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「痛いよ。殺して!」12歳の少女は叫んだ。背中に残る大きな傷跡が訴えるもの

東京大空襲から76年。障害などを負った民間人の空襲被害者に特別給付金50万円を支給する救済法の成立が急がれています。

想像してほしい。

日本がどこかの国と戦争になり、あなたの街は敵国から空襲を受ける。

周りは火の海で、家も、築き上げた財産も焼け、全てを失った。空襲で大切な家族や友人を失い、あなたも空襲で負傷し、障害が残った。

国家が始めた戦争で、あなたはそれに巻き込まれた形だ。しかし、76年経っても国は一切補償をせず、あなたは自費で手術代や治療費を払い続けている。

これは、この日本で、現在進行形で起きていることだ。

「病院の治療費も全て自分で払っていて、国からは一銭ももらっていません。自分で階段も上がれなくなり、バスにも乗れない。通院でもタクシー代がかさんでいきます」

「政府は戦後の処理は終わったって言うけど、何が終わったんでしょうね」

そう話すのは、内田道子さん(88)だ。

1945年5月25日に東京都千代田区麹町にあった自宅で空襲を受け、一命は取り留めたものの重症を負った。

リヤカーで病院に運ばれたが、終戦数ヶ月前の病院には薬もなく、十分な治療もされなかったという。

治療と言ってもガーゼで傷口を覆うだけ。どんどん化膿が進んだ。痛みに堪え兼ね「痛いよ。殺して!殺して!」と医師に向かって毎日叫んでいた。

空襲当時は12歳。それから76年、ずっと治療を続けてきた。戦後も生活は厳しかったが、民間人には国からの補償はなかったため、自費で高額の手術代も支払ってきた。

民間人と違い、国と雇用関係にあった軍人には戦後、補償がされてきた。

内田さんの背中には、今でも大きな傷跡が残っている。

内田さんは戦後、空襲被害者と遺族が国に謝罪と損害賠償を求めた裁判の原告にもなった。

積極的に活動した時期もあったが、最近は外出もままならず、空襲被害者らの集会にもなかなか足を運ぶことができない。

これは内田さん一人だけの話ではない。多くの空襲被害者が、同様の経験をしている。

「今通常国会中に」急がれる空襲被害者救済法の成立

今、空襲で身体に障害を負うなどした存命の民間人空襲被害者に、特別給付金50万円を支給するという法案の成立が急がれている。

超党派の「空襲被害者等の補償問題について立法措置による解決を考える議員連盟」が中心となり、今国会中の救済法成立を目指している。

空襲経験者たちが作る「全国空襲被害者連絡協議会(全国空襲連)」は3月3日、東京都千代田区の衆議院議員会館で集会を開き、法案の早期成立を訴えた。

超党派「空襲議連」会長の河村建夫議員は集会で「なんとしても『この国会で』という思いで手順を踏んでがんばっていきたい」と話した。

「空襲で被害を受けられた国民の皆様に対し、国がやはり慰謝をするべきです」

「法案は一人当たり50万円で提案をしています。皆さまにとってもこれが大満足という訳にはいかないと思いますが、政府が応じることの必要性を感じています」

空襲議連によると、法案要綱には全野党が賛成している。自民党の衆議院議員である河村議員は「党内でよく話し、理解を得ていきたい」とした。

「長く長く国民を苦しめた」「どうか1日も早く」

議員立法でこのように民間人の空襲被害者に対する補償が提案されるのは、初めてではない。

1973年から1989年まで、14回にもわたって議員立法として「戦時災害援護法」案が国会に上程されたが、いずれも廃案に終わっている。

「もう最後のチャンス」「どうか今国会こそ」。空襲連のメンバーは法案の早期成立を切に願っている。

河合節子さんは東京大空襲で母親と弟2人を亡くした。やけどや死んだ家族への無念で苦しんだ父親を見てきた河合さんは、集会で、涙ながらに話した。

「国家が戦争を始めると、国民の生活を破壊し、命を奪い、その結果は長く長く国民を苦しめます」

「空襲被害者の大多数が既にこの世を去り、残された者も少なくなってきています。無念を胸に亡くなった多くの人々の思いが私たちの背中を押しています。どうぞ一日も早く、今国会中に法案を成立させてください」


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