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私がツイッターから去った理由

本気で自分のことを心配してくれる人の言葉が引き戻してくれた

2017年10月末、神奈川県座間市のアパートで男女9人の遺体が発見された。このうち7人がTwitterで繋がり、3人は女子高生だ。

首都圏の高校3年生、沙織(仮名、17)は事件に関心を示した一人だ。発覚前の8月、自殺未遂をしたことが大きい。「家には居場所がない」と感じていたことが一因だった。

沙織も、Twitterは自殺願望を抱えた人たちと繋がる手段だった。しかし、最近になって、Twitterから去ったのだ。どんな気持ちの変化があったのか。

自殺関連は裏アカで。Twitterは母親には内緒

私立高校に通う沙織は黒髪で、やや細身の体型だ。高校ではこれまで、成績はオール5を維持した。体育も得意だ。習い事でクラシック・バレエをしており、体力もある。

取材には、はっきりとした、聞き取りやすい口調で答える。学校から塾へ向かう間の喫茶店で取材をしたため、学校の制服を着ていた。

沙織は学校の友達とも繋がっている表アカと、自殺関連のことをつぶやく裏アカを持っている。

高校生で複数のアカウントを持っているのは珍しいことではない。ビッグローブの調査(2017年3月、全国の男女10〜40代の800人が対象)によると、10代の6割が、同一のSNS上で複数のアカウントを持っていることがわかっている。

ただ、親は、沙織がTwitterでつぶやいているのを知らない。座間事件があったときも、一緒にテレビを見ながら、「Twitterなんかやってるから危ない」と言っていたくらいだ。

母親は、沙織が幼い頃から成績上位でなければ許さない。大学進学に関しても、「MARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政)はダメ。最低で早慶」と言い続けてきた。

沙織はただ、家にいるのが嫌になり、学校が終わると、街をフラフラするようになる。自傷行為もするようになった。

「テストで100点を取っても褒められない。勉強しないといけない。受験しないといけない。大学に行かなくていいという家庭ではないんです。自分の意思で拒否できない。早慶に落ちたら、浪人しないといけない」

繋がった「死にたい」ユーザーのアカウントは更新されず......

そんな沙織は、裏アカで「#自殺募集」と書き込んだりした。それで繋がった人たちもいるが、なかには連絡が取れなくなった人もいた。繋がりがあるユーザーたちの間では、「あの子は自殺した」との情報が入ってくる。案の定、そのアカウントは更新されなくなっていた。

沙織も昨年8月、自分の部屋で「死のう」と思って、クローゼットで首をつった。ただ、朝になって目が覚めた。未遂に終わった。

「何かで察したのか、友達から電話で『生きててよかった』と泣きながら言われました。(Twitterでは)『死ぬ』とは言ってなかったのに、どうしてわかったのだろう。死にたいと思っていますが、このときはさすがにグッとくるものがあった」

座間事件発覚後、沙織は事件をネットで調べた。

「事件が起きている時期と、私が未遂をした時期がほぼ同じ。もし、(白石隆浩被告と)繋がっていたら、私も(被告の)家に行ったかもしれない。危険とわかっていても、行ったでしょうね」

Twitterにほぼ毎日アクセス。「依存していた」

沙織はほぼ毎日のように、Twitterにアクセスしていた。つながった人たちとはDM(ダイレクトメール)をした。結果、多くの自殺願望者と出会った。

「Twitterに依存していましたね。とりあえず、毎日開く。開いていないときでも、Twitterのことが気になりました。でも、『あの子はどうしているのか』とは思いません。だって、思ったらキリがないですから」

キリがないほど、多くのユーザーをチェックしていた。ただ、繋がった人の中で、1人だけLINEを交換した人がいたという。

「同性で、年が近い人だったので、親近感が湧いたんです。会ったこともありますが、普通の子でした。お互いの家の話をしました。その子は学校の悩みも話していたかな。でも、気分の浮き沈みが激しい子でした。気分が落ちたときには“別人格”すぎて......。いまは繋がっていません」

出会いアカも。男たちは「癒される」と言っていた

Twitterでは、出会いアカも作っていた。会うのは特定された複数の人。喫茶店で話すだけで1時間5000円をもらえた。援助交際に近いが、性的な行為は一切ない。JKビジネスや「パパ活」にも似ているが、個人でやっていた。

「(男性たちは)会社の愚痴など、日々の話をするだけです。『話を聞いてくれる人がいない』と言っていました。なかには、私と同じような年の娘がいるという人もいました。癒されると言っていましたが、私は聞いていて面白くはなかったです」

出会い系アプリも使っていた。沙織は何を求めていたのか。

「秒レベルで返信がくる。誰かとつながっていたい時に書き込む。依存していたんです。でも止められないのは嫌なので、アプリは消し、Twitterで繋がりを感じていました」

アカウントがロックされる。つぶやくより「発狂」するように

ところで、Twitter社は、座間事件以降、ツイートの内容を規制するようになった。自殺や自傷に関連したつぶやきをしたり、検索すると「あなたの思いをそのまま聞かせて」と表示される。相談窓口への案内が表示される。

場合によっては、アカウントにロックをかけたり、凍結させたりする処置を取ることがある。

沙織の場合も、今年の8月に書き込んでいた内容について、9月になってから、「Twitterルールに違反する」として、運営側からアカウントをロックされた。Twitterにつながりを求めていた沙織はどうしたのだろうか。

「もうTwitterを開かないようにしました。その代わりに、部屋で一人、発狂しています。大声で叫んでいるんです。親には知られていないと思います。発狂すると、疲れるので寝ます。起きたら学校へ行きます。そして、塾から帰宅して、また発狂......の繰り返しですね」

Twitterでつぶやくことも部屋で発狂することも、沙織にとって気分としては「どっちもどっち」だ。その結果、アカウントを開かず、Twitterからは消えた状態になった。求めていた“繋がり”について、どう思っているのか。

「これまでTwitterのつぶやきはたまに読み返していました。つぶやいていた内容は似るじゃないですか。だから読むと、だんだん心に染み込んでくる。つぶやくことで気持ちを消化できましたが、Twitterは書くことで言葉が残る。ずっとその気持ちに縛られます。発狂は言葉にしているわけではないので、縛られなくてすみます」

相談に乗ってくれていた塾講師「生きて大学生になって」

ネット・コミュニケーションではポジティブな感情よりも、ネガティブな感情のほうが残りやすく、連鎖しやすいとも言われたりする。

つぶやくことで気持ちの整理ができた部分もあるが、Twitter断ちをすることで、感情に縛られないようになっていった。

Twitter断ちができた理由は、もう一つある。

沙織にはこれまででただ一人、親身に相談にのってくれる塾の講師がいる。その講師は、母親が過干渉と気づき、親との関係が悪いことを考慮して、遅くまで塾にいることを認めてくれた。一時期は、家庭教師もしてくれていた。

その講師からこう言われた。

「無事に大学生になってくれればそれだけ嬉しい。生きて大学生になってほしい」

沙織の胸にその言葉は響いた。

「このままでは“無事に大学生”になれないと思いました。こんなこと身の回りの人は言ってくれません。親身になって話を聞いてくれた人に言われると、さすがにこたえるものがありました。死にたい気持ちを抱えているけれど、行動まで荒れなくてもいいのかな」

今ではその講師は塾を辞めたために、LINEでたまに連絡をとる程度になっている。現在の講師は「微妙い(びみょい)」といい、安心感はない、という。

今後、沙織は、大学に合格したとしても一人暮らしは許されないため、親からの過剰な期待から解放されるのはまだ先だ。大学進学を契機にリアルな人間関係の中で安心感を築けていけるだろうか。

【渋井哲也(しぶい・てつや)】

1969年、栃木県生まれ。長野県の地方紙の記者を経てフリーライター。教育学修士。98年ごろ、家出、援助交際、摂食障害の取材で「生きづらさ」という言葉を聞いて以来、若者の生きづらさをテーマに、自殺、自傷行為などに目を向ける。そのほか、少年犯罪、いじめ、教育問題、ネット・コミュニケーション、ネット犯罪なども取材するようになる。東日本大震災やそれに伴う原発事故・避難生活も取材を重ねた。

著書に『命を救えなかった 釜石市・鵜住居防災センターの悲劇』(第三書館)『絆って言うな 東日本大震災ーー復興しつつある現場から見えてきたもの』(皓星社)『自殺を防ぐためのいくつかの手がかり』(河出書房新社)『明日、自殺しませんか 男女7人ネット心中』『実録 闇サイト事件簿』(いずれも幻冬舎)『学校裏サイト』(晋遊舎)『ウェブ恋愛』(筑摩書房)『出会い系サイトと若者たち』(洋泉社)『チャット依存症候群』(教育史料出版会)『アノニマス ネットを匿名で漂う人々』(情報センター出版局)など。

ホームページ「てっちゃんのお元気でクリニック」 ツイッターIDは @shibutetu


訂正

MARCHで法政が抜けていたので追加しました。