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NHK紅白歌合戦で「虹色の旗」がはためいた理由。チーフプロデューサーが語ったこと

2019年末の紅白歌合戦で、歌手MISIAさんがレインボーフラッグをバックに歌いました。NHKに演出の背景を聞きました。

2019年の大晦日に放送された、NHK紅白歌合戦で、紅組最後のステージを飾った歌手・MISIAさんのパフォーマンスが話題を呼んだ。

MISIAさんのパフォーマンスで、6色の旗、レインボーフラッグが掲げられる演出がされたからだ。

なぜ、レインボーフラッグを使った演出をしたのか。NHKのチーフ・プロデューサーに、その背景や思いを聞いた。

「愛の多様性、そして偏見や差別を少しでも減らしたいというMISIAさんの思いをステージで具現化するために、あのような演出に至りました」

NHK第70回紅白歌合戦の加藤英明・チーフプロデューサーは、こう語る。

ジェンダーやセクシュアリティの多様性を表現する舞台演出は、MISIAさんからの提案だったという。

「2020の東京オリンピック・パラリンピックで日本が世界から注目される中で、そのような多様性を伝えるようなパフォーマンスがしたいという風に提案がありました」

そもそもレインボーフラッグとは、LGBT+(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーなど)の人々の尊厳と、LGBTの社会運動を象徴するもの。

1970年代から広がりはじめ、LGBTのプライドパレードなどでも使われている。

MISIAさんの紅白のステージでも今回、ジェンダーやセクシュアリティの多様性を伝えるためにレインボーフラッグが使われた。

背景に、MISIAさんの長年にわたる強い思い

紅白のMISIAさんのステージでは、レインボーフラッグが掲げられた他に、日本の大御所ドラァグクイーンが登場したり、レズビアンだと公表して活動しているDJ Noodlesさんが台湾から参加した。

その背景には、MISIAさんの、以前からのLGBTの人々や多様性に対する思いがあったという。

1998年にデビューしたMISIAさん。実は当初から、自身のライブなどステージでドラァグクイーンと共演していた。

「デビュー当時からそういうことを意識してやってきたということもあり、MISIAさんから(紅白の演出について)提案があった時に、私たちもすぐに賛同しました」(加藤さん)

MISIAさんは、2017年に台湾で開かれたレインボーパレードにもゲストとして招かれている。

その際には、同性婚実現のためのスローガンなどでよく使われる「LOVE IS LOVE」と書かれた、虹色のプラカードを掲げていた。

加藤さんは、そのような活動を重ねてきたMISIAさんだからこそ、紅白でレインボーフラッグを掲げたり、ドラァグクイーンと共演するようなステージが可能だったと話す。

「今の日本のエンターテイメントにおいて、そういうことをできるのはMISIAさんしかいないなと思いました。なぜかというと、昨日今日思いついた人がやっても、セクシュアルマイノリティの当事者の方だったり、ムーブメントを引っ張っていっている人に誤解を与えてしまう」

「彼女みたいに長年、問題意識を持ってやってきたアーティストがそのような表現を紅白でやることで『伝わる』だろうと思いました」

加藤さんは、MISIAさんが出演するNHKのラジオ番組「MISIA 星空のラジオ」(毎週火曜)を担当している。

MISIAさんが台湾のパレードに参加した際や、ライブでドラァグクイーンと共演した際、この番組に日本のLGBTのムーブメントの先頭に立つ人々もゲストとして迎えていた。

今回、MISIAさんの紅白のステージにも出た、ドラァグクイーンのHOSSYさんやマーガレットさんも、ゲストとしてラジオ番組に出演したことがある。

加藤さんは「私たちも、普段からラジオで彼女の(LGBTや多様性に対する)そういう思いにも触れてきているので、紅白の話でも『なるほど』とすごく合点がいきました」と話す。

今夜11時~の「MISIA 星空のラジオ」は年明け初の生放送でお届けします!MISIAへの質問や皆さんの年末年始のエピソード、近況などたくさんのメッセージをお待ちしています。メールはこちらからhttps://t.co/6NWC8T0zxs お聴き逃しなく♪ #MISIA #nhk_misiaradio

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「『INTO THE LIGHT』の曲については、ドラァグクイーン をイメージして歌詞を書いたと、MISIAさんもラジオで言っていましたし、さらに綾瀬はるかさんが司会なので『アイノカタチ』もやりましょうとなりました」

「突き詰めていくと、LGBTの愛の多様性のような、様々な愛の形を認めようということで『アイノカタチ』も、話し合っている段階でいいねとなりました」

「アイノカタチ」は2018年、綾瀬はるかさんが主演を務めたTBSのテレビドラマ「義母と娘のブルース」の主題歌だった。

綾瀬はるかさんは紅白で、MISIAさんのステージの前にこの様に、司会で言葉を述べている。

「2020年にむけて、年齢も性別も国境さえも、愛の力と音楽で越えていきたい。そんなMISIAさんの熱い思いが詰まったステージです」

当事者から「勇気づけられた」「奪われた」の反応

紅白でMISIAさんのステージが放送された直後、TwitterなどSNS上には様々な意見が飛び交った。

「紅白にレインボーフラッグやドラァグクイーンが!感動した」「勇気づけられる」と歓迎する投稿も多く見受けられた。

一方で、「唐突すぎる演出」「『奪われた』と感じてしまう」というようなLGBT当事者からの声もあった。

実際、MISIAさんのステージの直前の司会・綾瀬さんの一言以外に、これまでのMISIAさんのLGBTに関する活動や演出の趣旨は説明はなかった。

説明がない上で、突如としてレインボーフラッグが掲げられたことに批判が集まったことは事実だ。その点については加藤さんはこう語る。

「MISIAさんのファンの方は、ドラァグクイーンの方々がライブなどでパフォーマンスしていることなどを知っていたと思います。でも、(ファン層以外に)広く知られてたかっていうと、多くの方には『MISIA』と『LGBT』が結びついていなかった可能性はあります」

また、司会による説明や過去の活動についての映像なしで、レインボーフラッグの演出をしたことについてはこう説明した。

「確かにMISIAさんが、取り組みをこれまでやってきたことを打ち出さなかったのは説明不足と言われればそうかもしれないです。当事者の人たちから『なぜ唐突に』と言われたり、一定量の批判がくることは覚悟していました」

「そういう表現を番組で打ち出すときに当然、慎重にならざるを得ないし、きちっと配慮した形での表現が求められるっていうのは放送の現場で注意しなければいけないことです」

何度も重ねた「演出の仕方」についての議論

実際、レインボーフラッグなどを用いた演出の仕方については、社内やMISIAさんサイドと、議論を重ねたという。

「唐突にレインボーフラッグを出したり、事前の説明なくやった時に、本当にMISIAさんが伝えたいメッセージが『伝わるか』というのかは、何十回も議論しました」

2019年にMISIAさんが出演した、LGBT支援をテーマに掲げた音楽イベント「LIVE PRIDE」や、MISIAさんがこれまで継続してきたアフリカでの支援活動の映像を流すなどのアイディアも出ていたという。

しかし、議論の結果「あまり説明的にならずに、MISIAさんのパフォーマンスと共にレインボーフラッグが現れることで伝わるんじゃないか」との結論に至り、あえて説明をしない演出にしたのだという。

知らない人には知ってもらう「きっかけ」に

レインボーフラッグについて知らなかった人にも、疑問を持ってもらい、知ってもらうことも狙いだった。

「みんなにあれってなに?って思わせること。レインボーフラッグが何を象徴していて、何を意味しているかということを、知らなかった人には興味を持って頂けたかと思います」

実際に、MISIAさんのラジオ番組にも反響が来た。テレビで見た後に意味を調べた人や、一緒に見ていた家族に意味を聞いた人もいたという。

加藤さんは「そういうきっかけを提供できたかなと思います」と振り返る。

レインボーフラッグ、認知度20.2%

レインボーフラッグの認知度は、実はあまり高くないのが現状だ。

LGBT総合研究所が2019年12月に発表した調査によると、レインボーフラッグの意味を知っていた人は、回答した2574人のうち20.2%にとどまった。

自身をLGBTだとして回答した当事者の中でも、レインボーフラッグの意味を理解していたのは39.2%だった。

LGBTでない回答者では、意味を「知っていた」と回答したのは18.4%のみだった。

出演者もレインボーの小旗

MISIAさんのステージの際には舞台のサイドで、他の紅白出演者らが、レインボーフラッグの小旗を振っていた。これも、出演者に意義を説明した上での演出だったという。

「『MISIAさんこのようなシーンをやるので、こういう意図を持って旗を振っていただきたいです』ときちんと説明してやったので意味のあるシーンになったと思います」(加藤さん)

NHKではハートネットTVなどの番組で、長くLGBTや多様性について報じてきた。紅白やMISIAさんのラジオ番組を含む、音楽・エンターテイメントのサイドからコンテンツ作りに関わって来た加藤さんはこう語る。

「2020年になり、日本が『どういう社会であるべきか』ということをエンターテイメントの中でも打ち出していくべき。そしてLGBTQのムーブメント、レインボープライドなどの活動は、今後も積極的に、あらゆるシーンで出していくべきだと思います」

「僕たちは、紅白というそのような(LGBTに関連した)演出を積極的にはやってこなかった場で『まず、やることの意味』というのを、試してみた。意義はご理解いただけたかと思います」

「変わる」紅白、「変わらない」紅白

実際、今回のレインボーフラッグの演出に至るまでも、紅白の中でも少しずつ変化がでていた。

2007年には、トランスジェンダー女性だと公表している歌手の中村中さんが、紅組から出場した。その際には、中村さんが抱え、乗り越えて来た苦悩などが紹介された。

そして、2018年の紅白では、星野源さん演じる「おげんさん」のキャラクターが、「これからの紅白は紅組も白組も性別関係なく混合チームでいけばいいと思う」と率直な意見を述べ「男女で別れて紅白で対戦する」という番組の形態に疑問を投げかけている。

2019年の紅白では星野さんは多様性などには言及しなかったが、自身のステージでは「桃組」ともみられるピンクのダウンを着て歌い、Twitter上では話題にもなった。

また、20周年を記念に「自分らしく生きる」ことをInstagramやメディアで発信している歌手の氷川きよしさんも、紅白半分ずつの衣装を着用するなどして注目を集めた。

男女対戦型の紅白はこれからどうなる? 

性別で2チームに別れて対戦する番組形式には、様々な意見が出ている。

実際に、ラジオ番組「MISIA 星空のラジオ」にも「紅と白、女性と男性という区分の番組演出は、すごく辛かった」というセクシュアルマイノリティの方からの声も届いていたという。

それに対しては、加藤さんはこう語る。

「ジェンダーやセクシュアリティでどちらかを強要しているわけでもないんですが、ただ、視聴者の方にその様に捉えられてしまう可能性があるということは、十分に意識しないといけないと思います」

一方で、性別で紅白チームに分かれて対戦する番組構成については「70回続けてきた『紅白歌合戦』というタイトルや、大きな枠組みは変わらないと思う」とした上で、こう説明する。

「今は、男女に分かれて『対戦』という色は、以前に比べてどんどん薄れてきているとは思います。しかし『私は紅組でも白組でもない、虹色組で出たい』と言われたらそれは僕たちも向き合わないといけないと思います」

「しかし、時代に寄り添う形で、必要に応じてMISIAみたいな存在のアーティストが出て、多様な表現をどんどん取り入れていくという必要はあると思います」