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「この人と一緒にいたい」不法滞在の外国人トランス女性に在留許可。入管はパートナーとの関係性重視か

26年間、不法滞在となっていた外国籍のトランスジェンダー女性に、入管は在留特別許可を与えました。

26年間にわたり「不法滞在」の状態となっていた外国人トランスジェンダー女性Aさん(58)に、入管は今年8月、在留特別許可を与えた。

日本で2002年から同居し、婚姻関係同然の生活を送ってきた日本人男性Bさん(67)との関係を入管が重視した、と2人の代理人ら関係者はみている。

Aさんは1981年にエンターテイナーとして来日したが、その後正規の在留資格を更新できないままとなっていた。2017年3月、女性は入管に出頭し、今年8月に在留資格を取得した。

Aさんは「私たちは家族。本当にありがとうございます」と、在留資格が出たことに対し、感謝の気持ちを表した。

「今後も同じような判断」期待

AさんとパートナーのBさん、弁護士らは9月2日、東京・司法記者クラブで会見を開いた。

2人の代理人を務める熊澤美帆弁護士は「入管も、審査の段階から2人に配偶者用の書類を用意してくれ、妻、夫という呼び名で対応してくれていた」と、入管の配慮や理解を評価した。

不法滞在の状態にある外国人に在留資格を付与するかどうかは通常、法務大臣の「裁量」となっている。今回のケースも、何が許可の決め手となったのかは、明確には示されていない。

Aさんは現在、法律上は男性のため、同性婚を認めない日本では、婚姻関係を結べない。しかし、入管はAさんの審査の際、「配偶者用」の書類を準備し、パートナーのBさんにも入管から長時間の聞き取りなどがあったことから、熊沢弁護士は「2人の関係性が認められたことも大きな理由の一つ」という見方を示した。

熊澤弁護士は「審査にはガイドラインがあり、そこでは法律婚を前提としている。カップルの婚姻関係が真摯なものか、成熟したものかという判断基準があるが、今回は、婚姻はしていなくとも、2人の関係が真摯で成熟したものという判断がされたのだと思う」と話した。

そのうえで、このケースをきっかけとして「同性カップルなど現状では婚姻関係を結ぶことができないカップルも、同じように判断されることが望ましい」と語った。Aさんには現在、1年間の「定住者」の在留資格が出ている。

母国で受けた差別。日本は「私の居場所」

Aさんは東南アジア出身で、性自認を巡り、出身国での宗教的、文化的な理由により、幼い頃から精神的・肉体的暴力を受けていたという。家族への配慮などから、出身国は明かしていない。

Aさんは子どもの頃から、家族からも「男らしくない。男らしくしてやる」などと言って1人山の中に置き去りにされたりするなど、日常的に暴力を受けてきた。

母国では、差別や偏見に苦しみながら生きてきたが、1981年にエンターテイナーとして「興行」の在留資格(ビザ)で入国し、日本で過ごした際、「私の居場所をやっと見つけた」と思ったという。

日本では性自認を理由に差別を受けることはなくトランスジェンダー女性として受け入れられ、1993年には「もう母国には戻らない」と決意したという。しかしその後、ビザが切れて「不法滞在」となった。

「この人と一緒にいたい。それが一番だから」

Aさんは2001年、Bさんに出会い、翌年からは同居を始めた。2人は婚姻関係同然の生活を送り、2012年には2人で住むための家も購入している。

支え合い、幸せな生活を送る中で、Aさんは正規の在留資格がないため、「隠れながら生きる状態」だったという。Aさんは2013年に肺がんで入院し手術を受けたが、在留資格がないため健康保険に入れず、多額の医療費を支払った。

2015年、パートナーのBさんがくも膜下出血で入院し、手術を受けた際、「この人とずっと一緒にいたい」と思い、17年に母国への強制送還のリスクもあったが入管に出頭したという。

2015年には、東京都渋谷区で日本初の「同性パートナー条例」も成立し、気持ちの面で後押しとなったという。

2人の居住する自治体には、同様の条例はないが、2016年5月に2人はパートナーシップ合意契約公正証書を作成し、Bさんは遺産などに関してもAさんを受遺者とする遺言公正証書を作成している。

弁護士の中川重徳さんは「2人共、高齢になってきていて、重い病気を抱えており、強制帰国となったらもう人生を別々に生きないといけなくなる。法律上の性別関係なく、支え合って、お互いの病気も思い合って生きている。家族であれば一緒に生きるべき。それが夫婦、家族であろうと、強く(審査でも)訴えました」と話した。

仮放免の手続きのため入管に出頭した日、Aさんは「強制送還も覚悟していた」。

しかし、入管職員がフォルダから強制送還の書類ではなく、在留資格を認められたことを意味する在留カードを出した時、その場で泣き崩れたという。

Aさんは話す。「この人は私にとっては旦那。この人と一緒にいたい。それが一番だから」。

「本当に『いい国』と胸をはれるように」

Aさんは母国で受けた差別や偏見の経験から、「日本では差別もなく、本当にいい国だと思った。だから居場所だと思った」と話す。

一方で、中川弁護士はトランスジェンダーや同性カップルらが置かれる、日本での厳しい状況も指摘する。

「Aさんは『いい国』と言ってくれているが、G7で同性婚や同性パートナーシップを保障する制度がないのは日本だけ。日本が胸を張ってLGBTQの人々に対して本当に『いい国』だと言えるように、日本の社会や法律が(同性婚などを)認めていかないといけない」

中川さんはAさんの在留許可に関しても「お2人は支え合って生きてこられた。同性同士でも、家族という状態であるということを加味しようという流れになってきていると思う。この判断がスタンダード、そして法律の制度になっていってほしい」と話した。

2019年3月には、日本人の男性パートナーと生活をともにしてきた、台湾出身の男性に、在留特別許可が出ており、外国籍の同性パートナーに在留資格が付与されるのは、Aさんで2件目とみられる。

日本では現在、同性同士の結婚を認めないのは、憲法が定める「法の下の平等」に反しているなどとして、9月2日時点で全国12組の同性カップルが集団訴訟を行なっている。

Aさんは日本での同性婚法制化に関しても、「希望を持っています。もしそうなったら、私たちはすぐにでも婚姻届を出したい」と話した。

またパートナーのBさんも、「すぐには変わらないかもしれない。けど、ひとつずつ進めていかないと変わっていかないかなと思います」との思いを述べた。