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HIVの常識は変わった。ゲイコミュニティも変われる。

社会やLGBTコミュニティが、HIVへの偏見を乗り越えるために必要なこととは。

LGBTと呼ばれるセクシュアルマイノリティにとって、パートナーとの出会いは大きな課題の一つだ。新宿二丁目に代表されるゲイタウンや全国各地のバーの他、専門雑誌の文通欄が、数少ない出会いの機会であった。

やがてネット掲示板がうまれ、現在はスマホアプリを通じた出会いが主流になりつつある。例えば、国内最大手のゲイ向けデートアプリには、現在40万人を超えるユーザーがいる。

近年はさらに、多様なユーザーのニーズに応える新たなアプリや、パートナー探しをお見合いの形でサポートする婚活サービスが登場し、より多くの当事者の受け皿となっている。

そんな中、ゲイ男性のコミュニティの中でも、とりわけ偏見やパートナーとの出会いにおける障壁を感じている人々がいる。HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染者は、そのひとつの例だ。

HIVは「死の病」ではない。適切な治療で、コンドームなしのセックスも可能

HIVウイルスは後天性免疫不全症候群(AIDS)を引き起こすことから、かつては死の病として恐れられたが、現在は治療法の研究が進歩し、ウイルスとともに天寿を全うできるようになった。

現時点でウイルスを完全に失くす治療法は確立していないが、薬を適切に服用すれば、血中のウイルスを検出不能なレベルまで減らせるるようになっている。この「検出限界値以下」を一定期間維持した状態はU=U(Undetectable/検出できない = Untransmittable/感染しない)と呼ばれ、コンドームなしのセックスでも感染の恐れがないという研究結果が発表されている。

つまり、HIV感染者でも問題なく日常生活をおくり、セックスを楽しむこともできるようになってきたのだ。

そもそもなぜ、HIVがゲイコミュニティにとって特別な意味を持つのか。

厚生労働省エイズ動向委員会の発表によると、2017年の新規HIV感染者の7割以上が同性間の性的接触から感染したとし、その大部分を男性が占めている。

HIVウイルスの感染力は極めて弱い。その中でも粘膜を傷つけやすい男性同士のアナルセックスにおいてHIV感染が起こりやすいことが、偏った感染者分布の背景にある。

なお、国内の新規HIV感染者は2008年をピークとして、横ばいの状態が続いており、ゲイ男性の感染リスクが比較的高いのは事実だ。

このため、かつてはゲイコミュニティはHIVウイルス流行の元凶というような偏見も持たれた。

ゲイ男性の献血を受け付けない国や地域はいまだにある。日本赤十字社も、過去半年間に男性同士の性的接触があった人は「エイズ、肝炎などのウイルス保有者、またはそれと疑われる方」として献血を受け付けていない。

ゲイコミュニティ内でも根強い、偏見のまなざし

ゲイ男性が使用するデートアプリの中には、年齢や身長とならび「HIVステータス」の欄を持つものがある。「陰性」「陰性、PrEP(予防を目的とした抗HIV薬)服用中」「陽性」「陽性、検出不能」といった選択肢のほか、最終検査日なども記入できる。

これは感染者でもその事実を明示しながら出会いを楽しめる事実の現れでもあるが、同時にそのステータスがゲイコミュニティー内で、センシティブに扱われているということも示している。

ゲイコミュニティ内でもHIV感染者に対する偏見やスティグマは未だ根強く、国内でも感染者に対する偏見や差別が度々問題になっている。

2017年には、都内の婚活サービス「リザライ」に登録しようとした男性が、HIV感染者であることを理由に登録を断られたと主張し、運営側の対応が問題視された。

同サービスは、国内最大のLGBT関連イベントである東京レインボープライドにブースを出展していた。

HIV感染者の権利擁護を目的に活動するNPO法人「HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス」の代表である高久陽介さんは、ブースでのやり取りに「悲しく動揺した気持ちになり、軽く手が震えていた」とショックを振り返る。

高久さんがHIV陽性者でもゲイ向けのお見合いサービスに入会が出来るかと聞いたところ、ブースのスタッフは「他の利用者から、HIVの人には入会してほしくないとの声をいただいている」ことを理由に、入会を断っていると説明したのだ

「私は長いことHIV陽性であることをオープンにして活動していますが、実際にこういう反応に直面することには、いつまでも慣れることはないんだなと思いました」

高久さんは民間事業のサービスおいて、入会に条件を設ける自由があることには一定の理解を示している。

「おそらく、男女向けの婚活サービスが『男性は年収いくら以上』『女性は入会無料だが何歳以下』などと謳っていることと同じくらいの感覚だろうと思います。しかし、LGBTに対する理解啓発を促進する目的で開催される東京レインボープライドの会場に出展する事業者の姿勢や方針としては、不適切だったと考えています」

「やっとたどり着いた、自分らしく過ごせる場所であったはずのゲイ / LGBTコミュニティが、もしHIVだとわかった途端にその人を排除してしまうものだしたら、自分のHIV感染の有無を知ることは、非常に恐ろしく不安なものになってしまうのではないでしょうか」

HIV/エイズと生きる人を支援するNPO法人「ぷれいす東京」の代表・生島嗣さんは当時、同サービス運営に対し、陽性者の入会基準の明文化などを提案した。

「アプリ業界もプロフィールにHIVステータスを掲載する時代なので、陽性者を利用者から逃したり、あるいはHIVにネガティブな立場をとることは同社にとってはマイナスなのではないかとアドバイスしました」

HIV差別のないコミュニティを目指して

その後、2018年に同サービスの経営陣が変わり、今年3月には当時のスタッフが全員入れ替わったという。

BuzzFeed Japanは現在のサービス代表に話を聞いた。

「過去にHIVに対する知識不足から、当時のスタッフが対象者の方のサービスをお断りしたという事例がありました。対象者の方には大変お辛く残念な思いをさせてしまったことと思います」

現在、同サービスはでは登録時にHIV感染を含めた健康状態について確認しないだけでなく、登録者がHIV感染者であることを申し出た場合にも、それが入会を断る理由になることは無いと答えた。

サービスの公式サイトでは「入会資格に関するステートメント」が以下の通り記されている。

複数の項目について総合的に判断して、役務提供が難しいと判断したときは入会をお断わりする場合があります。これはご入会に際して特定の方を排除することが目的ではなく、費用をいただいても役務が提供できないということを防止することが目的です。

代表はこの「複数の項目」にHIVの感染ステータスは含まれず、入会を断る理由にはなり得ないと断言している。

「経営陣、スタッフが入れ替わった現在では、スタッフの教育を徹底して行うととともに、あらゆる方にサービスを受けていただけるようにステートメントも設けました。

今後もHIVに限らず、正しい知識を持って事業を運営していくよう努めてまいります」

2年前にショックを受けた高久さんも、このような変化をポジティブに受け止めている。

「現在はそのような方針からは転換されたのでしたら、悲しい思いをしながらでも問い合わせをした甲斐はあったのかもしれません」

「かつて理解不足から不適切な対応を行ってしまった人や事業者を、いつまでも責め続けることも、あまりしたくないと思っています」

HIVに対する認識は、ゲイコミュニティ内でもアップデートされつつあるようだ。

予防と早期発見、そして適切な治療によってHIVが死の病でなくなった今、同性パートナーとともに幸せにくらすHIV感染者も少なくない。

社会全体、そしてゲイコミュニティの中でも、HIVに対する正しい認識の拡大が必要とされている。

訂正

記事中の表記を訂正しました。

「血液感染」→「HIV感染」