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「成績順にすると女子が圧倒的に多くなってしまう」共学の私立中学受験、女子が不利になるのはなぜ?

共学の私立中学校には、受験の際に男女で募集人数や合格最低点が違う学校があります。慶應義塾中等部、渋谷教育学園渋谷中学校、青山学院中等部、早稲田実業学校中等部、法政大学第二中学校、明治大学付属明治中学校に見解を聞きました。

2018年に大きな問題となった医学部の不正入試問題。複数の大学の医学部受験で、女子受験生や多浪生が不利になる得点操作が横行していた。

最近では、東京都立高校の入試で女子受験生が不利な立場に置かれていることが批判を集めている。男女をほぼ同数とする男女別定員制のため、女子生徒の合格ラインが高くなっているのだ。

実は共学の私立中学の受験でも、女子の合格最低点が高くなり、同じ学力の男子に比べ入学しづらいという問題が生じている。

「成績順だと女子の方が圧倒的に多くなってしまう」「合格最低点を一緒にしてしまうと女子の数が増えてしまう」

中学校からはこんな声が漏れる。私立校には男女比を含め教育方針の自由があり、大半の学校では事前に定員などが明示されている点も医学部の不正入試とは異なる。

一方で、不利な競争環境を強いられる共学志望の女子受験生やその親たちにとっては、「モヤモヤ」が残る仕組みであることも確かだ。

BuzzFeed Newsはこの問題について、学校や専門家らに取材した。計3回にわたって連載する。

中学受験、性別間で「差」?

私立中学を受験をするのは、11歳や12歳の子どもたち。小学校中学年や、早ければ低学年のうちから塾に通い、数年間かけて受験勉強をする。

だが、その合否や難易度は性別によって大きく左右されている。以下の表は、中学受験の学習塾「スタジオキャンパス」代表、矢野耕平さんが作成したものだ。

男子に比べ女子の募集が大幅に少ないために、女子の合格最低点が高くなっている学校がある。

たとえば慶應義塾中等部の場合、今年2月にあった試験で男子の募集人数は約140人、女子は半数以下の約50人だった。早稲田実業学校中等部は男子が85人で女子が40人。結果、両校とも女子の倍率の方が高くなった。

また、募集人数を男女合計で記載しているものの、実際は女子の方が倍率・合格最低点が高い学校も見受けられる。

青山学院中等部は、男女合わせて140人を募集したが、実質倍率は男子3.0倍に対して、女子は6.1倍。女子の合格最低点は男子より29点高かった。

なぜこうした男女差が生じるのか。そして、学校側はどう受け止めているのか。首都圏の有名私立中学6校に見解を聞いた。

BuzzFeed Newsが質問状を送ったのは、慶應義塾中等部、渋谷教育学園渋谷中学校、青山学院中等部、早稲田実業学校中等部、法政大学第二中学校、明治大学付属明治中学校。

うち、慶應義塾中等部、渋谷教育学園渋谷中学校、青山学院中等部、明治大学付属明治中学校の4校が取材に応じた。

法政大学第二中学校は「今後の入試について検討を進めている段階」として回答せず、早稲田実業学校中等部は無回答だった。

【青山学院中等部】

青山学院大学の付属校である中等部は、男女がほぼ同数になるよう募集をしている。

同校によると、今年は志願者・受験者ともに女子の方が200人ほど多かったが、入学者は男女ほぼ同数だった。

前述の通り、実質倍率は男子が3.0倍、女子が6.1倍。合格最低点は男子の162点に対し、女子は191点で29点上回った。

女子の合格最低点数が高い理由について、青山学院中等部の広報担当者はこう答えた。

「極力、男女同数の環境で育ってもらうために(入学者を)同数にしています。成績順にすると女子の方が圧倒的に多くなってしまい、共学の概念が崩れてしまうので、学力の差があっても同数を優先させています」

男女同数にする理由は「ジェンダー平等の考え方なども踏まえて、中学の頃から男女分け隔てなく学ぶ環境を整える」ため。

合格最低点の差を是正する可能性については「今後、あまりにも学力の差が極端になってくると、時代に合わせて変えていく必要があると思います」と述べた。

【慶應義塾中等部】

慶應義塾大学の付属校である慶應義塾中等部は、男女の生徒数が大きく異なる。学校ウェブサイトにも「男女の比率はおよそ2:1です」と記載されている。

今年の試験の募集人数も男子約140人、女子約50人と大きく差が開いた。慶應義塾広報室の担当者は以下のように説明する。

「慶應義塾の一貫教育校の観点から、中等部を卒業した女子の進学先の定員が、男子と比べて少ないことが理由です」

進学先となる付属高校の定員は、男子と比べて女子の方が大幅に少ないという。

高校の女子の定員を増やし、全体で男女同数・あるいは同数に近くなるよう変更する予定はないのか?

BuzzFeed Newsの質問に対し、担当者は「お答えできることはありません」と返した。

【渋谷教育学園渋谷中学校】

渋谷教育学園渋谷中学校は、学校ウェブサイトの「よくいただく質問」のページで「合格者の男女比率を考慮していますか?」という疑問にこう答えている。

《基本的には成績順で男女比を考えずに合格者を決定します。ただし、合格者の男女比バランスが7対3、8対2などの場合、男女の合否ラインに差をつけることもあります》

入試対策部の担当者は取材に対し、次のように説明した。

「男女比を考えずに成績順で合格者を決定しているのは、開校(1996年)以来変わっていません。理由としては、成績順に合格者を出していけば、男女関係なく入学者のレベルが一定になると考えているからです」

「男女比を考えずに成績順で」と言いつつ、実際には女子の合格最低点の方が高い。この点はどう考えればいいのか。

「合格最低点を一緒にしてしまうと女子の数が増えてしまうため、入学者がほぼ半々になるように男子の合格最低点を下げています。ただし、大幅に差がつかないようにとは考えています」

【明治大学付属明治中学校】

明治大学付属明治中学校は2008年に男子校から共学化し、男女の比率を同数に近づけてきた。

明治大学広報課は取材に対し、「入試における男女平等の理念に沿うものにしていこうという中で、2020年度募集時より男女同数の募集にする決定をしました」と回答した。

男女同数に変更したことへの反応については「この制度を導入してからまだ2年と日が浅く、検証段階にあります」とした。

同校は学校説明の資料で、背景や経緯をこんな風に説明している。

《2008年の共学以降、全体の65~75%が男子、25~35%が女子になるよう合格調整していましたが、経年傾向として女子受験生の高得点者が多く、男女の合格ボーダーラインの差を少なくするために、2013年入試より、全体の55~65%が男子、35~45%が女子になるよう変更、2020年度からは男女比1:1を 目指して合格者を発表することになりました。ただし、それでも合格最低点は男女で異なる場合があります》

その年の応募・合格人数によって多少の誤差はあるというが、2020年度入学生の現中学2年生は男子91人・女子83人が在籍。2021年度入学の現中学1年生は男子86人・女子98人となり、同年は女子の方が多くなった。

昨年の入試の合格最低点は1回目で女子の方が10点、2回目で4点高く、今年は1・2回目ともに女子の方が4点高かったが、大きな差異はなかった。

中学受験をめぐる男女間の格差については、今年に入ってネットメディアなどでの報道が相次ぎ、SNS上でも話題になっている。

「知らなかった…」「女子が不利になる状況は早急に解消すべき」という意見もあれば、「事前に公表されている数字」「私立なのでそれぞれの方針では」といった声もある。

「受験できる私立中学校の数」「生徒の選択肢の多さ」を考慮すると、東京都では共学校以外に、私立の女子校が男子校の約2倍あるという点にも留意する必要がある。

こうした実情も踏まえ、私立中学校の男女差問題をどう考えるべきなのか。連載の第2回では、中学受験の学習塾「スタジオキャンパス」代表、矢野耕平さんに話を聞く。

(サムネイル:Getty image)