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日本全国で2千人とフリーハグをした韓国人女性がいま、思うこと

日韓友好のために日本縦断をした韓国人女性。全国15カ所でしたフリーハグについて聞きました。

8月、東京の観光地、浅草で、日韓友好のためのフリーハグをし、インターネット上で話題になった韓国人女性がいた。

韓国・大邱出身で、日本にも留学経験があるスヨンさん(25)だ。彼女は浅草でのフリーハグの後、韓国へ帰国。そして10月中旬にまた日本へ戻り、約2週間かけ、日韓友好フリーハグで「日本縦断」をした。

北海道から沖縄まで、15カ所の路上でハグをした人数は2000人以上にも上る。

なぜ、フリーハグのために日本縦断をしたのか。スヨンさんに話を聞いた。

10月19日、北海道の札幌市から、日本縦断のフリーハグを始めた。

「日韓友好 日本縦断」「私は韓国人です。一緒にハグしませんか」と書かれたプラカードを持ってハグをした。

仙台、福島、東京、名古屋、大阪、京都、松山、広島、福岡、対馬、那覇..。それから2週間かけて、計15の地域をハグして回った。

時間とお金、労力をかけて15カ所でフリーハグを行なった理由を、スヨンさんは、「友好を作っていくのは『私たち』だと伝えたかったから」そして「日本各地に待ってくれている人がいたから」と語る。

スヨンさんはこれまでも、日韓友好フリーハグを何年も続けてきた。Youtubeにアップしたフリーハグ動画へのコメントの他FacebookなどSNSには、直接、批判のメッセージが届くことも少なくないという。

日本側からは「日本に来ないでください」というメッセージが届き、韓国側からは「問題となっているのは政治や政府間の関係。ハグなんかで何が変わるんだ」「日本では今、嫌韓本がベストセラーになるくらい、韓国が嫌われている」などと強い口調での批判が来るという。

スヨンさんはそれらに対し「ハグだけで日韓関係が解決できるとは思っていません。けど友好の雰囲気を作っていくのは私たちだと思うんです」と話す。

ハグを通して、韓国、日本の人々に伝えたいこと

8月に浅草で行なったフリーハグの後、韓国に帰国し、日本製品の不買運動などを母国で目の当たりにした。

「それは日本政府に対する怒りであり、日本人への怒りではないと分かっていても、不買運動に参加することが『愛国心を表す』というような雰囲気に賛成できませんでした。日本が好きな若者たちが、日本旅行に行きたくても行けない、そんな空気さえあります」

「日本で嫌韓本が売れたり、嫌韓の流れがあっても、それは日本社会全体の意見ではありません。日本の中でも色々な意見があるということを、ハグを通して韓国の人々に知ってほしいと思いました」

また、日本でも様々な報道がなされる中で、こんな韓国人がいるということを知ってもらうために、日本各地を訪れた。

各地で人々が差し伸べてくれた「優しさ」

スヨンさんはフリーハグをするたびに、人との出会い、そして優しさに胸を打たれるという。

今回の日本縦断のスタート地点となった札幌市では、10月19日とは言えど気温は10度を下回っていた。韓国から持参したチマチョゴリ(韓服)を着て、かじかむ手をさすりながらハグを待っていると、一人の男性がスヨンさんに近づいた。

男性が「がんばってください」と言いながら、少し恥ずかしそうにスヨンさんに差し伸べたのは、ペットボトルの温かいお茶だった。

静岡市では、駅前でハグをしていると小雨が降り始めた。ハグはプラカードを持ちながらするために、両手が塞がるので、傘は持たずに継続していた。

すると通りすがりの若い女性が、自分が持っていた傘を差し伸べてくれた。女性はハグをして、笑顔で去っていったという。「だからハグがやめられないんですよね」、笑いながらスヨンさんは話す。

栃木県宇都宮市では、小学生と中学生、その母親の親子連れがSNSの情報を見てハグに訪れた。中学生の女の子は号泣しており、理由を尋ねると、今夏、日韓関係の悪化により、参加する予定だった日韓交流事業が中止になり、韓国へ行けなかったからだという。

スヨンさんは「女の子が泣いていたからびっくりして、理由を尋ねたらそういうことだったので本当に悲しかった。子どもは政府間の問題に関係ないのに…」と話す。親子は、交流事業に女の子が参加できなかった代わりに、スヨンさんとハグをしに来たのだ。

「日韓関係にもいつか虹が架かる」

名古屋市で忘れられない光景をみた。

その日は、朝から雨が降っていたが、フリーハグを始めると太陽が出始め、ハグを続けていると、背後に虹が架かったのだ。

名古屋では、芸術祭「あいちトリエンナーレ」で「少女像」などが展示され、展示中止などの問題も発生。「名古屋の全体的な雰囲気が敏感になっていた」という。

実際、最初にフリーハグを予定していた場所では「危ない」との理由で実施を断られていた。

そんな中、名古屋で架かった虹。スヨンさんはインスタグラムへの投稿にこう、思いを綴った。

「今の日韓関係にも雨が降っていますが、きっと太陽が日韓関係にも虹を作ってくれるのではないかと信じています」

「その太陽は、日韓友好を願う私たちの小さな行動だと、わたしは信じてます」

100人のボランティアも日韓友好を目指す「仲間」

スヨンさんはフリーハグをする際、写真や動画の撮影をしてもらうなどのサポート役のために、訪れる先々でボランティアを募り、グループで行なっている。

今回、15都市でボランティアをやった合計人数は100人を超える。スヨンさんは、日本人のボランティアの人たちを「仲間」と言い表す。

大半のボランティアは、SNSやYoutube上でスヨンさんのフリーハグを知り、活動に賛同してインスタグラムなどを通して連絡をしてきた人々だ。女子高校生もいれば、60代の男性などもおり、年代や立場は様々。

ボランティアに一つ共通しているのは「日韓友好を願う思い」だ。

今回の日本縦断で、スヨンさんがボランティアの力を大きく感じた場所がある。福島市だ。

福島市では今回、福島大学の学生らが、大学と駅前、2カ所でのハグをサポートしてくれたという。学生らは新しいプラカードなどを手作りし、スヨンさんを「大歓迎 ユン・スヨンさん。福島応援・日韓友好フリーハグ」の横断幕で迎えた。

スヨンさんは今回、福島県では他の都市のハグとは違い、日韓友好に加えて「私は福島を応援します」という文言をハグをする際のプラカードに加えた。そこには当初は、複雑な思いもあった。

実は今回、日本縦断の旅に、福島市を加えたこと自体、スヨンさんにとっては大きな決断だったという。それは、2011年の東日本大震災の際に発生した、福島第一原子力発電所事故のことが、頭の片隅にあったからだ。

韓国では、福島県産食品の一部を輸入停止しており、韓国でなされる報道などを目にしていると、やはり「福島に行くのが少し怖い」という思いがあったという。

日本縦断を発表した際、福島大学の教授から「ぜひ福島でもハグをしてください」と連絡を受けていたが、なかなか決心がつかなかったという。

福島をめぐる報道は、韓国語、英語、日本語でそれぞれニュアンスや内容も違い、「何を信じたら良いか分からなかった」。だからこそ「実際に福島に行って、ハグをし、話を聞きたい」、そう思って福島でもハグを行うことを決心したという。

福島を応援したいという気持ちから、日韓友好に「福島応援」を加えて実行した。実際、福島を訪れたスヨンさんは「学生さんたちとたくさん話し、本当に勉強になりました。やはり報道で見ているのと、実際自分で体感するのは違うと思いました」と語る。

韓国人観光客の激減で打撃を受けた対馬

今回は当初、北海道から沖縄まで、14都市でハグをする予定だった。しかし、出発の寸前になって行き先に加えた場所がある。対馬市だ。

対馬市は、韓国と歴史的な繋がりがあることも影響し、韓国人観光客がよく訪れる場所だ。年間40万人以上、韓国人観光客が訪れていたという対馬だが、日韓関係の悪化で、今年は観光客が激減していた。

そのことをニュースで知ったスヨンさんは、日本縦断の終着地、沖縄に行く前に、対馬にフェリーで渡ったという。

スヨンさんを迎えたのは、予想以上にガランとした街並み。地元の人には「いつもなら韓国人観光客の観光バスがずらっと並んでいて、とても賑わっているんですよ」と言われ、自分が目にした光景との違いに驚いたという。

「韓国人観光客が激減し、自分も首になってしまった」という元観光業関係者もハグに訪れ、政府間の政治問題は「日常生活にも関わってくる問題なんだ」と感じたという。

ハグをしに来てくれた地元の人にはこう言われたという。

「日韓関係がこのようになっていて、仲良くしたいけど、どうしたらいいか分からない。でも今回、ハグができて、自分にできることができた気がする」

日韓への思い込め、色味決めた韓服

今回、日本縦断をするにあたり、いつもフリーハグの際に身につけるチマチョゴリ(韓服)も新調した。寸法から色味まで、オーダーメイドで作られているというこの韓服には、スヨンさんの日韓関係への思いが込められてる。

韓服の色味を決める際にイメージしたのは、日韓両国の国旗だ。

日本と韓国の国旗に含まれる白と赤に加え、韓国の国旗にある青は、オッコルンと呼ばれる胸部の紐部分と袖に、少し濃い色味で用いたという。

ネット上でスヨンさんの活動を批判する韓国人の中には「なぜ韓服を着ながらやっているんだ。韓国の恥」などと言われることもあるという。

しかしスヨンさんは「自分の国や文化に誇りを持っているからこそ、韓服を着てハグをしています」と語る。だからこそ、今回、両国の色を取り入れた韓服を作った。

現在の日韓関係をめぐっては、複雑な思いを抱く人が多くいる。スヨンさんのもとにハグに訪れた人々も、日本人や在日コリアンの人々など、辛い思いや葛藤を、時には涙を流しながら話していく人も少なくないという。

「毎日多くの人に、辛い思いなどを話して頂いたので、やはり一人では受け止められない時もあります」

しかし、スヨンさんは一人一人話を聞き、向き合ってきた。

今年の夏に、沖縄での約1年間のワーキングホリデーを終えたスヨンさんは現在、日本の大学院に進学するために準備を進めている。

今後も、日韓両国でフリーハグは継続していく予定だが、院で日韓関係などを研究し「ハグの他にも、次に第一歩、自分に何ができるのか考えて行きたい」と話す。