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「私が殺したも同然」「むーちゃん、ごめんね…」女性が涙で悔やむ、18歳の3月10日

東京大空襲から76年。空襲経験者の高齢化が進む中、YouTubeで証言を伝える活動をしている若者がいます。

「私のリュックを背負っていったばかりに、殺しちゃった。私が殺したのと同じだわ…と思って。むーちゃん、ごめんね。ごめんね…って何回も言いましたけどね…」

1945年の3月10日、本所区千歳町(現東京都墨田区)で東京大空襲を経験した利光はる子さん(93)の言葉だ。

自分のリュックを背負って空襲から逃げ、死んでしまった弟への思いを涙ながらに語る。

利光さんのこの証言は、YouTube動画で配信されている。空襲経験者の高齢化が進む中、若者が証言を撮影・編集しているのだ。

第1弾として3月1日にアップされたのが、利光さんが18歳当時の空襲の記憶を振り返った動画だ。

昼は証券会社で働き、夜は栄養学を学ぶために学校へ通っていた利光さん。空襲があった10日未明には、まだ起きて試験勉強をしていたという。

空襲時に自分が背負って逃げるつもりで、リュックにあらかじめ参考書や家族の写真アルバムを入れていた。

弟はそのリュックを背負って逃げ、焼夷弾の火がつき、焼かれて死亡。手で火を消そうとした母親も、全身に大火傷を負って亡くなった。

76年経った今も無念の思いが消えず、「私のリュックを背負っていったばかりに…」と涙を浮かべる。

火の海から逃げるために隅田川に飛び込み、そのまま死んでいった多くの人たちを思うと、隅田川沿いのお花見も楽しめない。

真っ黒焦げに焼けてしまった遺体を山のように見たことから、しばらくは、デパートの売り場の黒いマネキンさえ怖かったという。

「私のような思いは、誰もしてほしくない」と利光さんは言う。

この動画を撮影・編集したのは、桐山愛音さん(21)と福島宏希さん(38)だ。

2人は、空襲経験者たちの団体「全国空襲被害者連絡協議会(全国空襲連)」にボランティアとして2020年から参加している。

東京大空襲から76年となる今年の3月10日にあわせ、空襲経験者を訪ね、証言動画をYouTubeで公開している。

「多くの人に東京大空襲について知ってほしい」と、空襲の証言動画や戦後の補償問題などの動画9本を3〜4月に空襲連のYouTubeアカウントで配信していく。

桐山さんは明治学院大学3年生。昨年は半年間、休学して、空襲連での活動に専念した。

高校生や大学生を集め、対面で空襲経験者から証言を聞くイベントを企画していたが、新型コロナウイルスの感染拡大で中止に。

オンラインに移行し、証言などを動画で撮影してYouTubeで配信することを思いついた。

結果、日本各地から誰でも証言が見られるようになり、また、高齢化が進む空襲経験者の証言を動画で残すこともできた。

空襲経験者を訪ね、戦前・戦中の暮らしや、空襲の日の経験、戦後の人生などについて1〜2時間かけて話を聞き、15分前後の動画にまとめている。

空襲経験者「私たちには時間がない」「動画発信、賛成」

こうした動画企画や、若者の活動への参加について、全国空襲連共同代表の吉田由美子さんは「とてもうれしい」と歓迎する。

吉田さんは「空襲の体験を語れる人も80代以上など高齢化していて、私たちには時間がありません」と述べ、こう続けた。

「動画での発信は大いに賛成です。こうして発信していかないと、なかなか証言は伝わっていきません。対面で空襲の体験を伝えていくにも限界がありますし、特に若い人にはこのような伝え方が良いのだと思います」

動画第1弾に出た利光さんも、企画に対し「こうやってお若い方たちに聞いて頂けるのは、本当にありがたいです」と話す。

空襲被害者に補償を。強い思い

桐山さんが空襲連の活動に本格的に参加し始めたのは、空襲関連の3団体合同の事務所を訪れたことがきっかけだった。

空襲被害者や遺族らは、被害者が補償を受けられるよう救済法案の早期成立を目指して活動を続けてきた。ところが、団体の中心人物の一人が空襲関連の貴重な資料を指差して、桐山さんにこうこぼした。

「この立法運動も次の国会で最後かもしれない」「ここにある資料もいずれ誰かに引きとってもらわないといけないな…この資料持って行く?」

その言葉が、桐山さんの背中を押した。

「空襲被害者への補償問題などは、放置してはいけない問題です。なのに、中心となって取り組んでいる団体が、経済的にも人員的にも非常に困窮した状態にあるということを感じました」

「ネットでの発信などはあまりされていなかったので、若者ならではの方法でお手伝いできるんじゃないかなと思い『何かできませんか?』と活動に参加するようになりました」

共に活動する福島さんも、こう語る。

「本来なら、空襲連の活動なども若い人が参加できていればよかったのですが、高齢の方たちばかりになっていました。Twitterなどオンラインでの発信で広く証言などを届けていければ」

「空襲の被害者の方たちが補償を受けていないというのが、残された課題です。証言と共に補償の問題も伝えていきたいです」

SNS発信、集会のZoom配信。「若者ならではのお手伝い」

桐山さんと福島さんはこの一年、様々な形で空襲連の活動の「発信」の部分に力を入れてきた。

空襲連のTwitterアカウントや新しいウェブサイトを立ち上げ、集会や会見などをZoomで配信。メディアだけでなく、空襲連のメンバーたちも遠方にいながら参加できるようにした。

昨年12月には若手が中心となって会見を開き、その様子をYouTubeで配信した。

【記者会見アピール①📣】 先月の記者会見で発表したアピールです✨ぜひお聴きください💫 『当たり前のことができる国に ーー戦後75年の今、空襲被害者等救済法の即時成立を求めます』 #空襲被害者の終わらない戦争 #戦後補償 #太平洋戦争 #戦争 #平和 #記者会見 #戦後処理 #戦後75年

Twitter: @zenkokukushuren

超党派の「空襲被害者等の補償問題について立法措置による解決を考える議員連盟」が中心となって、今通常国会中の民間人の空襲被害者救済法成立を目指している。

被害者や遺族は高齢化し、亡くなる人も増えている。

空襲被害者への補償へ、残された時間は少ない。

【動画】空襲の記憶ー東京大空襲ー 利光はる子さん

YouTubeでこの動画を見る

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Correction: 記事中、「本庄区」となっていた表記を「本所区」に改めました。訂正しておわびいたします。