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独身だった。でも子どもは欲しかった。だから、ひとりで産んだ。

パートナーとの関係を持たずに、精子の提供を受けて妊娠・出産する「選択的シングルマザー」たち。SNSで情報を発信する当事者の女性たちに話を聞いた。

膨らんだお腹を撫でながら、カメラに微笑むダニ・モーリンさん(34)。

モーリンさんは「選択的シングルマザー」として、日々の出来事を頻繁に投稿している。TikTokでのフォロワー数は50万人以上だ。

選択的シングルマザーというのは、パートナーとの関係を持たずに、精子の提供を受けて、妊娠することを選ぶ女性のことだ。

アメリカで近年増えている選択的シングルマザーたちは、小さいけれども多彩で、強い絆で結ばれたオンラインコミュニティを形成している。

主に英語圏で人気のネット掲示板Redditには、4,000人以上のメンバーがいる選択的シングルマザーのサブレディット(スレッド)があり、互いに助け合ってこの複雑な道を進んでいる。

トピックは、精子の提供者をどうやって探すか、友人や家族に何と言うか、授精の方法、子どものための資金をどう用意するか、などだ。

子どもは欲しいけれども、家族になるパートナー探しに疲れてしまった独身女性の助けになればと、モーリンさんのように自身の話をオンラインで共有する人もいる。

人数が増えてきているとはいえ、選択的シングルマザーになろうとしている人にとって、まだ情報が少ないのが現実だ。そのため、体験者の声は貴重だという。

モーリンさんはもともと、長男ディーコン君を育てるシングルマザーだった。出産した2人目の子どもが、レット君だ。

レット君が生まれる前、2016年に、カリフォルニア州のフォンタナにあるデイケアセンターで、当時18カ月だったディーコン君は亡くなった

「また母親になりたい」と思えるまで、時間を要した。そしてようやく次のスタートを考え始め、モーリンさんはいろいろな人とデートをしてみた。1週間に12人以上と会ったときもあった。

しかし、誰かと関係を築きたいというよりも、子どもが欲しいから相手を探していることに気がついた。そこで思ったのだ。ひとりのまま妊娠し、出産するのはどうかと。

「会っている中の誰かで手を打つと思っていました。でも、そうじゃない、と思ったんです」とモーリンさんは話す。

モーリンさんはSNSで、子育て関連のクリエイターと同じように、お気に入りのベビー用品、母乳育児の助言、母親が体験するおもしろい話などを共有している。

選択的シングルマザーは他のママたちと変わらないことを見せたいのだという。なぜなら、選択的シングルマザーになることを選ぶ女性が増えていると考えているからだ。

社会学者のロザンナ・ヘルツ氏は、2008年刊行の著書『Single by Chance, Mothers by Choice』(未訳、「たまたまシングル、選んで母に」の意)の中で、選択的シングルマザーについて調査している。

当時、ヘルツ氏はアメリカに選択的シングルマザーが約270万人いると推定しており、全米で増えていると書いている。

選択的シングルマザーの実数を把握することは難しい。選択的シングルマザーのサポートグループの創立者でディレクターも務めるジェーン・マテスさんは、アメリカの人口調査で、ひとりで子どもを育てている母親を数えるカテゴリーがない、と指摘する。

だが、1981年に創立された同グループでは、この40年以上でその数はつねに増えているという。

「選んでシングルマザーになることは、これからもっと一般的になります」とモーリンさんは動画の中で話す。

「最近では女性が以前よりも地位を得るようになってきて、出産を先延ばしにする人が増えています。そしてほとんどの場合、時間は味方ではありません。(中略)これ以上待つつもりはありませんでした」

テネシーに住むベサニーさん(33)は、楽しくないデートを重ねて、何年もシングルだった。あるときついに検索してみた。

「ひとりで子どもを作れるのか?」。他の人の体験談を聞きたかったのだ。

「誰も見つかりませんでした」とベサニーさんは話す。

「本は2、3冊ありましたが、このことについて話している人が誰もいなかったのです」

ベサニーさんは若いうちに子どもを産みたいと、ずっと思っていた。自分の両親が年をとる前に、孫である子どもの人生に関わってほしいと願ったからだ。

20代は、男性が多い原子力発電産業で忙しく働き、時が経つにつれて、妻や女友達のことを語る同僚の口調に飽き飽きした。敬意を払って接してくれるパートナーを探し続けたが、失望するばかりだった。

オンラインデートを試したとき、やり取りがすぐに性的な話になり、怖かった。「まったくそんな風じゃないのに」とベサニーさんは話す。

「私はとても保守的で、何か(性的なことを)するのは結婚したあとだと考えていて、私が求めているものとはまったく違いました」

30歳間近になり、ベサニーさんはひとりで家族をつくることを真剣に考え始めた。 両親も協力的だった。

これまで仕事に打ち込んできたので、費用も賄えた。家は持っていたし、貯金もあった。望んでいた人生を手に入れられるような気がしてきた。

「子どもを産んで、その子どもの母親になりたかった」とベサニーさんは話す。

ベサニーさんは精子提供者と不妊治療クリニックを見つけ、2019年6月に息子のワトソン君を生んだ。

見聞きしていたのよりも若い年齢で選択的シングルマザーになったため、他の人と繋がりたかったが、なかなか同じような境遇の人が見つからなかった。

選択的シングルマザーのFacebookグループにさえ、参加を拒まれてしまった。年齢が35歳未満だったからだ。

だから、ベサニーさんは、自分が発信者になろうと決めた。自分が探していた情報を共有するためだ。

そこで、YouTubeチャンネルとInstagramを始めた。「the Littlest Blueberry(いちばん小さなブルーベリー)」 という名前で、長男のワトソン君と、同じ精子提供者との間にできた2021年生まれの長女コレットちゃんの母親としての日々を綴っている。

「選択的シングルマザーになることを考えている女性を助けたかったのです。実行可能な選択肢なのか、判断してもらうために」とベサニーさんは話している。

ニコルさん(38)は教師で、2022年12月に第1子の出産を予定しており、手順に関する情報を探し求めていた。選択的シングルマザーになることは、「これまでで一番難しい決断だった」という。

「選択的シングルマザーに関する一般的なニュースはたくさん見つかりましたが、それでは足りませんでした」

「選択的シングルマザーの日々の生活、具体的な手順すべてを知りたかったのです」

そこでニコルさんも、ブログInstagramを始めた。

ニコルさんもベサニーさんも、メッセージをくれたり、投稿にコメントをくれたりする女性の多さに驚いている。

選択的シングルマザーはたくさんいて、この道を選びたい人も多く、みんなもっと情報が必要で、互いに繋がり合いたいのだと、ベサニーさんには思えた。

「連絡をくれるのはアメリカの女性に限りません。ブラジル、カナダ、イングランド、オーストラリア、世界中から、選択的シングルマザーになることを選んだ女性たちから連絡をもらい、やり取りをしました」とベサニーさんは話す。

ニコルさんは、同じ選択的シングルマザーからの支援や同情の言葉があったからこそ、自分の決断に自信が持てたという。

「自分と似た境遇の人と体験を共有できることで、存在に気づいてもらえて、理解してもらえます」

「家族も友人も私の選択には協力的ですが、パートナーなしで母親になりたくて、時間も限られているというのはどんなことか、本当に理解できているとは思えません」

「選択的シングルマザーたちのコミュニティーの基盤には、この感情があります。だからとても特別な繋がり方をしているんです」

TikTokで #SingleMomByChoice(選択的シングルマザー)を検索してみると、 世界中の女性が、選択的シングルマザーであると自信を持って名乗りでて、質問に答えている。

ネット上で選択的シングルマザーの間でよく話題にあがるトピックがある。友人、家族、世間一般からの意見への対処方法だ。

金銭面・感情面ともに子どものサポートができると分かって、ひとりで子どもを産むと一度決めたら自信を持てたと話す人が多い。また、結婚して子どもを持ち、子育てを手伝わない夫に苦しむ友人の話をする人もいる。

#LGBTMom(LGBTママ)のタグもついている動画では、女性が眉をひそめている。動画にはこう書いてある。

「妊娠しているから、男性と付きあっていると思われる?」

画面が切り替わると、今度はこうだ。

「違うよ。まだゲイで、まだシングル」

この動画を投稿しているのは、テキサス州ヒューストンに住むキャンディスさん(30)。

親友から精子提供を受けて、2022年7月に男の子を出産予定だ。キャンディスさんには、8歳の娘もいて、娘の父親とは付きあいはあるが、相手は州外にいる。

キャンディスさんは周囲に妊娠のことを聞かれ始めたのをきっかけに、自分の経験を投稿し始めた。

「動画が関係者に訴えかけられれば、ほかの人が声をあげたり、サポートコミュニティを作ったりする助けになる気がします」とキャンディスさんは話す。

「ソーシャルメディアは様々な情報を一般の人に伝える手段なので、動画を投稿するのは大事なのです。そして、私自身が、自分の人となりを理解してもらった上で、自分の話をするのが一番じゃありませんか?」

それでも、ひとりで産み育てる選択的シングルマザーを公然と批判する人は多い。

父親がいないから息子は刑務所に行くと書かれたり、自分勝手な理由で子どもを作ったと責めるコメントをモーリンさんはしょっちゅう受けとるという。

ベサニーさんの場合は、非難があまりにひどかったため、YouTubeとInstagramのアカウントを非公開にした。

特にYouTubeにひどいコメントを残された。子どもを養子に出したほうがいい、片親だから育児放棄されて犯罪者になるのが落ちだ、と書く人もいたという。

このようなシングルマザー、特に有色人種の女性に対する侮辱は、いまだに存在する。だが、2019年にピュー研究所が行った研究では、全米の23%の子どもは、片親と住んでいる、という事実が明かされている。

この割合は、世界中で最も高く、米国国勢調査局による2021年のデータでは、1,100万世帯の片親家族のうち80%は、母子家庭だ。

「本当にとてもつらかったです。完璧な親になりたくて、最高の母親になりたいのに。そして他の人も助けたいと思っているのですから」とベサニーさんは話す。

ベサニーさんは、知らない人からの批判で押しつぶされながらも、コミュニティのために声をあげたいという気持ちがあり、苦しんだ。

しかし、自分の支援活動はやるに値すると信じて、YouTubeに戻りたいと考えている。いまは、誤解を払拭するため、選択的シングルマザーとしての経験を綴った本の執筆に取り組んでいる。

「選択的シングルマザーのコミュニテイーは、誰にも『見つけて』もらえなかった疲れ切った女たち、ものすごく徹底的に独立した女たち、というイメージがあるようですが、まったくそんなのではありません」

「パートナーなしで母親になりたいという自分の望みを手に入れた女性たちで、本当に素晴らしいと思います」

モーリンさんは、家族の形にはさまざまなものがあることを知ってほしい、と話す。

「母親がふたりいることもあれば、父親がふたりいることもあるし、母親がひとりのこともあれば、精子提供者がいることもあります」

「それは分からないじゃないですか。ほかの人の物語を、そのままの形で受け入れたらいいのです」

この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:五十川勇気