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「私たちは血と涙を流して、その権利を求めた」ある女性があなたに伝えたいこと

民主的な選挙を求め、集会などに参加していた香港出身の女性。衆院選の投票日を前に、日本の有権者に、伝えたいことがあります。

「日本の人たちは現在、何も犠牲にすることなく、公正に投票する権利を持っています。それは本当に恵まれていること。その権利を持っているなら、ぜひ選挙に行ってほしい」

日本の有権者に対し、香港出身の李小明さん(仮名)はこう語りかける。

香港では、民主主義と公正な選挙の実施などを求め、大規模な集会やデモが繰り広げられてきた。

女性も路上に立ち、声を上げた市民の一人だったが、香港の現状に希望を見出せず、今年の始めに日本に移住した。

10月31日に衆院選の投票日が迫る中、女性が日本の有権者に伝えたい思いを聞いた。

李さんは日本に移住する前、仕事終わりや週末などの時間を使い、一市民として民主主義を求める運動に参加していた。

当局に逮捕された人の弁護士費用を寄付し、海外への情報発信にも力を入れた。

香港政府のトップである行政長官の選挙では、人々が直接投票することはできず、事実上、中国政府が認めた候補者しか立候補することができない。

民主派の人々は、自分たちを代弁してくれる候補者も立候補でき、人々が直接投票できるような、民主的で公正な選挙の実現を求めてきた。

「逃亡犯条例改正案」撤回や普通選挙などを求めた2019年の長期にわたるデモでは、警察がデモの参加者に催涙ガスを発射。暴行による、ケガ人も出た。

李さんは、日本の有権者に向けて、こう思いを吐露する。

「もし自分の声を代弁するリーダーを選ぶ権利があるなら、その権利を公使するべきです。なぜなら、世界にはその権利を持っていない人もいるからです」

「香港と同じように、民主的に投票する権利を得るために長い期間、闘ってきた人たちがいます」

「投票するという力を得るだけなのに、私たちは血と涙を流しながらその権利を求めてきました。時には犠牲者やけが人も出ました」

逮捕、亡命…。「排除」された民主派の議員たち

日本では現在、保守からリベラルまで、様々な政党があり、有権者は自分の考えに合う政党や候補者に自由に投票することができる。

そんな日本の「普通」も、李さんの目には「特別なこと」のように映る。

「日本のような『確立された社会』では、投票に行かない気持ちも分からないでもありません。きっと、自分の日常からは政治が遠すぎて、無関心になってしまうのだと思います。政治家の顔ぶれが少し変わったとしても、政治にそこまでのインパクトがないと感じてしまうのかもしれません」

「でも、投票権を持つ日本の人たちは、公平な選挙を求めて路上で叫び闘うことなく、選挙に行くことで政治に意見することができる」

「あなたの声を代弁するリーダーを選ぶ権利を持っているということは、実はすごいことなのです」

2020年6月には「香港国家安全維持法(国安法)」が施行され、民主化運動や政治にも大きな影響を及ぼした。

デモは厳しく取り締まられ、これまで路上で開いていた集会なども事実上禁止に。歴史ある民主派団体も次々と解散に追い込まれた。

中国の習近平指導部は今年3月、香港の選挙で立候補する際に、体制に忠誠を誓うことを求める新制度を導入した。

反発した民主派議員が大量に辞職したり、議員の資格を剥奪されたりする事態が起こっている。

国安法に違反したとして、民主派議員や元議員らが一斉逮捕されることもあった。

李さんは言う。

「人々の声を代弁して仕事をしているだけの政治家が、違法とみなされてしまう。このような哀れでばかげたことが今、香港で起こっています。選挙制度は、まったく機能していないのです」

「国安法では、どのような行為が違法行為となるかが不透明です。都合のいいように解釈して、国家が政治家を逮捕してしまう」

李さんが集会などの活動に参加している時に支持していた民主派の議員らは、次々と逮捕された。国外への亡命を選んだ人もいる。

見えなくなった未来。「香港に民主主義が戻ってくるまで」

中国当局の力が日に日に強まっていく香港の状況に直面し、李さんは様々な思いでがんじがらめになった。

「暴力を用いる警察に真正面から対峙したデモ参加者たちは、『英雄』だと思っている。私はデモに参加して、路上で警察に呼び止められるだけでも怖かった」

「今の状況では、香港の民主主義に貢献できない」。そう感じ、李さんは香港を去ることを決めた。

「香港に未来が見えなかったから、日本へ移住しました。選挙も機能せず、デモもできない。自分が非力だと感じ、それなら海外からできることをしたいと考えました」

海外に亡命した活動家や市民たちは、現地で香港人のグループをつくり、民主主義を求める活動を続けている。

李さんも日本でデモに参加し、情報発信している。

「日本では、逮捕されることを恐れずにデモに参加できるし、こうして記者に思いを伝えることもできる。香港では警察に情報が漏れることを避けるため、周りの人に自分がどんな活動をしているか話すことはありませんでした」

「香港に民主主義が戻ってくるまで、自分にできる範囲のことをやっていきたい」と李さんは語る。

香港で「投票できる日」を夢見て

今は日本で生活する李さんも、いつか香港で、民主的な選挙で投票することを望んでいる。

「真の民主主義が実現し、公平な選挙が行われて、香港の人々が自分のリーダーを選ぶことができる日を待っています」

「それは長くて難しい道のりかもしれませんが、その日を心待ちにしています。私も、一緒に民主主義を求めて活動してきた友人も、それぞれが置かれた状況で自分にできることをやっていきたいと思います」