性的な発言や女性蔑視。就活の現場で起こるハラスメントに1万人が声を上げた

    就活中の学生がセクハラなどの被害を受ける「就活ハラスメント」が問題となっています。厚生労働省に対し対策を求める1万筆以上の署名が提出されました。

    「『彼氏はいるの?』『週どのくらいやってるの?』『俺、妻とSEXレスでねー』などと聞かれた」

    「パンツスーツであることを指摘され、スカート履かない女は男と一緒だと言われた。女子のためのスカートをこういう時に使わないと、という言葉に寒気がした」

    「恥ずかしい学歴とは思わないの?と面接官に言われた」ーー。

    就職活動中の大学生に起きる、こんな「就活ハラスメント」が問題となっている。いずれも相談サイトに実際に寄せられた、人事担当者など社会人からのハラスメントの例だ。

    希望就職先の社員からの性的な言動、圧迫面接、パワハラ発言など、就活ハラスメントの被害は絶えない。

    ハラスメントの相談サイト「QCCCA(キュカ)」には、就職活動をした学生らから50件を超える被害が報告されているという。

    こんな現状に対し、署名サイトChange.orgで7月、「#就活ハラスメントをなくしてください」と経団連や厚生労働省に対して対策を求める署名キャンペーンが立ち上げられた。1万1千筆を超える署名が集まった。

    署名キャンペーン主宰のキュカと、キャンペーンに賛同する大学生らが11月12日、厚生労働省の官房総務課担当者に署名と要望書を提出した。

    署名提出に同行した女子大学生は「就活では学生は弱い立場にあり、採用する側の会社は強い立場にある。そんな状況の中でハラスメントは起きています。政府には法整備をお願いしたいです」と話した。

    キュカの片山玲文さんは「就活中の学生を保護するルールは現在ほぼなく、学校の就職課などに相談しても、学校側から相手先である企業に強く言うこともなかなかできないのが現状。就活生はどこに相談すればよいか分からないのです」と問題を指摘した。

    今回、提出された要望書では、厚労省や文部科学省に対し、就活ハラスメントの相談窓口を作ることや調査を行って実態を把握し、法律で就活中の学生をハラスメントから守ること、ハラスメント関係法の指針に就活中の学生について言及することなどを求めている。

    また、経団連など使用者団体に対しても、専門委員会を立ち上げて、就活ハラスメントをなくす取り組みをするよう呼びかけている。

    「立場を悪用したれっきとしたパワハラ・セクハラ」

    署名キャンペーンには、「就活生をハラスメントから守るルールが必要」「面接する側、される側という立場を悪用したれっきとしたパワハラ・セクハラですよね」というコメントが寄せられた。

    また、すでに社会人となった人からも、「私も以前、就活ハラスメントを経験した」という訴えがあった。

    「セクハラ質問に回答を拒否したら、不採用。こんなこと、いつまでも許してはいけない」

    「私も就職活動の際に、パートナーの有無、結婚する予定があるか、子どもが出来る可能性はあるかと聞かれました。私生活を充実させようとしてはいけませんか?」

    日本労働組合総連合会(連合)が今年5月に発表した、職場や就職活動に焦点を当てた「仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査」の結果によると、就職活動をしたことがある人のうち、20代女性の12.5%、20代男性の21.1%が、セクハラ被害を受けたことがあると答えていた

    「法の保護が及んでいない」就活中の学生

    キュカや、キャンペーンに賛同する関係者らは署名提出後、厚労省記者クラブで会見を開き、学生を就活ハラスメントから守るための法律の必要性などを強調した。

    弁護士の佐々木亮さんは「就活生は労働契約を結んでいない状態なので、法の保護があまり及んでいないが実態です」と指摘。

    「求職活動をしている人には『採用されなければいけない』という、採用側との圧倒的な格差がある。『雇ってもらいたい』という就活生の思いにつけこんだハラスメントが起こっています」と現状を説明した。

    厚労省は10月21日に労働政策審議会の分科会を開き、職場のハラスメント対策に関する指針の素案を示したが、就活ハラスメントに関する記述は乏しいという。

    キュカが提出した要望書では、ハラスメント関係法の指針に、就活のハラスメントをなくすために企業が取り組むべき事項を書くことも求めている。

    佐々木弁護士はこう説明する。

    「例えば、人種や家族のことに関してなど、面接で質問していいことは職業安定法の指針に書いてあり、男女雇用機会均等法の指針にも、妊娠などについては聞いてはいけないと書かれています。しかし、就活生が受けた様々なハラスメントは、法からこぼれ落ちている」

    「就活生を対象とした法律を作るべきです。法律を作って行政が動ける枠を広くして、就活ハラスメントをゼロにしていかなければなりません」

    企業トップも就活ハラスメント撲滅に賛同

    性暴力やセクハラに対して声を上げた人を支援するプラットフォーム「#WeToo Japan」は5月、「『就活ハラスメント』ゼロ!プロジェクト」を立ち上げた。

    プロジェクトでは、企業の経営トップから「就活ハラスメントゼロ宣言」への賛同者を募り、これまでに、ドワンゴ株式会社の代表取締役社長、夏野剛さん、サイボウズ株式会社の代表取締役社長、青野慶久さんらが名前を連ねている。

    キュカの片山さんは「被害経験を共有する就活生は、自分が助かりたいという思いより、『この問題が繰り返されたくない』『次の世代に嫌な思いをしてほしくない』という思いが強いです」とし、「多くの学生が泣き寝入りしている就活ハラスメントをなくしていかなければなりません」と語った。