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「ブラック」批判された東京五輪の薬剤師募集 「あくまでも非公式の調査」日薬は説明

日本薬剤師会副会長・石井甲一氏が取材に回答した。

「ブラック過ぎて笑うしかない」と批判の声が上がった、オリンピックのスタッフ募集。

東京でのオリンピック・パラリンピック開催を2020年に控え、さまざまな準備が進んでいる。

忘れてはならないのが、世界各国から集まる選手たちの体調管理だ。2020年大会においても「選手村総合診療所」が設置される予定となっている。

そんな「選手村総合診療所」の医療スタッフ募集に、10月上旬、インターネットを中心として以下のような批判の声が上がった。

「ブラック過ぎて笑うしかない」

オリンピック選手村で働く薬剤師の募集要項 ブラック過ぎて笑うしかない https://t.co/gTiZHiZW4I ・報酬なし ・宿泊施設の提供なし ・交通費自腹 ・2ヶ月の開催期間中、最低10日働く ・英語ができる ・日本アンチドーピング機構認定のスポーツファーマシスト

「プロを無報酬で働かす事案、いくつ目でしょう」

さてこれで、プロを無報酬で働かす事案、いくつ目でしょう。誰だよ、オリンピックで仕事が増えて景気が良くなるって言ったの> 「ブラック企業?!オリンピックのスポーツファーマシスト募集要項がひどすぎる」(アンチ・ドーピングの解説書) https://t.co/9DDzcEnEHu

きっかけは9月17日付で公開された、薬剤師の奥谷元哉氏のブログ『ブラック企業?!オリンピックのスポーツファーマシスト募集要項がひどすぎる』。

奥谷氏はこのブログで、自らの元に届いたオリンピック・パラリンピックの医療スタッフ募集のメールの内容を公開した。その要点は以下のようなものだ。

「報酬および旅費の支給なし」「宿泊施設の手配なし」「10日程度の勤務」「英語で服薬指導ができる」「公認のスポーツファーマシスト」「36人必要」

スポーツファーマシストは日本アンチ・ドーピング機構が認定する資格で、薬剤師の中でも最新のアンチ・ドーピング規則に関する知識を持つ者に与えられる。

資格取得に際しては合計27,900円の費用がかかる。日本薬剤師会は、同資格の公式サイトに会長である山本信夫氏のインタビューを掲載し「賛同」している。

このメールは、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の依頼を受けた日本薬剤師会が、各都道府県の薬剤師会に伝達を依頼したものとされた。

薬剤師は国家資格の専門職だ。さらに取得に費用のかかる資格、英語のスキルを前提にしていながら、10日間分の業務を無報酬で依頼していることになる。

奥谷氏はブログ中で“交通宿泊費支給は当然のこと、日当も最低3万円は出さないと人材に見合いません”と述べている。

この依頼内容は、プロの仕事の価値を毀損するのではないかーーこの条件を見た人からは、そんな声が複数、上がっていた。

日薬副会長の石井氏は「あくまでも非公式な“調査”」であると繰り返し強調。

BuzzFeed Japan Medicalはまず、奥谷氏にメールを送ったとされる大阪府薬剤師会に問い合わせた。

同薬剤師会の担当者は、一連の騒動を把握していることを認め、「私たちは日薬(日本薬剤師会)の依頼を所属薬剤師にそのまま送っただけ」と答えた。

詳細については「回答する立場にない」「日薬に取材してください」として回答を拒否。

そこで、BuzzFeed Japan Medicalは、上部組織の日本薬剤師会に取材を依頼。同会副会長の石井甲一氏が取材に回答した。

開口一番、石井氏が述べたのは「これはあくまで非公式の“調査”である」ということ。諸条件は確定ではなく、変更の余地があることを強調した。

たしかに、奥谷氏が公開したメールにも“薬剤師業務への協力に関するボランティア薬剤師の調査について(依頼)”とある。

「あくまでも非公式の“調査”であるため、一番厳しい条件で打診しました。この条件で人が集まらなければ、条件はまた変わるでしょう」

「実際の“調査”の方法は、各都道府県の薬剤師会に一任していて、日薬としてはその先のことはわかりません」

旅費や宿泊費の支給がないことも「開催地の近隣でないと従事は難しいことはわかっていたが、あくまで“調査”のため、全国の薬剤師会に依頼した」という。

しかし、プロの仕事の価値を毀損するような打診を、所属薬剤師に送ること自体を疑問視する意見もある。これについて、石井氏はこう述べた。

「日薬は災害時などにも薬剤師の派遣をボランティアでおこなっています。無償であること自体が問題だとは思っておりません」

「繰り返しお伝えしていますが、今回のメールの内容はあくまで非公式の“調査”です。それがなぜ、賛成反対の議論になるのか、わかりません」

当事者からは「薬剤師の権利を守るためにもまずは条件交渉が先」との意見。

奥谷氏は日本薬剤師会の見解について、BuzzFeed Japan Medicalの取材に、「これで問題ないと考えているのであればそれは恐ろしいこと」と回答した。

「手が上がらなければ考え直すだろうという考え方が受け身すぎます。薬剤師の権利を守るためにもまずは条件交渉が先ではないでしょうか」

「人が動くのにタダというのはありえないのです。せめてもう少し現実に即した妥協案を考えてから募集すべきではないでしょうか」

奥谷氏は今回のブログについて、「批判的だと受け止められるかもしれないが、もう少し常識を考えなよというスタンス」と説明している。

依頼の大元である、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の見解は。広報担当者は、BuzzFeed Japan Newsの取材に、以下のように回答した。

「当会としては、現在検討を行っているところです」「ブログに記載されているものは、日本薬剤師会が調査のために依頼したものとうかがっております」