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「ミスをすると蹴られ、平手打ちも」「妊娠したら解雇された」300を超えるSOS。いま実習生に起きていること

帰国できない、職場で暴力を受けている、妊娠して解雇されたーー。ベトナム人技能実習生向けのホットラインには、次々と相談が寄せられています。コロナ禍で実習生たちが置かれる現状とは。

「暴力を受けている」「妊娠したと伝えたら解雇された」ーー。

支援団体が実施するベトナム人技能実習生向けのホットラインには、全国各地から多くの相談が寄せられる。

実習先の企業で暴力や不当な扱いを受けたり、コロナ禍で帰国困難、失業などの状況に置かれる実習生らの相談に、弁護士や専門家が応じ、解決法を探る。

2020年6月から始まったホットラインは、今月で10回目を迎えた。これまでの相談件数は340件以上に上る。

今、実習生たちが抱える問題とはーー。相談にあたる支援者を取材した。

7月3日の第10回目のホットラインは、北海道、岐阜県、東京都、大阪府、広島県、福岡県の6拠点で開かれた。

ホットラインを共催するのは、「外国人技能実習生権利ネットワーク」「日本カトリック難民移住移動者委員会(J-CaRM)」「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」「イエズス会社会司牧センター」。

東京都では聖イグナチオ教会(千代田区)を拠点に、Facebookメッセンジャーを通して実習生から話を聞き、労働問題などを専門とする専門家や弁護士、通訳がチームを組んで相談に応じた。

実習生をメインに相談を受け付けているが、元実習生や他の在留資格のベトナム人からも相談が寄せられた。

暴力、妊娠、不当解雇ーー。

主催者は、過去1年の相談内容を分析。

寄せられたSOSには、コロナ禍での失業や帰国困難、休業手当の不払いといった問題もあれば、暴言・暴力、不当解雇など従来からの問題がコロナと絡み合うことで、より深刻化したケースもある。

実際にホットラインに寄せられた声には、こんなものがあった。

《茨城県の縫製会社で働いていたが、8人のグループの誰かがミスをすると翌朝3時まで働かされることもよくあった。土日は無償で農業をさせられた。このため実習先から逃げて働き、ビザが切れる前に入管に行った。今は短期滞在の在留資格がある》

《建設会社で働いていたが、社長の息子に何度も何度も殴られ、ひどい暴力を受けた。1年半ほど働いたところで『お前はもういらない。ベトナムへ帰れ』と辞めさせられ、監理団体に預けられた。辞めさせられたのだが、自分で辞めた旨の書類にサインさせられた。別の実習先を探してくれるよう監理団体や技能実習機構に頼んでいるが、何もしてくれない》

実習先の日本人からの暴力についての相談も多く、「ミスをすると蹴ったり、首や頭をつかんだり、平手打ちをする」「社長から棒で目をつかれた」「胸ぐらをつかまれコンクリートの壁にたたきつけられた」などのSOSが寄せられている。

外国人技能実習生権利ネットワークの運営委員・旗手明さんは、実習生への暴力についてこう語る。

「暴力の問題は建設関係で目立っています。建設業界では元々、日本人労働者に対しても暴力が起こっているのかもしれませんが、言葉が不自由な技能実習生に対し、非常に手が出やすい状況が生まれています」

「コロナの影響で仕事が減った時期には、仕事がうまくいかないストレスのはけ口に、技能実習生がなっていました」

また、女性技能実習生からは妊娠や出産に関する相談も。「妊娠したことを会社に伝えたところ、解雇された」「会社に妊娠を伝えたら解雇されるかもしれない…」などの声も寄せられた。

技能実習生にも、日本人労働者と同様に労働関係法令等が適用されるため、妊娠・出産を理由に不当に解雇したりすることは法に基づき認められない。

外国人技能実習機構や出入国管理庁は、このことについて繰り返し実習先の事業社に注意喚起しているが、不当な扱いを受ける実習生が後を絶たない。

コロナ禍で柔軟な対応あったが…

コロナの感染拡大に伴い、失業したが帰国できなかったり、仕事が大幅に減って生活がままならなくなったりした実習生が多く出た。

政府は、6ヶ月間の特定活動で働きながら在留し続けられるよう、制度を整えた。

旗手さんは「柔軟な対応だった」としつつ、制度の抜本的な改革や、緊急時のサポート体制の整備が必要だと訴える。中には、失業して帰国もできず生活困窮や失踪に追い込まれたケースもあるためだ。

一方、コロナ禍で航空料金が高騰し、従来の予算を超過した帰国旅費について、実習生に一部負担するよう求めるケースなども出ているという。

政府は実習生に帰国費用を負担させることを禁じているが、航空料金の大幅な値上がりで、監理団体の負担が増えていることも事実だ。

「本当に氷山の一角」「機構、本来の役割果たしていない」

移住連の山岸素子さんは、1年にわたる10回のホットラインを振り返り、こう話した。

「寄せられた相談は本当に氷山の一角。40万人近くの技能実習生がいる中で、救済されない人がどれだけいるのか。外国人技能実習機構が本来の役割を果たしていません」

旗手さんは言う。

「コロナ禍で制度の想定外の問題が多く起きています。せっかく日本に働きに来てくれた人たちなので、きっちりサポートしていかないといけません」

「外国人技能実習制度については、見直しの時期に来ています。ホットラインで把握した問題を制度の改善に結び付けるために、今後は政策提言などをしていきたいと思います」