本にあるQRコードを読み込むと、スマホで阪神淡路大震災直後の映像が見られるーー。
阪神淡路大震災の発生から26年が経過し、テレビで震災当時の映像を見ることが減る中、「若い世代に知ってほしい」と、工夫を凝らした本が出版された。
被災者の生の声や映像を防災・減災に役立てようと、『スマホで見る 阪神淡路大震災〜災害映像がつむぐ未来への教訓〜』を出版した、朝日放送の木戸崇之さんに話を聞いた。
「走っていたら前の方で稲光のようなものが見えた。おかしいなと思ったら道路がグラグラっと揺れて、とっさにブレーキ踏んどったんですよ。止まったと同時に前の道路がバサっと落ちた」
(1月17日「高速道路の橋桁落下。前輪が落ちたバスの運転手は」より)
「小さい孫もいるので。ミルクを作る水もお湯もないし、食べ物はないので、ただお水だけでもあってくれたらと思っています」
(1月17日「水が足りない」より)
本書では、阪神淡路大震災が発生した1995年1月17日からのリアルな被災地の声や状況を、日付順に追うことができる。
「発生の瞬間」「木造住宅密集地の大火災」「本当に困った 避難所のトイレ」などの項目ごとに、ページにはQRコードが掲載されていて、スマホをかざすとリンク先で当時の取材動画を見ることができる仕組みだ。
読み進めながら、スマホで動画も
今、そして30年後の若い世代に伝えるには
朝日放送が震災の映像アーカイブを公開してから約1年後に、この本を出版した理由を、著者の木戸さんはこう語る。
「本により阪神淡路大震災を知り、アーカイブにある映像を見るきっかけになればと思います。図書館や学校の図書室などでも手にとってもらいたい」
「書籍として残しておくことで今の若者だけでなく、30年後の若い世代にも本を読み、映像を見てもらえたらと思います」
震災の映像アーカイブの公開には大きな反響があった。サイトを見てもらうための「道筋」を増やすため、書籍の出版に至った。
中学生と高校生である木戸さんの娘と息子が、テレビや雑誌にあるQRコードを読み込みリンク先のサイトを見ている姿を見て、本にあるQRコードでアーカイブの動画にアクセスするという方法を思いついたという。
「テレビカメラが中心となって動画を撮影した、最初で最後の大災害」
本書では「はじめに」で、「なぜ今、『阪神淡路』の映像なのか」という問いについて説明されている。
答えは、阪神淡路大震災が「テレビカメラが中心となって動画を撮影した、最初で最後の大災害」だからだ。
1959年の伊勢湾台風ではテレビは一般的に普及しておらず、2011年の東日本大震災では東北の沿岸部などに常駐しているカメラマンなどが少なかったこともあり、被災者自身がスマホや携帯電話で多くの津波の映像を撮った。
災害報道や被災者への取材・撮影については、メディアの中でも議論がなされてきたが、アーカイブには「その当時だから撮れた」阪神淡路大震災直後の映像やインタビュー動画も多く残っている。
木戸さんは、朝日放送で報道記者として様々な災害現場を取材。2014年から1年半、防災などについての施設「阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター」(神戸市中央区)に研修派遣され、現在もリサーチフェローとして活動を続ける。
メディアの立場からの防災や減災について模索し、若い世代にどう「伝えていくか」ということについて考え続けたことが、映像アーカイブ公開や今回の本の出版につながった。
震災後に生まれた世代に、いかに26年前の震災について伝えるか、試行錯誤を重ねている。
アーカイブについて大学で講義した際には、映像を見た受講生から「今ではなかなか撮れない映像」「都市はもっと地震に強いと甘く考えていた」との声が寄せられた。
大学生の感想を受け「引き続き(阪神淡路大震災を)『伝える』ということを続けていかないと」と身を引き締めたという。
「首都直下地震など、都市で地震が起こった時に『何が起こるのか』ということを想像するきっかけになるとも思います」
「時代は変わり、建物や電話など変わった部分もありますが、避難所など、変わっていないことも多くあります」
アーカイブ公開に当たっては、肖像権の問題をめぐり社内でも話し合いを重ねてきた。映像に写っている人には可能な限り連絡を取り、ウェブ上での公開への承諾を得たという。
木戸さんは映像アーカイブ公開のタイミングについては、こう語った。
「東日本大震災はまもなく発生から10年を迎えます。まだまだ被災や大切な人を失った経験から立ち直れずに、映像を見たくないという人も多いと思います」
「25年という節目では『整理できた』という人も多く、映像公開が可能か問い合わせた際にも、皆さんが承諾してくれました。25年という期間での公開が良かったのかどうか、まだ答えは出ていませんが、50年経ってしまうと『もう遅すぎる』という思いで、昨年公開しました」
映像アーカイブの公開後、様々な自治体や企業から「防災研修で使いたい」といった問い合わせや反響があった。
コロナ禍でオンラインでの研修が広がる中でも、アーカイブの需要は増している。
今後の目標として、さらに防災教育に使える「Eラーニングサイト」としての機能を強化していくことも検討しているという。