ゲイバーなどが集まり、LGBTの街として知られる東京・新宿2丁目。そこで長年開かれている老舗レズビアンバー「Gold Finger」の月1回の女性限定イベントで今春、トランスジェンダー女性が入場を拒否された。
差別ではないか、と批判が広がり、店は6月8日に声明を発表。謝罪をするとともに今後は「トランスジェンダー女性の入場を断らない」と明記した。
セクシュアル・マイノリティへの偏見や差別をなくそうという運動が広がる中で「当事者間での差別」と注目が集まった今回の問題。何があったのか。

トランスジェンダー女性が「シスジェンダーのみ」と拒否された
発端は今年4月、トランスジェンダー女性のエリン・マクレディさんが入場を拒否されたことだった。
この店のWebページには「レズビアン&バイ女性が安心して楽しめるLGBTQミックスバー」との説明がある。しかし今回、店が主催する月に1回の女性限定イベントで、マクレディさんの入場を断り「店のポリシー」と説明した。
マクレディさんはその日、このイベントでDJをする友人に招待されていた。
「女性限定イベントで自分がトランス女性だから入れないかもという思いはあったんですが、IDには『女性』という表記もあるし大丈夫だと思ったんです」
マクレディさんは母国アメリカで性別を変更しており、パスポートや日本に住む外国人の身分を証明する在留カードの表記は「女性」だ。ホルモン投与も受けている。
批判を広げたのは、GOLD FINGERのその後の対応だ。入場拒否後、店はTwitterでこのイベントへの入場資格を以下のように発表した。
WOMEN (cisgender) ONLY: 過去の事例と日本での状況を踏まえ、弊イベントにご入場頂けるのはシスジェンダーの方(生まれも性自認も女性)とさせて頂いております
シスジェンダーとはトランスジェンダーの対義語で、生まれたときに診断された性別と自分の性自認が一致していることを意味する。つまり、事実上、トランスジェンダーの入場拒否を意味する。
「トランスジェンダー全体やコミュニティの人権の問題」
これに対し、マクレディさんや友人たちは抗議の意味を込めたイベントを独自開催することに。コンセプトは「トランスジェンダーをサポートし、全てのジェンダーやセクシュアリティを受け入れる」だ。
マクレディさんはBuzzFeed Newsの取材にこう語った。
「入店を断られたのは私ですが、これは個人的な問題だとは考えていません。トランスジェンダー全体やコミュニティの人権の問題と捉えています」
The next WIFE💜ワイフ is 6/14! Trans/queer/lesbian party🌈Everyone is welcome, everyone come!!!✨💕次回のワイフは6月14日〜トランス・クィア・誰でも皆様是非遊びに来て! flyer design: @super__kiki #wife #lgbtq #trans #queer #tokyo #transgender #ワイフ #トランスジェンダー
GOLD FINGERが謝罪「あってはならない間違い」
入場拒否に対する批判が広がる中、Gold Fingerは6月8日に声明を公開した。
入場資格について「シスジェンダーの方のみ」と記したことを「絶対にあってはならない間違い」と謝罪。「今後はトランスジェンダーであることを理由に入場をお断りすることはございません」と明記した。
BuzzFeed Newsはオーナーの小川チガさんに話を聞いた。
「月に1回のウーマン・オンリー(女性限定)のイベントは1991年に始めて、28年間ずっと続けてきました。もともと、シスジェンダー限定ではなく、トランス女性も以前から入場して頂いていました」
ではなぜ今回、入場を拒否し、しかもTwitterで「シスジェンダーのみ」と説明したのか。
Gold Fingerはもともとは女性限定のレズビアンバーだったが、謝罪の声明文にもある通り、「時代の流れとともに、LGBTQ+全てのお客様が自由に交流できる場の重要性や意義を強く感じ、現在では日曜から金曜まではどなたでもご来店いただける営業形態」となっていた。
ただし、この「女性限定イベント」に関しては「女性だけの空間だからこそ、安全に、安心して楽しんでいただける環境で、女性同士の出会いの場を作りたい」が趣旨で、91年に始めた当時はトランスジェンダー女性が来ることを想定しておらず、その後も基準は曖昧なままだったという。
「入店に関しては個別の対応であり、ジェンダーやセクシュアリティはグラデーションがあり色々な人がいるので、一概に決めるのは難しかったんです」と小川さんは説明する。
〈お詫びとお知らせ〉 平素よりGOLD FINGERをご愛顧頂き誠にありがとうございます。先日イベントへのご入場に関し不適切なご案内がございました。心よりお詫び申し上げると共に、今後も安心・安全に楽しんで頂ける空間をご提供できるようスタッフ一同より一層精進致します。 https://t.co/TcQ8bwRyPF
全ての女性が楽しめる空間を
今回、マクレディさんの入場を拒否し、「シスジェンダーのみ」という説明をしたことについて、小川さんは全面的に謝罪した。
「シスジェンダーという言葉も実はよくわかっていないままで、この言葉がトランスジェンダーの排除であると受け止められてしまうとは思っていませんでした。シスジェンダーという言葉を使ったりしたことは勉強不足であり、間違いであったと認めます」
お店にはこれまでもトランスジェンダーの客は来店しており、トランスジェンダー男性がスタッフとして働く日もある。入場拒否に「トランスジェンダー排斥」という意図はなかったといい、次のように話す。
「今回だけでなく、これまでも入店時のチェックでお客様とトラブルになることがありました。イベントに入場したいお客様とそれをお断りするお店とでトラブルになるくらいであれば、イベントのお客様の対象をシスジェンダーに限定して、その他の方はMIX営業の日にご来店いただき、こうした入店時のトラブルをなくしたいと、安易に考えてしまいました」
小川さんは今後について、改めて「トランスジェンダーであることを理由でお断りすることはない。全ての女性が楽しめる空間を目指していくということに変わりはない」と話した。

ローカル・ルールでは通らない時代
トランスジェンダー当事者であり、ジェンダー・セクシュアリティの研究をする三橋順子さんは「今回の問題は一店舗の運用やルールという話ではなく、より広く捉えるべき人権の問題」と指摘する。
Gold Fingerに限らず、「これまでもあった入店の問題が、エリンさんの告発で浮き彫りになった」と三橋さんは話す。
LGBTQ+という言葉が示す通り、セクシュアリティはレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーだけでなく、多様で複雑だ。三橋さんにはそこには「住み分け」があり、「2丁目のローカル・ルールがあった」という。
今回のように女性限定イベントで「シスジェンダーのみ」と明記することは、はっきりとトランスジェンダー女性を排除することに繋がる。
三橋さんはこう懸念する。
「ローカル・ルールは世界基準では通らない。人権問題としても、国際感覚的にはありえないこと。世界基準とローカル・ルールのずれによって生まれた問題だと思います。これまではそれで通っていたけど、考えなければいけない時代になってきた」
一方で、過去には2丁目では、トランスジェンダーを装った男が、女性のみの店に入店、性的な嫌がらせや盗撮などが発生したこともあった。客の安全を守るために「入店ルールを考えなければいけなかったのだろう」という意見もある。
三橋さんは「安全性を脅かす人を排除し必要な警備を強化すれば良いわけで、トランスジェンダーを排除しなくてよいのでは」と指摘する。
「LGBTの人権のために協働していきたい」
マクレディさんは、トランスジェンダー女性の入店も断ることはないというGold Fingerの声明や謝罪を歓迎。BuzzFeed Newsにこうコメントした。
「日本や二丁目でのトランスジェンダーへの理解やトランスが生きやすい社会作りにつながることを願っています。そして小川さんも一緒に、日本でもトランスジェンダーが生きやすい社会づくりやLGBTの人権のために協働していきたいと思っています」
今回、日本最大のLGBTイベントを主催している東京レインボープライド(TRP)に対しても見解を求める要望書が公開されるなど、影響が広がっていた。
BuzzFeed Newsが問い合わせたところ、要望書への返答は現在内容を協議しているといい、「TRPは全ての差別に対して反対してきました。LGBTの当事者間でもお互いへの理解が進むように活動を続けていきたい」と述べた。