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「女子というだけで不利」「私立なんだからよくない?」中学受験の男女差にモヤモヤ…専門家の見解は?

共学の私立中学校には、受験の際に男女で募集人数や合格最低点が違う学校が…。この問題をどのように考える?中学受験塾の代表取締役、矢野耕平さんに話を聞きました。

共学の私立中学の中には、受験の際に男女で募集人数や合格最低点が違う学校がある。

多くの場合、女子の方が男子に比べ募集人数が少なく、合格最低点も高いなど不利な立場に置かれている。

この問題をどのように考えるべきなのか? 中学受験の学習塾「スタジオキャンパス」代表、矢野耕平さんに話を聞いた。

男女人数比、入試の偏り…「どっちを取るか。モヤモヤする問題」

「共学校とうたうのであれば、男女の人数は偏りをなくすべきなのかもしれません。難しいのは、偏りなく人数を確保しようとすると入試が偏る。入試の偏りをなくそうとすれば、男女の構成比が大きく偏るんです」

中学受験に長く携わってきた矢野さんはこう語る。

「どっちを取るかという話で、難しいです。正解があるかといえば、ないのかもしれません。モヤモヤする問題です」

以下の表を見るとわかるように、首都圏の主な私立の共学校では、女子より男子の募集人数が少なく、合格最低点は女子の方が高くなっている。

BuzzFeed Newsが各学校に取材をしたところ、男女差の理由として「成績順だと女子の方が圧倒的に多くなってしまい、共学の概念が崩れてしまう。学力の差があっても同数を優先させている」「(系列校での)進学先の女子の定員が少ないから」といった回答があった。

「学校側の立場もわかる。難しい問題」

矢野さんは言う。

「共学校に入りたいと望む子どもにとっては、女の子であるというだけで、若干不利になってしまう学校がある。だからそれはどうなのかな、とは思います」

「一方で、学校の運営を考えたときに、やはり共学の学校側としては、男女比を半々にしたいのだと思います。学校側の立場もわかるので、とても難しい問題です」

また矢野さんによると、女子が不利になっている学校に比べて数は少ないものの、男子の方が募集人数が少ない学校や、合格最低点が高く設定される学校もあるという。

女子の合格点最低点を高く設定している学校が、仮に男女で合格ラインをそろえた場合、どんな影響があるだろうか。

「とある学校の教員にヒアリングしたところ、女子が7割を超えてしまうと言っている学校もあるようです」

「そうすると男女の人数のバランスが悪くなります。たとえば部活動も組み直さないといけないし、お手洗いなど女子用の施設の数を増やすといった課題も出てくると思います」

2020年度の東京私立中学高等学校協会の調査によると、東京都では男子校(31校)よりも女子校(67校)の方が多い。

「通学可能な都内の私立中学校の数」という観点から見れば、女子の方が選択肢に恵まれていると考えることもできる。

とはいえ、首都圏の共学校に進学を希望する女子児童にとっては、性別が理由で「狭き門」となってしまっていることも事実だ。

医学部入試問題で気づいた「あれ?中学受験も問題じゃない?」

矢野さんは、中学受験業界ではこれまで、性別による差が「当たり前」とされてきたと振り返る。

「僕たちの中では当たり前の話だったんです。ずっとあった問題ですが、『まあそういうものだよね』と、取り立てて話題にすることもありませんでした」

矢野さんが中学受験での男女の扱いの違いに問題意識を抱いたのは、2018年に医学部の入試不正問題が大きく報じられた時だった。

「医学部の不正が大きな話題になった時に、僕は『あれ?これ中学受験も問題じゃないの?』と思いました」

「医学部の問題も『女子の方が不利だよね』と、皆わかっていたはずです。それが明るみに出て、問題になった。医学部問題がなければ、中学受験の件も『そんなものだよね』と通り過ぎていたのではないでしょうか」

医学部入試不正問題では、東京医科大学をはじめ、順天堂大学、昭和大学、聖マリアンナ医科大学などが、女性受験生や多浪生に対し、大幅に不利になるような得点操作をし、合格人数を不正に抑えていた。

「中学受験のこの問題と医学部不正入試の違うところは、中学受験では事前に情報を公開しているということです」

「情報が公開されているので、医学部の不正問題に比べれば、不正とは言えない。ただ、やっぱりモヤモヤするよねという問題ではあります。性差によって有利不利があるというのはどうなの?と」

矢野さんは、2月に出版した『令和の中学受験 保護者のための参考書』(講談社)でも、この件について綴っている。

《共学校の中学入試では堂々と「女子差別」がおこなわれているのです》

《保護者は共学校の中学入試の際に、女子受験生が不利な状況に置かれやすい実態を知っておくべきでしょう》

(第2章「中学入試でおこなわれる『女子差別』より)

また矢野さんは、「共学校の中学入試でこのような『性差』問題が生じていますが、同様のことは東京都立高校の全日制普通科の入試でも見られます」と指摘する。

東京都立高校の入試は、男女をほぼ同数とする男女別定員制で、女子生徒の方が合格ラインが高い。女子受験生が不利な立場に置かれているとして、批判を集めている。

「女というだけで不利になり、差別されるのは違うのでは…」保護者の声

《医学部の「不正入試」「女子差別」関連のニュースを目にするとモヤる。共学校の中学入試では性差による「不平等」が明らかなので》

医学部の「不正入試」「女子差別」関連のニュースを目にするとモヤる。共学校の中学入試では性差による「不平等」が明らかなので。以下は2020年度の共学校の入試結果一覧。女子が不利なことは一目瞭然(日本大学第二など一部の共学校では男子が不利)。この点が問題視されることはなかったのかなあ。

Twitter: @campus_yano

矢野さんは昨年末、中学受験の男女別の倍率や合格最低点をまとめた表を添付して、こんな風にツイートした。

「なにこれ、全然知らなかった」「点差が大きすぎる」とショックを受ける声。「ありえない」「明確な不平等」と批判する人。

「私立なんだからよくない? 受ける受けないの自由もある」「あらかじめアナウンスされている」と理解を示す意見……。

中学受験を検討する保護者らから、様々な反応があったという。

「女子小学生のお子さんをお持ちの保護者の方は、これは嫌だという声が多かったです。女というだけで不利になり、差別されてしまうのは違うんじゃないか、と」

「この仕事を長くやっているので私は知っていましたが、小学生の保護者で、初めての受験だったりすると、まだ情報もなくビックリされた方も結構いたのではないでしょうか」

「男女別の定員の数は公開するべきでは」

共学の私立中学では、募集人数を「男女70人」など合計だけ発表し、入試の実質倍率は女子の方が男子より高い、という学校も少なくない。

「男女別の定員数を出していない学校は、公開すべきです。受験料をもらっているのだから、保護者の方に情報公開すべきだと強く思います」と矢野さんは言葉に力を込める。

「男女で平等に採ってくれるのかといったら、実態はそうではない。筋の通った考えがあるのであれば、男女別の募集人員を書くべきだし、その方がフェアです」

男女別の合格最低点を公開していない学校もあるが、「男女でどれくらい最低点に差があるのかわからないので、公開するべきだと思います」と話した。

「これを機に、一度立ち止まって考えるきっかけに」

今年に入って、私立中学の受験問題について疑問を投げかける報道も増えてきた。

「今の偏りをどうするべきなのか。しょうがないと思っているのか、それとも改善する姿勢を持っているのか、学校側がどう捉えているのかはわかりません」

「しかし、これを機に一度立ち止まって考えてみると、別の考え方や新しい価値観が出てくるのかもしれません。そういうキッカケになると良いですね」