、ウエストサイズが90cmを超えるような人たちが0.7cm減っているんですよ。外見上の変化はなにもないでしょう。

しかも、被験者の中には、毎日9000歩程度歩いており、食事は少なめというような人が相当数含まれています。

気をつけて摂生して痩せようと努力している太めの人たちが成分入りのサプリメントや飲料を摂取したら、脂肪面積が3%、ウエストラインが0.7cm、体重が0.9kgなど、よけいに減りました、というお話です。

広告から受ける印象と大きく異なるのは、異論ないところでしょう。消費者庁は「体重1kg減、ウエスト-1cmなど、通常の1日の変動範囲内だ」と言っています。

だれにでも効くかどうかも不明

この手のダイエット広告が主なターゲットとする女性、既にウエストラインは適正数値なのに、さらにダイエットしたい、ウエストが細くなりたい、というような女性に効くかどうかは、まったく不明です。

なのに、「だれでも、何もしなくても、摂るだけでウエストがこんなに細くなりました」という広告を大々的に流していたのですから、非常に悪質です。

その結果、消費者庁は「合理的な根拠が認められず、実際のものよりも著しく優良と誤認させる表示(優良誤認)であり、景品表示法違反」と判断しました。景品表示法違反には課徴金が課されます。これから金額が検討されることになります。

消費者は広告に「機能性表示食品」と書いてあると、国の制度に則ったものだし、信頼できるかも、と考えるのかもしれません。でも、実態は国のチェックなどはなく企業次第。だから、こういう逸脱した広告表示も氾濫します。

OEM製造で、16社に一斉措置命令

ちなみに16社の一斉措置命令となったのは、これらの製品が各社の独自開発ではなく、(株)東洋新薬のOEMだから。OEMというのは、Original Equipment Manufacturingの略で、製品製造のみを請け負い、販売者がそれぞれブランド名を付けて販売します。

そのため、各社が機能性表示食品として届出した時の書類の中の安全性や機能性に関する書類はほぼ同じ。機能性、健康効果の根拠として用いられている4つの研究はすべて、東洋新薬の研究員によるものです。

機能性表示食品は現在、1000製品以上が届出を済ませていますが、このようなOEMが少なくありません。

OEMメーカーが成分を開発し、安全性や機能性の資料と一緒に販売企業に売り込む。販売企業は、少しだけ他ほかの成分も混ぜたり、サプリではなくお茶の形態にしたり、などを指示して製造を依頼。届出はOEMメーカーが作ったものをほぼそのまま提出。販売や広告は各社それぞれに……。そんなビジネスモデルができあがっています。

ダイエット関連製品は、機能性表示食品の中でも売れ筋なので、多くの販売企業はラインナップに入れておきたいのです。

わずかな効果なのに、買いますか?

今回の措置命令は、広告があまりにもひどいために出されました。が、長々と説明したように、「効くとしても、肥満、ウエストサイズ90以上で、運動や食生活の節制なども行なっている人たちに、ほんのわずかだけ、外見上はほとんど違いがわからないくらいの効果しかない」というのが、葛の花由来イソフラボン摂取試験の結果です。

この成分を含む機能性表示食品は全部で45製品あり、今回行政処分を受けた19製品以外は、広告に問題がないとされ、売られています。あなたは買いますか?

実のところ、機能性表示食品の効果はどの製品もおおむね、この程度しかない、と私はこれまでの取材で判断しています。統計的には有意差あり。だけど、実際の生活や外見においては、意味のある差がほぼない、というような製品だらけなのです。

たとえば、別のあるダイエット関連の機能性表示食品。棒グラフで比較すると、8週間飲み続けてもBMIにほとんど変化がないことがわかります。しかし、企業は折れ線グラフにして広告宣伝に用いて、差が大きくあるように見せかけています。

消費者庁の調査事業で、レベルの低さが判明

しかも、その小さな効果すらも疑わしい、ということが、専門家の科学的検証によってわかってきています。

機能性表示食品の機能性は、既存の研究論文を集めて解析する「研究レビュー」によって効果を証明するやり方と、最終製品を実際に食べてもらって効果の有無をみる「臨床試験」と、2つの方法が認められています。

消費者庁が、専門家に委託して製品や届出資料を分析した調査事業を実施したのです。

2015年度は、研究レビューで届け出された製品の資料が調べられ、研究の質が低く不備が多いにもかかわらず届出され、そのまま製品化されたものが少なくないことが明らかとなっています。

16年度の調査事業では、臨床試験で機能性を確認したとする製品の資料を調べており、科学の常識から言えば、「効果あり」と言ってはいけないものまで製品化されている実態が浮き彫りとなりました。

少々込み入った話ですが、こうした摂取試験の被験者になった場合、多くの人が、たとえ、機能性のある成分を含まないプラセボを摂取する群であったとしても、試験後は数値がよくなります。

被験者が試験を受けている、という自覚があるだけで気分がよくなり、体調が改善することも多いですし、無意識のうちに食事のバランスがよくなったり、日頃はエスカレータに乗るのに階段を駆け上がったり、生活がよい方向に変わってしまうからです。

そのため、試験の前後で「数値がよくなった」などとする比較には意味がありません。被験者たちをランダムに摂取群とプラセボ群に分けて食べてもらう比較試験を行い、統計的に解析して、試験後、摂取群がプラセボ群よりも有意に改善していなければ、「効果あり」と言ってはいけない、とするのが科学の手続きです。

この場合、「群間比較で差があった」といいます。一方、摂取群の試験前と後で比較するのを「群内比較」と呼びます。群内比較で差があっても、それは「効果あり」とは認められないのです。

ところが、報告書によれば、調査した製品のうち群内比較をしているものが6割に上っているとのこと。群間比較で差が出にくく、群内比較で「差がある」と主張したいのです。

報告書は、「ランダム化比較試験では、群間比較が重要であり、群内変化の比較検定は無用であり行うべきではない」と断言しています。そして、「群内の比較検定で不要な有意差記号を多用することで、あたかも有効であるような錯覚を読者に与えることになり、大きな問題である」と記述しています。

ああ、ややこしい。でも、これが科学なのです。

このほか、多くの検定項目を設けている(偶然に差が出る確率が上がる)とか、被験者数が少ない小規模な試験しか行われていないとか、業界団体の雑誌にしか論文が掲載されておらず利益相反を疑われても仕方がないなど、問題点が山ほど指摘されています。

利益相反というのは、たとえば、ある研究に企業等が資金を出し、その企業に都合の良い結果が出るように意識的、あるいは無意識に研究結果をねじ曲げてしまい、社会全体の利益と相反してしまう状態です。

この場合、業界団体はその成分に健康効果がある、とする論文を雑誌に載せて「学術的根拠があります」として権威付けをした方が、業界全体の利益につながるでしょう。したがって、掲載にあたっての審査が相当に緩いのではないか、と疑われてしまいます。

安倍首相の肝いり制度は今

これが、機能性表示食品の実情です。

機能性表示食品制度は、安倍首相が「トクホは、お金も時間もかかる。中小企業・小規模事業者には、チャンスが事実上閉ざされている」として、「世界で一番企業が活躍しやすい国の実現」を目指して2015年度にできた制度です。

その結果、消費者は効果がとても小さい製品や、それすらおぼつかない製品を信じて買っているのではないでしょうか。

私は機能性表示食品の問題をずっと指摘してきたのですが、あまりにもひどい広告に対して今回、やっと措置命令が出た、という印象を受けています。

さて、もう一つ。ちなみに、なのですが、機能性表示食品の届出を受け付けるのは消費者庁食品表示企画課。景品表示法違反を摘発するのは、表示対策課です。

食品表示企画課は主に農水省、厚労省からの出向者で占められ、どんどん届出を受け付け製品化を推し進めています。安倍首相が内閣府に設置した「規制改革推進会議」からたびたび、届出をもっと増やせ、届出書類を簡素化しろ等々、圧力をかけられています。

一方、表示対策課は取り締まる側なので、多くは公正取引委員会から出向してきており、事業者の責任に対して厳しいスタンスです。

なんだか、消費者庁の仕事を作ってあげているみたいです。制度批判、事業者批判をするのは当然ですが、「たいした努力もなく、生活も変えないのに、食べたらダイエットや健康増進に結びつくような食品など、あるわけがない」という大原則を消費者が思い出すのも、大事なことででしょう

<参考文献>

消費者庁報道発表資料・葛の花由来イソフラボンを機能性関与成分とする機能性表示食品の販売事業者16社に対する景品表示法に基づく措置命令について

消費者庁・機能性表示食品に関する情報(製品情報を検索できるデータベースなどにリンクしている。ページの一番最後の「報告書等」で、15年度、16年度に行われた調査事業報告書などがリンクされている)

Journal of Health Science・Preliminary Research for the Anti-obesity Effect of Puerariae Flos Extract in Humans(2011年)

Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry・Consumption of Pueraria Flower Extract Reduces Body Mass Index via a Decrease in the Visceral Fat Area in Obese Humans(2012年)

内閣府・規制改革

安倍晋三首相の言葉「成長戦略第3弾スピーチ」2013年6月5日

【松永和紀(まつなが・わき)】 科学ジャーナリスト

京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち独立。食品の安全性や生産技術、環境影響等を主な専門領域として、執筆や講演活動などを続けている。「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008を受賞。新刊は「効かない健康食品 危ない天然・自然」(同)