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「死にませんようにと祈りながら…」体が激しく上下するデコボコ道を10時間。それが投票への道のり。ネット投票まだ? 海外の日本人の声

発展途上国に住む日本人にとって、在外投票をするには高いハードルがあります。ネット投票の導入を求めて「発展途上国・有権者ネットワーク」をつくり、アフリカなどから活動する日本人に話を聞きました。

体が激しく上下するようなデコボコ道を往復10時間。酔い止め必須。途中トイレはないので我慢ーー。

そんな状況で、投票所に向かわなければいけない人たちがいる。

アフリカ・ガボン共和国に住む日本人女性は、在外投票の大変さを知ってほしいという思いから、車窓から撮った動画をTwitterで発信した。

在外選挙に「ネット投票」の導入を求める声が強まっている。

アフリカ在住の日本人などが中心となっている「発展途上国・有権者ネットワーク」のメンバーに話を聞いた。

「事故に遭いませんように、死にませんようにと祈りながら…」

これがガボンの国道です。片道5時間かけて首都に行きます。酔い止め必須。途中トイレはないので我慢。気合い入れて車に乗ります。選挙のためだけに大使館のある首都まで上がる気は起きるのだろうか。【ガボン在住32歳女性】

Twitter: @tojokoku_senkyo

ガボンの国道を撮影した動画

海外から日本人が投票するには、在外選挙人名簿へ登録し、大使館や総領事館などで行う「在外公館投票」のほかに「郵便投票」などの方法がある。

発展途上国・有権者ネットワークのメンバーで、動画を撮影したガボン在住の日本人女性によると、首都にある在外公館で投票をするには、まずは相乗りの車と運転手を手配するところから始まり、1日使って移動する必要があるという。

BuzzFeed Newsの取材に、在外公館への道のりをこう説明した。

「国道なのに細い道やカーブも多く、毎回事故に遭いませんように、死にませんようにと祈りながら車に乗ります。かなり過酷です」

「先進国に住んでいる人からは信じられないかもしれないですが、シートベルトや冷房もなく、ボロボロの車もたくさんあります。車を探すのも大変ですし、舗装されていない国道で、首都に上がるだけでも一苦労です」

ほかに制度上、郵便投票という方法もある。しかし日本と違って郵便は、確実に届くか、いつとどくか、出してみないと分からない。郵便が頼りにならない国は、世界的には決して珍しくない。

だから、「郵便という選択肢はない」という。

「ネット投票を導入してほしい」という思いで、仲間と発展途上国・有権者ネットワークを立ち上げ、活動している。

「#やっぱネット投票しかない」発展途上国からも多くの声

2022年参院選です! 本日から投票可能な国も多いはず。 発展途上国にお住まいの皆様。 投票に関する苦労話、エピソードを教えてください。 「#やっぱネット投票しかない」 このタグで途上国の選挙事情を集めてます。 あなたの声で日本の選挙制度を変えましょ。

Twitter: @tojokoku_senkyo

発展途上国・有権者ネットワークの中心メンバーは、アフリカや東南アジアに住むJICA海外協力隊員の一部の有志。

派遣の活動とは別で、個人的に集まり運営している。

2021年10月に実施された衆院選では、解散から公示までの期間が短く、そこにコロナ禍での郵便の遅れなども重なり、投票を泣く泣く諦めたり、投票したのに間に合わず一票が無駄になってしまったりした在外邦人が続出した。

さらに、途上国では交通事情も郵便事情も日本での想像を超えるほど悪いことが珍しくなく、首都にある日本大使館に行くことも、郵便をつかって投票することも困難な現実がある。

これは途上国だけの問題ではない。アメリカでも、例えばニューヨーク州北部の主要都市バッファローから、ニューヨーク市中心部の日本総領事館まで、車で7時間ぐらいかかる。

飛行機で飛べば早いが、往復数万円の航空券代を自費で出す必要がある。同じ州内とはいえども、気軽に投票に行ける状況ではない。

前回の衆院選の際、ネットワークのメンバーの多くは、赴任先に派遣されたのが選挙の約1ヶ月前だったため、投票ができずに悔しい思いをした。

発展途上国に住む日本人の、在外投票に対する意見を可視化しようと、Twitterアカウント「発展途上国 在外選挙サポート(@tojokoku_senkyo)」を開設。

#やっぱネット投票しかない」のハッシュタグで、在外投票からネット投票導入を求める声を集めている。

このハッシュタグは、以前の国政選挙の際に使われていたものだが、今回の選挙でも引き続き、意見を集めようと使用しているという。

Twitterではハッシュタグを通じて、各地の発展途上国から、このような声が寄せられた。

《徒歩2時間半+ソンテウ(乗合タクシーのようなもの)、バスの利用で260円。疲れた…(ラオス)》

《前回は大使館に相談したが在外選挙人証が間に合わずに投票できず。途上国の郵便事情はお上の想像より不安定だ。今時アフリカでもネットは使えるんだから全部ネット投票にしてくれ(ナミビア)》

外務省によると、海外に住んでいる日本人は、2021年10月現在で約134万人。うち、在外選挙人名簿の登録者数は9万6664人で、実際に前回の衆院選で投票したのは約1万9千人だった。

登録者の中での投票率は約20%だったが、選挙権を持つ在外邦人全体で推計すると、投票率は2%以下にとどまっているのが現状だ。

手続きの煩雑さや、在外公館での投票に向かう困難さが、2%以下という低投票率の大きな原因となっているとみられている。

「参政権が保障されている気がしない」「悔しい」

ネットワークのメンバーで、アフリカ南西部に位置するナミビア共和国に住む日本人男性は「参政権が保障されている気がせず、悔しいです」と話す。

「ネット投票であれば、我々若者は投票します。アフリカでも、地方に行ってもネットにアクセスできます。今回、ネット投票を求める声は強いと改めて感じました」

「これまで棄権せざるをえなかった過去の在外邦人は、泣き寝入りしてきた部分があると思うので、私たちが声を上げていかねばと思っています」

ネット投票をめぐっては、総務省は2020年2月に、在外投票でのネット投票の実証実験を実施。ネット投票を国政選挙で導入する際には、まずは在外投票からの導入である可能性が高い。

男性は、「実効性のある、誰もが使えるところまで落とし込んで、その検証と必要な改善まできっちりやってほしい」とし、その後の国内でのネット投票導入についてもこう話した。

「私たちは、在外投票からネット投票を求める運動をしていますが、今回の活動を通して、日本国内からネット投票を求める声も多いと感じました。子育てが大変で投票所に行きにくいという方や、障害があり移動が負担だという方からの声がありました」

「移動が苦じゃないというのは、一部の健康で時間がある人の『特権』だと思っています。そういう人だけの声を拾っていても、そうじゃない人たちの声が反映されない政治になる。本当に変革を求めている人たちの声が、聞こえるような選挙制度であるべきです」

多くの在外邦人が投票できなかった前回の衆院選後には、欧米に住む日本人女性らが中心となり、在外投票からネット投票導入を求める署名を立ち上げ。2万6千筆以上を外務省などに提出した。

署名では、今回の2022年7月の参院選で、在外投票でのネット投票実証実験を実施し、25年の参院選での本格導入を求めていたが、今回の選挙での実証実験は叶わなかった。

発展途上国・有権者ネットワークのメンバーも、そのような活動を見ていて、背中を押されたという。

参院選は、7月10日に投開票を迎える。

ナミビア在住の男性は、今後の活動については、こう語った。

「参院選に向けて、各党はネット投票についての意見を聞かれています。そして実際に、導入に向けた議論が始まるのはその後だと思うので、そこでしっかりと提案をしていただけるように、国会議員の目に声が届くようにしていきたいと思います」

「ネット投票導入が実現するまで、活動を続けていきたいです」