• womenjp badge

「ティッシュを使ったことも」生理になってもナプキンがない。そんな状況を変えたかった。女性たちの思い

入管の収容施設の中で、生理用ナプキンがなくて困っている人がいました。ボランティアが働きかけて、昨年秋からナプキンは支給制に。被収容者の女性、ボランティアの女性の思いを聞きました。

想像してみてください。

生理になってもナプキンがなくて困ったり、値段が高くて買えなかったり、または人に頼むしか生理用品を入手する方法がない状況をーー。

実は、出入国在留管理庁(入管)の収容施設の中では長く、そのような状態が続いていました。

その様子を面会で聞いたボランティアの女性たちが、入管に対して申し入れを行い、昨年秋、入管収容施設の中でやっと、生理用ナプキンが支給されるようになりました。

「テッシュを使ったことも」「人として尊厳を尊重して」

ナイジェリア出身のエリザベスさんは、入管施設に複数回にわたり収容された経験があり、今は仮放免中です。

BuzzFeed Newsの取材に、収容中の経験をこう語ります。

「当時は収容施設でのナプキンの支給はなかったので、生理用品は差し入れに頼っていました。それでも、ナプキンがなくなり、ティッシュペーパーを使ったこともありました」

「私だけでなく、多くの女性の被収容者も生理用ナプキンの入手に困っていました。女性として、人間として、尊厳を尊重してほしいと感じていました。私たちも人間だから」

エリザベスさんのように、多くの被収容者の女性は、家族や友人、面会ボランティアに生理用品の差し入れをお願いしていた状態でした。

できるだけナプキンを節約するために、長時間にわたって交換しないなどの傾向もあったといいます。

「生理は他の人には知られたくないもの」と感じる人も少なくなく、ボランティアの人たちに生理用品を頼むこと自体も苦痛に感じていた人もいました。

その思いをエリザベスさん自身も経験していたため、仮放免になってから女性の被収容者の面会ボランティアに行く時は、頼まれなくても生理用品を差し入れていました。

入管が定めた購入可能な商品リストの中から、コンビニに注文できる制度もありますが、通常のドラッグストアやスーパーでの販売価格より割高で、「十分な数を買うことは難しい」といいます。

横浜入管に収容されていたレイさん(仮名)は「配偶者に差し入れしてもらっていた」「コンビニで買うのも高く、大変だった」と、当時の辛い状況を振り返ります。

入管内には、緊急時用などの生理用品はありましたが、基本的には被収容者が自身で入手するべきものとされていました。

生理用品は「生活必需品」。学生たちが申し入れ

入管での生理用品をめぐる状況について聞き、立ち上がったのは、大学生たちでした。

上智大学総合グローバル学部の国際協力論ゼミ有志の学生たちは、プロジェクト「#入管被収容者にも生理用品を」を立ち上げ、学外の社会人ボランティアなどとも連携し、入管への申し入れを始めました。

新型コロナウイルスの感染拡大防止の「密」対策として、品川にある入管収容施設に収容されていた女性の被収容者は、横浜入管に移送されました。

学生たちは、被収容者への面会活動などをしている支援団体「BOND」のボランティアと共に横浜入管での面会を繰り返し、聞き取りを重ねました。

プロジェクト中心メンバーの上智大学学生の川村ひなのさんは、こう語ります。

「基本的な生活必需品である生理用ナプキンが配布されていないということは、問題ではないかと考えました」

「生理は、自分の体についてのこと。体や心の健康にもつながるのに、他者にお願いしないと入手できなかったり、生理用品ナプキンの使用数を減らさなくてはいけない状況では、身体的・精神的な負担が大きいと思いました」

有志の学生は、ゼミの田中雅子教授と、2021年夏ごろから本格的に活動を開始。横浜入管に8月末、生理用品を無償支給するよう求める要請書を提出しました。

法務省によると、日本各地の刑務所では少なくとも2000年代から、被収容者に生理用品が支給されています。

ここ1、2年では日本でも「生理の貧困」が解決すべき社会課題として捉えられ、自治体による無償配布や、学校のトイレでのナプキン設置などの動きも広がってきています。

そのような中、「入管での生理の貧困を解消したい」と声をあげました。

入管、「外部の方からの声もあり、入管庁内で検討した結果」

要請書提出の約1ヶ月後の10月から、横浜入管で生理用品が支給されるようになりました。

出入国在留管理庁警備課の担当者はBuzzFeed Newsの取材に対し、「外部の方からの声もあり、入管庁内で検討した結果」、支給を開始したと述べました。

【報告】 横浜入管の収容施設のトイレに、生理用品が配備されました! 横浜入管に、入管被収容者に生理用品を「必需品」として無償支給するよう要請しておりましたが、その要請が通り、本日10/1より生理用品が無償支給されるようになりました! #入管被収容者にも生理用品を

Twitter: @Nyukan_gekkei

生理用品の支給開始。でも…

生理用品の支給が始まりましたが、支給方法に課題が残りました。

入管は10月18日付けの文書で、各地の入管などに宛て「今後は、生理のある被収容者が自由に使用できるよう」「居室又は収容区域単位で常備する取扱いに改めます」と支給を指示しました。

しかし実際には、横浜入管では居室内での「常備」はなく、毎朝の点呼でのマスク配布と体温測定の際に、生理用品の配布が加わった形でした。

生理中には、4・5人の職員の前で生理中なのかを聞かれ、生理中の場合はナプキンを受け取る形で、被収容者の中にはその配布方法に嫌な思いをしていた人もいました。

上智大学の田中教授は、入管が指示文書にて「自由に」という言葉を使ったことに対しては「評価したい」としつつ、「常備」という状態でないことを指摘。学生やボランティアとともに再度、シャワー室などの共有箇所にナプキンを設置するよう申し入れをしました。

昨年秋には収容中で、その後に仮放免となったレイさんは、無償支給の動きを歓迎しつつ、辛い思いをした自身の経験をこう語ります。

「生理になったら毎日頭を下げて、『お願いします。生理だからください』とナプキンをもらわないといけなかった。被収容者にもプライバシーがあり、守ってほしいと思いました」

「渡された分を使ってしまって足りなくなったら、もう少しくださいとお願いしないといけない。追加で数枚渡されて、『余った分は返して』と言われたこともあります。何枚使ったか数えているみたいで嫌だった」

「刑務所でもないのに、入管に入っていたら『悪い人』のように扱われ、人の扱いでないと感じました」

レイさんは「これから収容施設に入る人にはこのような思いはさせたくないから」と取材に応じたといいます。

配布形式→トイレ内に常備。3月からはシャワー室にも

出入国在留管理庁警備課の担当者は、配布の仕方が問題となっていた件について、横浜入管でも「トイレ内に容器に入れて設置」の形に変更したとしました。

変更の経緯としては、「横浜では当初、朝などに女性職員が(生理について)確認していた。その『聞く』という行為自体が好ましくないという指摘が被収容者からあり、改められた」と説明しました。

生理用品は現在、目安として一人当たり、昼用5個、夜用2個が居室内にあるトイレの一角に、箱に入れて置かれています。

ナプキンを使い終わった際は、空になった箱を居室前に置いておくと職員が補充するという形だといいます。

3月時点では、女性の被収容者がいる大阪入管や名古屋入管でも、同様の方法で生理用品を支給しているとしました。

また、3月上旬からの新しい取り組みとして、横浜入管では女性用シャワー室内に箱に入れて生理用品を置き、自由に取っていけるように改善しました。

田中教授らは入管に対し現在、1ヶ月分のナプキンを一括で支給するよう要請しています。

申し入れを繰り返してきた、川村さんは、入管の体制に関してこう語ります。

「入管は『ブラックボックス状態』であるというように感じました。被収容者の方が入管職員に対して、意見箱や口頭で何か改善をお願いしても、その内容が職員の上司や本庁になかなか伝わらず、状況が変わらないということを面会では聞いてきました」

「現場と本庁の間に『距離』があり、物事が変わるのに時間がかかり、声が届かないということが根本的な問題にあるのではないかと思いました。被収容者の声がより届くように、入管の体制が改善されていくことを願います」