「黒人と付き合っていることを注意された」アメリカでも日本でも起きている"黒人差別"。ある夫婦がいま伝えたいこと

    アメリカ社会を揺るがしている"Black lives Matter(黒人の命は大切だ)"の抗議活動。アフリカ系アメリカ人の夫を持つ日本人女性が今、アメリカで思うこと。

    アメリカのミネアポリスで、アフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドさん(46)が5月25日、警察官に首を膝で押さえつけられ死亡した事件を発端に、「Black Lives Matter(黒人の命は大切だ)」と訴える抗議活動が広がっている。

    日本での報道は減り、過ぎ去ったことのように感じられる人もいるかもしれないが、米国では現在も大規模なデモが継続的に実施されており、黒人差別の問題は存在し続けている。

    アメリカで「Black Lives Matter」の運動を間近で見てきた、日本人女性とアフリカ系アメリカ人男性の夫婦がいる。

    BuzzFeed Newsは2人に、話を聞いた。

    有理・デービソンさん(26)と、ジョシュア・デービソンさん(27)は、2019年10月に結婚し、ニューヨーク近郊の、ニュージャージー州・ハリソンで暮らしている。

    ジョージ・フロイドさんの死を受け、ハリソンの隣街ニューアークでは5000人が集まって抗議をする平和的なデモも、事件の5日後にあったという。

    ジョージ・フロイドさんが警察官に膝で踏みつけられている映像は、インターネット上で広く拡散され、それがきっかけとなり大きなデモに繋がった。有理さんはその映像を見た時、「驚きよりも強烈な痛みと恐怖を感じた」という。

    その理由を、有理さんはこう語る。

    「今までも彼のように警察による暴力によって亡くなった人たちはたくさん存在し、恐ろしいことに私たちはその事実を『差別』という名の元に、否応にも受け入れて毎日、生活しているからです」

    「コロナ禍で全米が不安な中でも、こんなことが組織的に肯定されているという事実を受け止めるのに時間がかかりました」

    黒人としてアメリカで生きるということ

    ジョシュアさんは、黒人としてアメリカで生活することについて、こう語る。

    「黒人としてアメリカで生きるということは、どれだけ努力をして、どれだけ完璧であろうとしても『黒人である』という理由だけで、築き上げた全てを奪われることがあるということを、受け入れて生きるようなものです。黒人であるという理由で警察官にケガをさせられたり、時には命を奪われたりしてもなお、その警察官は刑罰を逃れることもあります」

    「裁判官は、あなたが黒人であるという理由だけで、重い刑罰を下すこともあります。あなたがもし高級車を所有していても、『その車は盗んできたものだ』と言われることもあるのです。これらは全て、過去に何度も黒人の身に実際に起きてきたことです」

    「肌の差は、私たちにとってはただの色素の違いだけど」

    ジョージ・フロイドさんの事件を受け、6月には全米各地、そして東京や大阪など日本の都市を含む世界各地でも、「Black Lives Matter」のデモが実施された。

    7月に入り、世界からの関心度は低くなっても、アメリカでは抗議活動が続き、一方で、黒人に対する差別や暴力、殺害も絶えない。

    有理さんは、黒人であるジョシュアさんとアメリカで生活することについてこう語る。

    「私と彼の肌の差は、私たちにとってはただの色素の違いですが、彼が隣にいないとき、その差が恐怖を生みます。予定より長い時間連絡が無かったり、家に帰ってくる時間がいつもより遅くなったり、デリバリーを受け取りに数分外に出ただけでも『警察に止められていないか』『誰かに肌の色が理由で突っ掛かれていないか』と思います」

    「私たちが車でどこかへ出かける時も、警察の車を見るごとに緊張してしまいます。特別な理由がなくとも止められ、執拗な質問や最悪な場合、不当に逮捕される可能性がゼロではないからです」

    そのような状況の中でジョシュアさんは、有理さんが自覚している以上の神経を使い、注意を払って毎日を生活しているという。

    ジョシュアさんのそのような日常は、日本で生まれ育った有理さんにとっての「普通の生活」とは程遠いものだ。しかし、有理さんは「大袈裟だと思うかもしれませんが、これが黒人としてアメリカに住むということなのだと思います」と語る。

    「この状況が変わらないかぎり、私の夫や未来に生まれてくるかもしれない私たちの子どもが、次の標的にならないとは言い切れません」

    黒人をパートナーに持ち、改めてここ数カ月、アメリカでの人種差別の問題を見つめ、有理さんはこう語る。

    「当事者ではない私たちは、日々このシステムの中で生きる黒人たちが、辛抱強く、注意深く、恐れながら生きている事を、あたかも私たちと同じように『ただ生きている』と勘違いしていたことを自覚するべきだと思います」

    「日々、同胞の悲報を聞いても、感情を押し殺して、反応できなくなっている彼らの横で、それが日常かのように『錯覚』して暮らしていたこと、そして、黒人差別に反対していればそれでいいと、それ以外の状況を黙認していたことを自覚し、自らの行動を見つめ直す必要があると思っています」

    「だから絶対に諦めることはできない」

    ジョシュアさんは「Black Lives Matter」は「アメリカ、そして世界が、黒人の命を他の命と同じように扱うための、私たちの世代による『努力』」だと話す。

    「アメリカでは、黒人が『人間以下』の扱いをされてきて、長すぎる月日が経過しています。そのような扱いにより、多くの黒人女性や黒人男性が警察官により命を奪われてきました。このムーブメントは、そのような状況にスポットライトを当て、これまで黒人を傷つけ、命を奪ってきた警察官に罪を償わせるためのものです」(ジョシュアさん)

    ジョージ・フロイドさんの死は、このムーブメントの引き金となったが、警察による無実で無抵抗な黒人への射殺事件や暴行事件は他にも数えきれないほど発生している。

    「市民に対して、警察官が過度な暴力を振るうことは決して許されることではありません。ましてやその市民が暴力的でなく、命乞いをしている時に暴力を振るうことはあってはなりません」

    「黒人たちは、他の人たちと同等に扱われ、他の人たちと同じように命を尊重してほしいだけです。全てのアメリカ人は、同じように命を尊重され、政府や警察により守られるべきです」(ジョシュアさん)

    警察による黒人への暴力や差別の連鎖を断とうとする市民の活動について、ジョシュアさんは、このように述べた。

    「これまで、全ての世代の黒人は権利と自由のために闘ってきました。この問題は、解決するのに長い時間がかかります。しかし、平等のために闘い続けることは、私たち、そして次の世代の責任だと思っています。毎日のように、警察の残忍な行為により、黒人の命が奪われています。だから絶対に諦めることはできないのです」

    日本の街中でも受けた、黒人差別

    有理さんとジョシュアさんは、日本で出会い、3年間の遠距離恋愛を経て結婚した。

    日本で付き合っている期間や、ジョシュアさんが有理さんに会いに来日している時などに、日本でも何度も黒人差別を受けたという。

    2人で街中を歩いている時にも、2人を避けたり、二度見したりする人もいた。有理さんは語る。

    「一度は、コンビニで見知らぬ高齢の女性が、わざわざ私の肩を叩いて『黒人と付き合っていること』について、注意されたこともありました」

    ジョシュアさんが2015年、京都に1年間、留学していた時には、電車で避けられるなどの経験もした。

    アメリカでは常に警察を警戒して神経を使っているが、日本でも警察官の言動で、嫌な思いをしたという。

    ジョシュアさんが当時住んでいた大学の寮からは大学や駅が遠いため、毎日、自転車で移動していた。自転車に乗っていた時、何度も警察官から、職務質問をされた。止められた理由が、「盗んだ自転車かどうか確かめるため」だったこともあったという。

    日本でのそのような差別の経験を受け、有理さんは「結婚後はアメリカで生活しようと決めていました」と話す。

    「アメリカでの差別の方が深刻な問題だとは自覚していた」とする一方で、「将来、黒人の子どもを育てることを考えたら、アメリカで生きる方が幸せなのではないか」と考えたという。

    しかし、移住してみると、ニュースでも日々、黒人の殺害事件なども報じられ、そのような状況に対し、有理さんはこう語る。

    「でも実際にアメリカに住むと、日々、映画や本、音楽で繰り返し表現される、組織的人種差別が私たちの生活に恐ろしいほど『馴染んでいる』ことを実感します」

    「彼ともたくさん話をして、日本で生活することも視野に入れるべきではないかという話もしています。そうするにしても、日本社会での人種差別に向き合わなければいけません」

    ポートランドなど、アメリカ各地で継続して実施されているデモでは、連邦政府の治安部隊が平和的なデモ隊に催涙ガスを発射したり、暴力を使ったりということも発生している。

    有理さんは「この運動を指揮する黒人コミュニティーだけにこの偏った社会の形を変える責任や対価を背おわせることは絶対にあってはならない」と話す。

    身近に起きている現実の問題として、そしてパートナーや家族、自分自身の問題としての黒人差別に対し、有理さんはこう語る。

    「黒人を弾圧してきた歴史や組織的差別を作り上げた社会、彼らを利用し続けてきた政治、彼らと共存している他の人種が一丸となって、人単位の差別と社会・国単位の差別を解決していくことが不可欠だと思います」


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