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「トランスジェンダーだから」を理由に隔離された収容者に仮放免。今、彼女が願うこと

トランスジェンダーであることを理由に、入管の施設内で隔離された状態で1年以上収容されていたフィリピン人。仮放免となり家族と再会しました。

「トランスジェンダーであること」を理由に、入管の収容施設内で隔離収容され、自由時間も大幅に減らされていたフィリピン人のパットさん(28)が10月6日、1年3カ月ぶりに仮放免となった。

東京出入国在留管理局(東京都港区)の施設に収容されていたパットさんは、この日、入管に迎えに来た家族と再会した。

パットさんに対する処遇に対しては、入管に対し改善を求める声も多く上がっていた。仮放免を求めるオンライン署名には1万7千筆以上が集まっていた。

パットさんの仮放免には支援者十数人も駆けつけた。

仮放免の手続きを終え、取材に応じたパットさんは、支援者やオンライン署名での賛同の意を示した人たちに向けて感謝の言葉を述べた。

「長い間サポートしてくださった皆さんに、本当にありがとうございましたと伝えたいです」

パットさんは、トランスジェンダー女性であるということを理由に、他の女性収容者とは隔離された別室に収容され、自由時間も短くされたり、ずらされたりしていた。

自由時間は他の収容者が午前と午後で計6時間のところ、パットさんは約4時間短く2時間のみで、時間がずらされているため、面会以外では職員以外の誰とも、ほぼ会えない状態だった。

パットさんは仮放免となった今日まで、ずっと隔離などの処遇が続いていた。

トランスジェンダーの収容者はパットさんだけではない。同様の目に遭ったほかの収容者もおり、パットさんは、入管に改善を求める。

「全てのLGBTは人として(他の人と)平等に扱われるべきです。私はトランスジェンダーだということを理由に隔離され、自由時間もずらされてずっと一人でした。最初はずっと泣いてばかりいました」

「今も入管の対応は変わっていません。入管はトランスジェンダーやLGBTを正しく理解し、対応を改めてほしいです」

パットさんは収容中もBuzzFeed Newsの取材に対し、こう述べていた。

「私は今、こうして隔離されて辛い思いをしている。けど、これは入管の収容施設の問題であるし、入管に今後収容されるトランスジェンダーの人も同じ経験をするかもしれない。私が今、声をあげるのは、入管でのLGBTやトランスジェンダーへの理解の向上のためです」

支援者「これが終わりでなくスタート」「もっと現状、知ってほしい」

7月、パットさんに仮放免許可を出すよう求める署名が立ち上がり、1カ月で1万7千筆以上が集まった。パットさんが8月11日、4回目となる仮放免を申請した際、処遇改善や仮放免許可を求める嘆願書とともに、入管に提出された。

署名は、入管施設に収容されるなどしている外国人を支援する「#FREEUSHIKU」が主体になって集めた。

他にも、トランスジェンダー当事者や有志が集まったサポートグループ「Justice For Pato-chan(パトちゃんに正義を)」も、面会を続けるなど支援をしていた。このグループで支援をしてきた浅沼智也さんは、こう語る。

「今回、仮放免は出ましたが、これが終わりではなくスタートだとも思っています。入管の対応は変わっておらず、この問題は終わりません。続けて闘っていきたいと思っています」

「まずは入管内のLGBTQの人たちが抱える問題も含め、入管の中でどういうことが起こっているかということについて広く知ってほしい。人権が守られていません。きちんと外国人の方の人権が守られていく様に、国に働きかけていきたいです」

実際に、パットさん以外にもジェンダーやセクシュアリティを理由に、入管施設内で隔離されたりしている収容者もいる。隔離以外にも、本人が自認する性別と別の性別の収容者と同室にされたケースもあった。

出入国在留管理庁の警備課担当者は6月、トランスジェンダー収容者の隔離などについて、BuzzFeed Newsの取材に対しこう答えている。

「(収容については)その方の身体的な特徴やお考え、ご意向など情報を集め、他の収容者への配慮も必要なため、双方に配慮した上で規律や秩序を大切にしつつ、総合的に判断しています」

石川大我議員「長期収容が人の心を潰してしまうもの」。仮放免のあり方も疑問視

石川大我・参院議員(立憲民主)も、虹色の花束を持って入管を訪れ、パットさんの仮放免を歓迎した。石川さんはゲイであることを公表し、LGBTへの差別をなくし多様性を尊重する社会づくりを訴えている。

仮放免の判断には歓迎の意を示す一方で、収容に関してはこう話した。

「入管はパットさんを一年以上『独房』に収容し、自由時間を大幅減らすなど非人道的な扱いをしていました。国際的にみても大きな人権侵害です」

「パットさんとは何回も面会しましたが、毎回会うたびに弱ってしまい、元気がなくなってしまっていました。どれだけ長期収容が人の心を潰してしまうものかということかがわかります。長期収容に関しても入管法を改正していけるように努めていきたいと思います」

また、仮放免中の生活についても、政府が改善するべき点を指摘する。

「仮放免では就労は認められていませんが、就労とは生きるための基本的な権利です。仮放免された方がしっかり仕事ができ、また国民健康保険にも加入できるようにしていきたい」

仮放免中に国民健康保険に加入できないことの問題は大きく、病気になっても病院にかかると医療費が莫大になってしまうことを懸念し、病院にかかれない人たちも多くいるという。

パットさんは、保持している在留資格の期日をすぎて、不法に日本国内に留まっている状態のオーバーステイ(超過滞在)などを理由に入管に収容されていた。

フィリピンでは、トランスジェンダー女性を標的にした殺害事件や暴力事件も頻発しており、パットさん自身も学生時代、フィリピンで性的暴行を受けた経験がある。母国でトランスジェンダー女性として暮らすことに身の危険を感じていて、また家族も皆日本で在留資格を得て生活しているため、日本での生活を希望している。

パットさんの弁護士は、今後、在留特別許可の取得を目指していくとしている。