日本の難民受け入れや入管施設への収容に大きな影響を与える可能性があった「入管法改正案」について、与党は今国会での成立を見送る方針を決定しました。
事実上の廃案となったことに対し、難民申請中の外国人や支援者は安堵する一方で、これから、本当の意味での入管法の「改正」を目指していくと話しています。
難民申請中のクルド人男性はBuzzFeed Newsの取材に、「(現行の入管法で)今の状況が続けば、これからも収容施設で命を落とす人がでます」と話し、入管への長期収容の見直しや、収容施設内での医療体制の改善を強く呼びかけました。
入管法改正案の成立見送りに、これまで政府案に抗議の声を上げてきた、NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)代表の鳥井一平さんは、国会前に集まった人々にこう呼びかけました。
「国会で審議されるべきは、入管法の『改悪』ではなく『改正』であり、移民、難民の人々が共に生きていけるような社会についてです」
「移民、難民の人たちと一緒に生活し、一緒にこの社会を作っていくことを望んでいるという多くの声が、少しでも届いたのではないかと思います。誰1人として取り残されない世界を、私たちは強く求めます」
また、石川大我参議院議員(立憲民主党)は「今の入管法のもとで、ウィシュマさんが亡くなっています」とし、現行の入管法を、これまでの政府案とは別の方向で改正する必要性を訴えました。
入管での収容長期化と待遇の悪さについて社会の関心を集めたのは、名古屋の入管施設に長く収容されていたスリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさんが、収容中の3月に亡くなった問題です。
ウィシュマさんは収容中に体調を崩していたにも関わらず、適切な治療が受けられていなかった可能性が高く、遺族や支援者は政府に対し、ビデオの開示や調査、説明を求めています。
「入管法を『改正』して、難民条約を守ってください」
改正案では、難民申請の回数に上限をもうけたり、国に帰れない理由があったとしても強制送還を拒むと刑事罰の対象となりうる、いわゆる「送還忌避罪」(退去強制拒否罪)を新設する方向性を打ち出していました。
保護を求めて日本にやってきた人々は、廃案になることを、どう受け止めているのでしょうか。
4回目の難民申請をしているクルド人男性、チョラク・メメットさんは「廃案になってよかった。ちょっとだけ安心しました」と語り、現状の入管法が抱える問題点を指摘しました。
「今は新型コロナウイルスの影響で(収容施設内の密回避のため)仮放免が多くでているけど、長期収容されている人は多くいます。本当に改善してほしいです」
「国でも迫害を受けて、助けを求めて日本に来たのに長期収容されます。帰りたくても帰れない。帰っても命の危険性があるけど、入管の中で死んでしまうかもしれない」
チョラクさんは、「また入管法の『改悪』があるかもしれない」「法務省は人権を守れていない。ちゃんと入管法を『改正』して、難民条約を守ってください」と話しました。
「病院、連れていってくれない」「また命落とす人でる」
ウィシュマさんの死に関して、収容施設内での監視カメラの映像の公開が求められていますが、チョラクさんも以前、自身の映像を開示請求し、断られていました。
収容施設内の医療に関しては、出入国在留管理庁の佐々木聖子長官は2019年9月の会見で、「なかなか常勤の医者を確保できない。医師の確保に難しさを感じている」「医療について、今の状況が十二分であるという認識をもっているということではない」と改善の余地を認めています。
チョラクさんは、このままでは「また命を落とす人がでる」として、早急な医療体制の改善を求めました。
日本で生まれ育った子どもたち「どうなるの」
支援者らによると、埼玉県蕨市と川口市には、約2000人のクルド人が暮らし、難民申請をしていますが、日本政府がこれまで、クルド人の難民申請を認めたことはありません。
日本で生まれ育った子どもも多くいます。無国籍の子も少なくありません。
昨年、待望の子どもを授かり出産したクルド人女性は、こう語ります。
「日本で生まれ育った子どもたちが多くいます。親は国に帰れば逮捕される可能性も高く、命の危険もある。その中で、もし送還されたら子どもたちもどうやって生きていけばいいのでしょうか。そして、日本でも難民が認められない。日本でも働けず、生きていけません」
女性の子どもは無国籍状態。女性も配偶者も共に4回目の難民申請中ですが、近い間に申請が認められる保証はありません。
女性は入管法の「改正」、難民受け入れの改善を求め、こう話しました。
「皆さんも、もし自分が、そして自分の子どもがその状況にあったら…と考えてほしいです」
「帰っても刑務所に入れられる、日本でもいつ収容されるかわからず安全ではない。私たちはどうしたらいいのでしょうか?」