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生活に困窮し、相談先もない…ベトナム人技能実習生らのSOS。ホットラインに寄せられた声

新型コロナウイルスの影響で、生活や仕事に大きな影響があった、ベトナム人技能実習生のための電話相談会が開かれました。

「コロナの影響で仕事がなくなり、解雇されそうだ」「休業手当が他の日本人と同じように支払われていない」

日本で働くベトナム人技能実習生から、電話相談に深刻な声が次々と寄せられた。

新型コロナウイルスの影響で、収入が大幅に減ったり、生活に困窮したりと困っているベトナム人の相談を受けるために6月9日、全国5拠点でホットラインが開かれた。

コロナの影響は、在留資格などが原因で弱い立場にあったり、頼る先や情報源、相談先がなかったりする外国人の生活を直撃している。

日本に技能実習生などとして来ているベトナム人から、ベトナム人のカトリック司祭や修道者に、コロナの影響での生活困窮や労働問題の相談が多く寄せられ始めたことをきっかけに、今回の電話相談が行われた。

東北から九州まで全国から41件の相談

この日、「新型コロナ・ベトナム人技能実習生ホットライン」が開催されたのは、北海道、岐阜県、東京都、大阪府、福岡県の5カ所。

ベトナム人が多く居住し、ホットラインを実施した外国人・技能実習生の支援団体やキリスト教関連団体のネットワークがある拠点で開かれた。

東京都では聖イグナチオ教会(千代田区)でホットラインが開かれ、ベトナム人の神父やシスターらが電話で話を聞き、通訳や労働問題などを専門とする弁護士7人、支援者らがチームを作って相談に応じた。

技能実習生を中心に相談を呼びかけたが、留学生や、別の在留資格で働く人々からも相談が寄せられた。

午前10時から午後4時までホットラインが実施され、青森県から鹿児島県まで全国各地に住むベトナム人から、5拠点で計41件の相談が寄せられたという。

弁護士がその場で対応できる場合は、対応策などを説明し、迅速な支援などが必要な場合は、各地の拠点で活動する支援団体などが後日、実際に対面で対応する仕組みだ。

このホットラインを共催したのは、外国人技能実習生権利ネットワークと、日本カトリック難民移住移動者委員会(J-CaRM)。移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)とイエズス会社会司牧センター。

外国人技能実習生権利ネットワークの運営委員・旗手明さんは、「今回のホットラインでは、コロナの影響での労働問題の他に、以前から存在していた技能実習制度に関連する問題がありました」と話す。

「コロナの影響で技能実習生では仕事がなくなったり、留学生もアルバイト収入が激減したりして、困窮しているのに、寮費・家賃や光熱費などは減らず『生活が苦しい』という声が多くありました。技能実習生では、他にも暴力や賃金不払いなどの問題もありました」

相談者の中には、在留資格の期限をすぎて日本国内に残っているオーバーステイ(超過滞在)の状態の人も20人ほどいたという。これらの緊急の対応が必要な人に関しては、現地で対応をする予定だ。

「技能実習生への影響が絶大」指宿弁護士

相談に応じた外国人労働者弁護団代表の指宿昭一弁護士は、技能実習生や外国人労働者が直面する状況について、こう語った。

「正しい情報が行き渡っていません。自治体などはワンストップの相談窓口などを設けてはいますが、足りていないし、知れ渡っていない。相談先や相談窓口の重要性も感じました」

今回のコロナの影響での経済的打撃では「技能実習生への影響が絶大」だと話す。

コロナ感染が拡大してからは、国際航空便の運航が止まったりして、まず技能実習生が日本国内に入国することができなくなった。そして、国内で既に働いている技能実習生も、勤務先の会社が倒産しかけていたり、仕事がなくなっているなどの状況があるという。

指宿弁護士は「(2008年の)リーマンショックの時には、工場で働く日系南米人の派遣労働者らが派遣切りにあいましたが、今回の技能実習生への影響は桁違いになると予想されます」と指摘する。

今回のホットラインで41件の相談が寄せられたが、これも全体のごく一部だ。今後さらに技能実習生や外国人労働者の労働問題が増えてくることが予想されるという。

「外国人は言語の問題などで相談先にもアクセスが悪いので、これから表面化してくる問題があると思います」

また、「コロナは、元々あった社会のあらゆる問題を表面化しました」とした上で、外国人の労働問題に関しても「技能実習制度では仕事の変更ができないなど、制度のおかしいところなどが表面化されたと思います」と指摘した。

10万円対象外の人も、それでも「生きなければいけない現状」

政府による現金10万円を一律給付する特別定額給付金事業では、外国人でも、2020年4月27日現在の住民基本台帳に地元自治体の住民として記録されている場合は、対象となる。

今回、生活に困窮している人たちの中には、対象になる人もならない人もいた。

外国人技能実習生権利ネットワークの旗手さんは、受給対象になってもならなくても「生きていかなかければいけない現状がある」とし、「対象外の人々への支援を政府はせずに、NPOやNGO任せにしている」と指摘した。

現在、ベトナムへの帰国を希望する人は駐日ベトナム大使館を通じて、順次、帰国することもできるが、帰国希望者が多く、順番待ちの状態だという。

日本国内にとどまらざるをえない状況下でも、在留資格の問題で働くことができなかったり、現金も底を尽きて、生活に困窮している場合がある。

今回、ホットライン実施に協力団体として参加した移住連では、そのような10万円支給の対象外になり、生活困窮している人のために、「新型コロナ 移民・難民緊急支援基金」を設立し、現金を支給する活動をしている。

この緊急支援基金では、5月8日に募金の呼びかけを始め、6月2日までに750万円を超える額が集まった。順次、支援が必要とされた人々に現金3万円を支給している。

日本全国4500人に米など食料の支援

今回、ホットラインで相談に応じた、イエズス会社会司牧センターのヨセフ・グエン・タン・ニャー神父らは、4月から、食料に困窮する各地のベトナム人に食糧支援も実施している。

「全国の教会でベトナム人司祭などが、生活に困っているベトナム人の対応をしていましたが、『米が買えない』という相談もあり、米や食料などを送る支援を始めました」(ニャー神父)

こうして始まった「一杯の愛のお米プロジェクト」では、これまでに北海道から九州まで、全国約4500人分の米や砂糖、カップ麺などの食料パッケージを送ってきた。

それらは信者や支援者などの現金や米の寄付によって支えられている。1つのパッケージには、1人、2〜3週間分の食料が入っているという。

全国各地の教会では、ベトナム人を対象にしたベトナム語でのミサも実施していて、東京でのホットラインが実施された聖イグナチオ教会では、月2回のベトナム語のミサに、1000人ほどの人が訪れるという。

生活相談なども寄せられる教会は、いわば「セーフティーネット」のような場所にもなっていたが、コロナでミサも中止になり、教会に頼っていた人が相談先がなくなっていた状態だったのだ。

「技能実習生などは毎月、給料が出たらベトナムの家族などに送金していて、収入が入らない状態になると、手元にお金がない状態なんです」

食料支援は、6月21日まで続ける予定だ。