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「こんな無理ゲーな制度だとは…」海外に住む日本人が感じた不便。投票めぐりネットで集まった声

海外に住む日本人が、ネット投票で在外投票できるようにと求める署名に、1万6千筆以上が集まっています。

「私も今回、初めて利用しようとするまで、こんな無理ゲーな制度だとは知りませんでした」

昨年10月の衆議院議員選挙で、イタリアから郵便を使った投票を試みた日本人女性は、そう話します。

なかには、コロナ禍の影響で国際郵便に時間がかかったり、大使館での投票が行われなかったりして、泣く泣く投票をあきらめた人も。

いま、海外に住む日本人が「ネット投票」できるよう求める署名に、1万6千筆以上が集まっています。

《選挙の2ヶ月後に投票用紙が届いた》

《在外公館が遠すぎて往復3日かけて投票に行った》

《大使館での投票が行われず投票できなかった。その連絡もなかった》

これらは、衆院選での投票をめぐる、海外に住む日本人の経験です。

コロナ禍かつ、解散から投開票までが戦後最短の17日という選挙で、Twitter上などでは、在外投票制度の問題点を指摘する声があがっていました。

「ネットで投票できれば便利なのに」という多くの声を受けて昨年11月、在外ネット投票の早期導入を求めるオンライン署名運動が立ち上がりました。

署名では、今年の夏に実施される予定の参議院議員選挙で、海外に住む日本人を対象にしたネット投票の実証実験を行うことなどを求めています。

郵便投票間に合わない…2万6千円かけ投票へ

署名を立ち上げたのは、アメリカ、イタリア、ドイツに住む日本人女性3人です。

以前から、在外投票制度に問題意識を抱いていたという3人。衆院選の際に海外に住む日本人から「投票できなかった」「大変すぎる」という声が多くあがったことから、署名を集めることを決めました。

BuzzFeed Newsの取材に対し、郵便投票が「無理ゲーな制度」と語ったのは、署名発起人の一人で、イタリアに住む田上明日香さんです。

海外に住む日本人が投票するには、以下の3つの方法があります。

①在外選挙人名簿への登録の上、大使館や総領事館などで行う「在外公館投票」

②登録の上、国際郵便で投票する「郵便等投票」

③一時帰国して投票する「日本国内における投票」

これまでは在外公館投票でイタリアから一票を投じてきた田上さん。しかし、コロナ禍の影響を避けるため、今回は郵便投票の準備をしていました。

「初めて郵便投票の準備をしました。9月に在イタリア日本大使館から、コロナ禍で在外公館投票が実施されない可能性があるというメールがきたからです。有権者が感染者や濃厚接触者になる可能性もあるため、郵便投票を推奨する、とのことでした」

ところが、そこに壁が立ちはだかります。

「(日本へ)郵便投票用紙の請求を送ったのですが、コロナ禍で国際郵便が遅れていて、イタリアから日本まで20日間かかっていました。公示日翌日から投開票日までの12日間では、どんな郵便をつかっても絶対に投票が間に合わないと思いました」

このままでは票が無効になってしまう。やむなく、ローマの在外公館での投票に切り替えました。

ペルージャにある自宅から片道4時間かけて投票へ。交通費に100ユーロ、宿泊費に100ユーロ、投票するためだけに約2万6千円もかかってしまいました。

ネット投票制度さえあれば、かけずに済んだ費用です。

「世界中から同じように、『郵便投票が間に合わない』『在外公館投票が実施されない』という声がTwitterで集まってきました」

「ネット投票という選択肢を作ってほしい。今は、その選択肢すらない状態です」

書類にあった「必ず投票しましょう」の言葉

《貴重な一票です。必ず投票しましょう》

田上さんが郵便投票を試みた際、郵便投票の説明書に、そう書かれていました。

どうにか投票できる道を探そうと努める在外邦人が多くいる中で、「制度に色々な問題があるのに、有権者側が悪いと『自己責任論』を押し付けられているような気持ちになった」といいます。

投票したいのに、制度などの問題でそれが果たせない人もいる。「投票は民主主義の根幹に関わること」と、改善の必要性を強調します。

在外公館投票をめぐっては、コロナや紛争を理由に、15以上の在外公館で在外投票が見送られました。

「国際郵便での郵便投票などが困難なのは、今回だけでなくずっとあった問題。国はずっと放置してきたんです。問題があることはわかっているのに、解決に至っていないようです」

「海外からの在外投票の投票率は(在外邦人全体の)約2%。2万人くらいなので、重く受け止められていないというか、後回しになっているのかもしれません」

外務省によると、海外に住んでいる日本人は、2020年10月現在で約135万人。うち、在外選挙人名簿の登録者数は9万6664人で、実際に衆院選で投票したのは約1万9千人でした。

登録者の中での投票率は約20%でしたが、選挙権を持つ在外邦人全体で推計すると、投票率は約2%にとどまっているのが現状です。

ネット投票が導入されれば、海外からの全体の投票率も上がるのではと田上さんは考えています。

「署名きっかけに、前向きな後押しできれば」

総務省は2020年2月、国政選挙で海外からネット投票するための実証実験も行いました。

マイナンバーカードを使って、スマホやパソコンから本人確認をし、パスワードなどを入れて投票する仕組みです。

「2020年には実証実験もあり、結構いいところまできてるんだとわかった。今回、(衆院選で)ここまで問題が大きくなって、Twitterで話題になったり、多くのメディアにも取り上げられたりしました。もう無視できないところまで来たのかなと思います」

「私たちの署名運動をきっかけに、前向きな後押しをできれば。現実的に導入するにはどうすればいいのかという対話に持っていきたい。署名提出で、その思いを国に伝えたいと思います」

田上さんらは近く、外務省や総務省、デジタル庁の担当者らに、オンラインで署名を提出する予定です。