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もう令和なのに… なんでまだネット投票できないの? いつ実現するの…?専門家に聞いた

7月10日に投開票日を迎える、参議院選挙。日本では、なぜまだネット投票ができないのか。専門家に聞いてみました。

「なんでまだ、ネット投票ができないの?」

7月10日投開票の参議院選挙を前に、BuzzFeed Newsが選挙をめぐる疑問を読者に聞いたところ、最も多かったのが「ネット投票」に関する質問でした。

様々な分野でDX化が進む中、導入されていない理由は?次の選挙では実現できそう?

ネット投票を巡る問題に詳しい、明治大学教授の湯淺墾道(ゆあさ はるみち)さんに話を聞きました。

ーーネット投票を巡っては政府でも長く検討が続き、総務省は2020年に都内で実証実験もしています。なぜ、まだ導入が実現しないのでしょうか?

3つの大きな理由があります。

一つ目は、日本では以前、地方の選挙で(投票所でタッチパネルで投票してもらう)電子投票を導入した際に、大トラブル(投票システムが過熱してダウンし、多くの有権者が投票を断念。のちに裁判で「選挙無効」の判決が出た)を経験しているので、よく言えば「慎重」、悪く言えば「臆病」になっているのですね。

二つ目は、日本では地方選挙で電子投票が導入されて20年くらいになりますが、当時に比べると、サイバーセキュリティ問題が複雑化しています。

当時では考えられなかったようなサイバー攻撃があるのは事実です。サイバー攻撃に対応することは、一つのネックになっています。

三つ目は、政治の決断の問題です。最後は政治の決断になります。

選挙のやり方を決めるのは公職選挙法です。そこに特例を作る作らないも含めて、法律ですから、国会で法律を改正すればネット投票もできるようになります。

かつ、選挙に関する法律は多くは政府が法案を提出するのではなく、議員立法といって国会議員側から提出することが多いんですよね。

なので、国会議員が超党派で、皆でやろうと提案すればよいわけですが、その動きがまだ、なかなかない状態です。

ーーそのような動きがまだ出ていない背景にはどんな理由が考えられますか?

ネット投票に対しては、政治家の間でも、有権者の間でも、温度差があります。

都会に住んでいる人や都会の選挙区の議員は、みんな忙しいしスマホを使っているのも当たり前なので、「なんでネットで投票できないんだろう」と思うかもしれません。

逆に高齢者が多い地域の議員や、自分自身が高齢者である議員は「今のままで十分じゃないか、なぜ変える必要があるのか」と思っているのでしょう。

しかし、強く反対する層も、前に比べると少なくなってきたと思います。

地方では特に、台風などの災害が増えてきていますし、離島や山奥などでは投票に行ったり、開票のために票を運んだりすることが大変です。

高齢化がますます進行していることや災害が増えていることもあり、だいぶ意識が変わってきたのかなという気がしています。

DX化は、都会に住んでいる若者だけが恩恵を受けるわけではないです。地方にいる人や高齢者も投票が便利になります。

ーーネット投票が導入されても、従来の紙での投票は残るんですよね?

はい。そうなると思います。

ーー技術的には、もうネット投票は導入可能な段階なのでしょうか?
湯淺さんも委員を務められた、総務省の「投票環境向上方策等に関する研究会」による報告書では、様々な技術的な課題への対応が「可能」だとありました。

はい。対応可能ですし、導入も可能だと思います。

インターネット投票と言うと必ず、「票を改ざんされたら」「システムを乗っ取れたら」という懸念の声がよく出ますが、現実に、これまで世界各国で行われた様々な形式のオンライン投票で、票が書き換えられたり、票がバッサリ消されたりというトラブルの事例は、ありません。

技術的な恐れは指摘されています。しかし、現実に票が書き換えられたという事例は、これまでにありません。

ほとんどのインターネット投票は、その票自体は暗号化されていますので、そう簡単には変えられないんですね。

高まるネット投票を求める声。まずは在外投票から?

ーーネット投票を求める声は、特に海外に住む日本人から強く、今年1月には、在外選挙からネット投票導入を求めるオンライン署名2万6千筆以上が外務省などに提出されました。ネット投票を求める世論の高まりを感じますか?

そうですね。まず、在外の方はすごく盛り上がってると思います。

国内でも色んな分野でのDX化が一気に進みつつあります。「なんで一番肝心な選挙だけできないの?」って、皆さん素朴な疑問があるんじゃないでしょうか。

ーー昨年10月の衆院選では、コロナ禍の影響でさらに国際郵便に時間がかかったり、大使館での投票が行われなかったりして、投票ができなかった在外邦人が相次ぎました。やはりネット投票を導入するなら、まずは在外投票からの導入になるのでしょうか?

はい。僕はそう思っています。

ーー次にある3年後の国政選挙で、在外投票でのネット投票導入は可能だと思いますか?

そこは、政治の決断です。

なぜ在外投票から導入した方がいいのかという理由ですが、昨年の衆院選でも現実に、在外投票では、多くの方が投票できませんでした。

在外投票制度を設けている以上、ちゃんと投票できるようにすべきだと思います。

ネット投票って、実際どんな感じになる?

ーー実際に導入されたらどのような形になるのでしょうか?

パソコンにカードリーダーをつなぐ形と、スマホの2パターンが考えられています。

マイナンバーカードがiPhoneを含むスマホ対応ができるようになったので、実際は多くの方はスマホの裏側にマイナンバーカードをセットして、スマホで操作するという形になると思います。

どのようにネット投票を案内するかや、投票後の票を紙の票とマージして集計する方法など、未定の箇所もたくさんあります。

ーー導入には、お金がかかってしまうという課題もあるのでしょうか?

あります。やはり結構お金がかかってしまうというのは、課題ではあります。

というのも、今の選挙のやり方では、選挙公営といって政見放送や新聞広告、選挙はがきの費用を税金でまかなうことが多く、選挙の管理のための費用は人件費以外にはあまりお金がかかっていません。

投票所や開票所は、なるべく小中学校など公共施設を使って、お金をかけないようにしているし、かかるお金というと、大体が外注であるポスター掲示板の設置費、選挙公報の費用、投票所の入場券を郵送する費用などがせいぜいです。

あとは、投票所の立会人に支払う報酬。ほとんどの自治体は投票日の夜に開票するので、職員の残業代や休日出勤手当等の人件費がかかります。

その人件費が削減できる代わりに、システムのお金はかかります。

実はタッチパネルの電子投票は日本の地方選挙でも…

ーータッチパネルで投票する形の電子投票が2002年、初めて岡山県新見市で導入された時、当時は「もうこのまま国政選挙での電子投票の導入、ネット投票導入まで進んでいくぞ!」という雰囲気だったんでしょうか?

そうですね。この調子で少しずつ実績を積み上げていけば、国政にでも導入できるだろうと、みんな思っていました。

それが、岐阜県可児市議会議員選で行われた電子投票で、大トラブルが起きてしまったので、もう一気に冷めて、そんな危なっかしいことはできないという雰囲気になりました。

エストニアでは2007年にネット投票導入。海外での導入例と課題は

ーー国外では、エストニアがいち早く2007年から国政選挙でネット投票を導入しました。導入当初は利用者が数%と低かったのが、今は有権者の40%ほどがネットで投票しているということです。それは普及のための呼びかけなどがあったのでしょうか?

やはり若い世代を中心に、みんな便利だということで多くの人が使っているのだと思います。

毎回の選挙で少しずつ改善のためにバージョンアップをしています。

一番大きい改善は、スマホでも投票ができるようになったことです。エストニアでは、日本と違ってスマホの中に電子証明書を入れられるので、カードがいりません。

「モバイルID」というもので、アプリをダウンロードしてそれがマイナンバーカードのような感じで投票ができます。

ーーフランスなど他の国も追って、在外投票などからネット投票を導入しましたが、中止している動きもあるようです。なぜでしょうか。

フランスの場合は、大統領選挙の際にサイバー攻撃が起きました。インターネット投票自体もサイバー攻撃される危険性が高いということで、中止になりました。

そのような可能性があるから、慎重派の人は「やはりまだ導入すべきでない」と言います。

一方で、在外投票などでは、郵便事情が悪い国もあり、実際に投票ができない日本の有権者たちが相次いでいます。

そのように、ネット投票を必要としている人たちがいるので、やはり私は、いろんな意味で、まずは在外投票から導入すべきだと考えています。

しかし、在外投票での導入には、別の危険性もあります。

いろんな国でインターネットが遮断されるということが起こっています。

ーーたしかに、ミャンマーで2021年に軍事クーデターが発生した後も、ネットが遮断されました。

ミャンマーでもありましたし、中国などでは、特定のアプリやサイトにはアクセスできません。

インターネットの遮断や、アプリ自体が使えない、特定のサイトにアクセスできないとなると、投票できなくなってしまうので、在外は在外で固有のリスクがあり、対応が必要になる可能性はあります。

もし導入することになったら…様々なリスクへの対応は

ーー停電や、投票先の強要、なりすましの不正などへの対応は、どうでしょうか?

停電の問題も指摘されますが、停電になったら紙でも投票できません。

投票所では、選挙人名簿の確認のためのパソコン、投票用紙を有権者1人に1枚確実に渡す機械など、多くの電子機器を使っているからです。

開票の時に停電になったら、投票用紙を数える機械や、投票用紙に記入してある候補者や政党名を読み取ってデータにする機械が使えなくなります。

強要やなりすましの問題については、技術的にいろんな提案があります。

例えば、投票の際にアプリを使う場合、投票の間だけカメラをオンにしてもらうなど、技術的なアイディアはいくつか提案されていると思いますね。

なりすましは、マイナンバーカードを利用すれば防ぐことができます。

一方で、今の紙の投票でも、強要は起きているのではないかという指摘もあります。もちろんDX化で、紙の投票の時よりもひどくなってしまったら困ります。しかし、「インターネット投票にすれば強要が発生するから危ない」ということではないと思います。

いま指摘されているリスクは「ネット投票だけ」のリスクとはいえないものが多いのです。

逆に、むしろあり得る懸念としては、個人のスマホやパソコンで投票していただくことになるので、個人のスマホやパソコンがウイルスに感染してしまっていることなどです。

あるいは投票するサイトだと思ったら偽サイトだった……など。むしろ危険性があるとすればそのような点です。

個人的な意見では、偽サイトが出ないように、マイナポータルなどから入る方が安全だと思っています。

日本でネット投票を導入するメリットとリスク…「何を優先するか」

ーー特に若者世代の低い投票率も問題になっていますが、ネット投票は若者やさまざまな世代の低投票率も改善する手立てになりますか。リスクがネックになって、やはり導入が進まないのでしょうか

確かに、いろんなリスクがあることは否定できません。電子機器ですから、やっぱり人の目に見えないので、紙の投票の方が安心だという考え方も否定できません。

特に選挙管理委員会などは、目に見えないものは特に不安なわけで、万が一トラブルになったらどうしようという不安があります。

一方で、この超低投票率を放置していていいのでしょうか。

立場によって問題意識が大きく違います。何を優先するかということだと思います。

こんなにも「一票の格差」が大きな問題になっているのに、「世代間格差」については、なぜこんなにも皆、無頓着なのだろうかとも思います。

政治家にとっては、得票の絶対数が高齢者が多いのは事実ですから、どうしてもそちらに顔を向けがちですが、世代間不平等の問題はもっと解決しなきゃいけないと思っています。

地方などから進学した大学生が、住民票をうつしておらず、不在者投票も手続きが大変だと、投票しない人が多い問題もあります。

ネット投票を導入すれば、不在者投票はかなりやりやすくなると思います。

やはり、若者世代がもっと投票しやすくするということは、世代間格差の是正という意味でも、非常に重要だと思います。


7月10日に投開票日を迎える参議院議員選挙。

なんで選挙カーってあんなにうるさいの? ネット投票まだ? 投票方法から選挙の仕組み、選挙運動の謎までーー。

BuzzFeed NewsのLINE公式アカウントやInstagramに読者のみなさんから寄せられた「#選挙のなんでなん?」を、記者が取材しました。

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