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「就活での性差別、やめてください」大学生やマナー講師が声をあげる理由

「就活セクシズムをやめて」「就活にも多様性を」ーー。署名を立ち上げたメンバーの思いとは。

面接では「自分らしさ」や「個性」を尋ねるのに、服装やマナーで「女性はこう、男性はこう」と性別で「らしさの押し付け」をするの、やめませんかーー。

大手求人サイトや就活マナー本を出す出版社、スーツ販売をする企業などに対し、「就活セクシズムをやめてください」と求める署名に、1万3千筆以上が集まっている。

署名を始めた人たちの思いとは。メンバーに話を聞いた。

署名を始めたのは、就職活動中の性差別などを理由に、一度は就活を諦めた現社会人や、大学生、そしてマナー講師など約10人。

それぞれが現在の就活で、性差別が「普通」「マナー」とされているのを経験したり見たりし、「令和の時代にあってないのでは」と問題提起するために署名を始めたという。

「女性はこれ」「男性はこれ」その服装の“マナー”、必要?

署名にある「就活セクシズム」とはどういう意味だろうか。

「セクシズム」は性差別を意味し、「就活セクシズム」は就職活動の中で起こっている性差別のことを指す。

署名では、「極端に二元化した男女別スタイルやマナーの押し付けをやめ、多様性のある装いの提案」と「女性はこうするべき、男性はこうするべきとの偏った表現の見直し」を求めている。

「ボタンを留めることで女性ならではの程良い"曲線美"を強調」「『体のラインがでるのは恥ずかしい…』と大きめサイズを選ぶと、だらしない印象を与えかねません」

これらは、実際にスーツ販売の企業などが就活の「身だしなみマナー」で使っている文言だ。

また女性の就活生向けのマナーとして、「ノーメイクはマナー違反」「パンツスーツよりスカートを」「ストッキングを履き、ヒール付きパンプス着用」などが推奨される。

署名では、このような女性だけに「美しさ」を求めたり、男性に対しても「男らしさ」を強調する装いを推奨したりする就活マニュアル本などに、改善を求めている。

「自分らしさ」や「個性」を問う就活で、性別による「男らしさ」や「女らしさ」の強調をマナーとすることをめぐり「“性役割”を押し付けるのをやめて」と署名が立ち上がった。

「性別はグラデーション」とも言われ、トランスジェンダーやXジェンダーなどに当てはまる人たちもいる。性別は女と男の2種類に単純に切り分けられるものではないため、就活マニュアル本やスーツの広告などで二元論化した表現に疑問を投げかけている。

署名のコメント欄には、就活の服装やマナーで辛い思いをしてきた人から賛同の声が寄せられている。

日本の謎の就活マナー、ずっと疑問に思ってました。女性はこうあるべき、男性はこうあるべき、とジェンダーの形にはめるのも嫌でした。

こんな思いを抱えているのは自分一人なんだ、とばかり考え続けてきました。本当は苦しかったです。叫び出したかったです。心から賛同致します。

基本的に面会する相手に対して失礼のないようにさえ気をつければ何を着用しても問題ないはず。就活ルックって、いったい何のために生まれたのか。

「二元論の就活の服装、マナーに心が折れ、一時は就活を断念」

署名を立ち上げたメンバーには、就活での「女性らしさ」の押し付けに耐えられず、就活を断念したメンバーが複数人いる。

署名の中心メンバーの水野さんは身体は女性だが、自身を女性でも男性でもないと考えるXジェンダーだ。

水野さんにとって、女性と男性の2種類でリクルートスーツの装いやスタイルが決まっている就活は、とても辛く「耐えられなかった」と話す。

「二元論の就活の服装、マナーに心が折れました。自分のジェンダー表現に合わない服を着ることができず、就活ができなくなり一度は断念してしまいました」

「しかし『新卒カード』ともよく言われるし、親にも顔向けできず、仕事は探さないといけなかったので、スーツ屋を2、3軒まわりました。できるだけくびれを強調しない形、丈が長くお尻が目立たないスーツを探しました」

「新卒カード」とは、日本での就職活動では、新卒が圧倒的に優位であることを表す言葉だ。それにより「新卒として内定を取らなければ」と重圧を感じる学生も多い。

職を新たに得たり変えたりすることは本来、人生のどんな時期にも起きえることだ。

しかし、日本では企業での採用形態の主流が新卒の一括採用であるため、「新卒カード」が極度に強調される形になっている。そして、精神的に追い詰められてしまう学生もいる。

そして多くの社会人が思い当たる通り、市販されている「就活スーツ」は、実際に就職してしまえば、その後の日常業務で着用することはほとんどなくなる。

体の線が強調されるスーツへの嫌悪感、パンプスの痛さ

自身の経験を振り返り、水野さんは「ジェンダーマイノリティーの人たちに、就活のマナーのしわ寄せがいっている」と話す。

一方で、「シスジェンダーの人でも(現状の二元論の就活マナーを)嫌だなと思う人はいるし、全ての人に関わる問題」だとも説明した。

水野さんと同様に、服装などを理由に就職活動を断念した署名メンバーの30代の女性は、体の線が強調されるスーツへの嫌悪感やパンプスの痛さに「これをあと何回やるんだろうと思い気が遠くなった」と話す。  

「自分は少数派だと思っていたけど、実際に署名をはじめてみると、同じような思いを持っている人が多くいるということが可視化されました」

これから就活を始めるという20代の学生は「Xジェンダーやトランスジェンダーの人たちもいますし、女性の中でもヒールやパンプスを履きたい人もいれば、履きたくない人もいます」として、企業側に多様性を認める姿勢を求める。

「現状にあったマナーの設定を。見直すべき」マナー講師の思い

メンバーの中には、就活生向けの講習や新入社員研修などでも教えるマナー講師もいる。

フリーランスのマナー講師として活動する篠原匡朱子さんは「マナー講師としても、そろそろ現状にあったマナーの設定や、見直しをするべきなのではと思い(活動に)参加しました」と話す。

就活マナーなどを教えている際にも、女子大学生から「タイトのスカートを履かないといけないんですか?」と真剣に質問されることもあったという。

「タイトスカートやパンプスは単純に動きづらく、また普段着なれていないものを着て就職活動しないといけない。その人のポテンシャルが十分に発揮できるでしょうか」

「本来だったら必要のない『しばり』を課すべきなんだろうか?ということを、今一度社会に考えてほしいと思います」(篠原さん)

女性、男性といった性別に当てはまらない学生からも、就活時の服装などについて相談があった。

現在、就活で服装などで悩んでいる様々な学生にも、署名などの活動を見て「既成概念にとらわれなくていいんだと気づいてほしい」とした。

企業が変わらなければ「常識」も「マナー」も変わらない

篠原さんは、同業であるマナー講師や就活マナーに携わる企業などに対しては「変わろう」とこう呼びかけた。

「実際、『私が提供していたマナーは間違っていました』『変えていかないといけない』という声はあげにくいのかもしれません」

「しかし、今回署名の提出先にもなっている就活マナーなどの指南本をだしている会社から、まず率先して変えていくという『姿勢』を見せてほしいです」

企業における性差別は、女性管理職が少なすぎることや男女間の賃金格差、昇進スピードの差、産休の取得・復帰など課題は山積みだ。

その中でも、就活での性差別は、その先に広がる企業社会でのジェンダーをめぐる課題の「入り口」に存在している。

今回の署名では、入り口での性差別を解消することを目指し、企業の性差別に対する意識を問いただしているのだ。

活動では署名の他に、就活やマナーの指南本出版などに携わる各企業などに対し、直接、改善に向けた要望書を提出している。

また、多様性の尊重に積極的に取り組んでいる企業に対しても、応募する就活生が目につく箇所に「ジェンダーアイデンティティを抑圧しない(自分らしい)格好で面接などに来てください」「ジェンダー表現によって応募者を差別しません」などと提示してもらえるよう、要請していく。

また、就活経験者に対しては、就活で経験した性差別の経験談も募集している。


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(サムネイル:時事通信)