• lgbtjapan badge
  • schooljp badge
  • lgbtjpnews badge

「制服でつらい思いをする後輩がいなくなるように」一人の高校生が区長に伝えたこと。江戸川区で制服選択制、前向き検討へ

制服の選択制導入を求める署名に集まった1万人の声。一人のトランスジェンダー男性の高校生が、江戸川区長の前で自身の経験を語りました。

「もし僕が中学校の時、自由に制服を選択することができていたなら、より充実した3年間を過ごすことができたと思います。僕はこれ以上、かつての自分のように傷つく子どもたちを増やしたくありません」

トランスジェンダー男性の高校生、くろまるさん(17)が、斉藤猛・江戸川区長の前で自身の経験を語り、東京都江戸川区での制服選択制の導入を求めた。

くろまるさんは、オンライン署名サイトで集めた1万1千筆以上の署名を区長に手渡し、区長は「導入に向け検討していく」と前向きな返答をした。

くろまるさんが6月、在住区である江戸川区での制服選択制を求めるオンライン署名を立ち上げた背景には、自身の中学時代の辛い経験があった。

性自認は男性だったが戸籍の性別が女性だったくろまるさんは、学校では男子生徒用制服の着用を許されず、女子生徒用のスカートを着用することを3年間強いられていた。

くろまるさんは、区長や教育委員会関係者が集った江戸川区役所で、こう語った。

「中学校の三年間は、僕は自分が着るはずだった男子の制服を着れずに、辛い思いをしました。自認する性別に合わない制服を着させられている間、僕はいつも自分の心を押し殺していました」

「現在、江戸川区の中学校に通っている子や、これから中学校に通う子たちが、制服で悔しい思いをすることなく、自分が着たい服を着て、一人一人の『自分らしさ』が尊重されるようになってほしいと願っています」

「恥をさらしているような思い」学校へ行けない時も

毎日、苦痛を感じながらスカートを着用して学校に通っていた当時を振り返り、くろまるさんは「自分の恥をさらしているような思いで、時には学校に通えない時もありました」と話す。

スカートで登校することが辛く、ジャージを履いて登校したこともあったが、ジャージで授業を受けることは許されずに帰宅させられたこともあった。

勇気を振り絞ってカミングアウトし、辛い思いを話しても、担任教員からは「我慢しよう」とだけ言われ、理解は得られなかった。

くろまるさんは、区長を前に、こう訴えかけた。

「先生や周りの大人たちに理解されないことが多く、大人はだれもこの苦しみをわかってくれないと思っていました。なので、当時は大人になる前に、20歳になる前の19歳で死のうと考えていました」

「多くの当事者は自分の悩みを口に出せません。助けを求められません。助けを求めたとしても、僕が経験したように逆に傷つけられてしまうこともあります。だから僕が代表して言いたいと思います。江戸川区の制服を選択制にしてください」

区長「表面的なお答えではなく、前向きに前進していきたい」

くろまるさんと区長や教育委員会関係者らとの面談は約30分に及び、区長らはしっかりと、くろまるさんの話に耳を傾けた。

1万人筆以上の署名を受けとり、区長は「検討委員会も必要であれば立ち上げて、制服の選択制をより実効性のあるものにしていきたい」とし、「表面的なお答えではなく、前向きに前進していきたい」と明言した。

区長は、くろまるさんの経験を聞き、そのような生徒がいることに対して「受け止めきれていなかった責任を感じなければいけないと感じています」として、こう語った。

「制服が原因で不登校になる、または自殺まで考えてしまうということはあってはならないと考えています。学校は、子どもたちが安心できる場所であってほしい」

「学校で生きづらさを感じているということはあってはならない。制服の選択制が解決になるのであれば、早急に検討していきたい」

また、選択制の内容に関しては記者団に対し、こう語った。

「やるのであれば、申告制ではなく全ての方を対象にしたものにしたいと思います。申告制では、(申告することで)精神的負担を負わせてしまうことになる」

私服にすることも選択肢とした上で、制服のデザインの一新などにも言及した。

その場合には、「制服のデザイン自体も、当事者が入って考えてもらうのが一番良いのではないかと思います」としている。

「ちゃんと伝わって良かった」

区長の前向きな返答に、くろまるさんは記者団に対し「ちゃんと伝わって良かった。今日まで色々な思いを積み上げてきたので、すごく嬉しいです」と語った。

くろまるさんは、現在、制服のない定時制の高校に通っているが、区役所での署名提出には、中学時代に着たかった学ランを着て出席した。

学ランは友人から譲り受けたもので、ボタンも自分で新しいものを縫い付けた。

今では、定時制高校に着ていくこともあるという。

実際に、当事者らの声を聞き、行政が選択制へ向けて踏み出したケースもある。

栃木県教育委員会は6月、全県立学校に制服選択制の導入を推奨する考えを示した。前年6月には、県内のLGBT支援団体「S-PEC」が福田富一知事宛に選択制を求める署名を提出していた。

他にも、全国では制服の選択制や、男性用・女性用と2種類でデザインを大きくわけるのではない「ジェンダーレス制服」の導入も少しずつ進んできている。

2019年4月からは、東京都世田谷区で女子生徒がスカートだけでなくスラックスも選択できるようになっている。

「教員への研修と認識調査実施を」

くろまるさんは、江戸川区でLGBTの人々が直面する問題などに取り組んでいる「LGBTコミュニティ江戸川」の活動に参加しており、今回の署名も、この団体の一員として立ち上げた。

LGBTコミュニティ江戸川は今回の署名提出にあたり、制服の選択制導入と合わせて、「性的マイノリティに関する教職員の理解促進」などの対策を求めた。

要望では、教育現場でも、教員の性的マイノリティの生徒への理解やサポートが必要として、初年次研修・管理職就任後研修や、定期的な認識調査での研修の効果測定、教職員を対象とした啓発リーフレットの作成などを求めた。

また、悩みを抱えた生徒が相談できるよう、行政や民間の相談先をリーフレットにまとめたり、ポスターを掲示したりして、児童・生徒に情報を届けることを求めた。

実際、くろまるさんやLGBTコミュニティ江戸川のメンバーも学校内で偏見や差別的言動を受けており、実体験を持って、教育現場での対策を早急に実施するよう求めている。

くろまるさんは、担当教員にカミングアウトしたとき、制服についても「我慢しよう」などと言われ、男友達の体育着を着て体育の授業に出た時は、他の生徒の前で「気持ち悪い。脱げ」と怒鳴られたこともあった。

「大人は苦しみを理解してくれない」と自死も考えたという、くろまるさん。教員の理解やサポートが必要だと感じている。

LGBTコミュニティ江戸川のメンバーには、トランスジェンダー女性の子どもを持つ母親もいる。

その女性は区長に対し、自身の経験を共有し、対策を強く求めた。

「担当教員に子どもの性自認について話すと『体が男の子で心が女の子なんていうことは、子どもには理解できない』と言われました」

「子どもはその言葉に傷ついて、『死にたい』と3階の自宅から飛び降りようとしたこともありました。学校現場では子どもたちが傷ついています。先生への研修をしてください」


ご意見を募集しています

📣BuzzFeed Newsでは、LINE公式アカウント「バズおぴ」(@buzzopi)で、読者の皆さんのご意見を募集しています。

日々の暮らしで気になる問題やテーマについて、皆さんの声をもとに記者がニュースを発信します。

情報や質問も気軽にお寄せください🙌LINEの友達登録で編集部と直接やりとりもできます。様々なご意見、お待ちしています。

友だち追加