「働く」という夢を現実に 重度障がい者が「分身ロボット」で接客するカフェが開店へ

    「新時代の労働革命を実現したい」と開発者。

    「分身」として、自分がいない場所の様子をカメラやマイクで把握したり、スピーカーで人と会話したり、「お茶を出す」など簡単な動作をしたりすることができるロボット『OriHime』を活用したカフェがオープンする。

    開発者の吉藤オリィ(本名:健太朗)さんが代表を務める株式会社オリィ研究所と日本財団、一般社団法人分身ロボットコミュニケーション協会が協働しておこなう実験的なプロジェクトで、名前は「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」。

    知性や感覚はそのままに、運動能力がおとろえて体が不自由になるALS(筋萎縮性側索硬化症)患者など、これまで就労の対象として考えられなかった重度障がい者が、分身ロボットを遠隔操作することで、自宅にいながら働くことができる。

    オリィさんは8月22日に開催された記者会見で、「障がい者のみならず、育児や介護などで外出が困難な方にも、就労機会を提供することが期待されます」とその意義を説明した。

    期間は11月26〜30日と、12月3〜7日の合計10日間。東京都港区赤坂の日本財団ビル内にスペースを設置する。

    今日は吉藤オリィさん( @origamicat )の新プロジェクトの記者発表会に来ています。こちらはオリィさんにお茶を出す新型『OriHime-D』。

    10〜15人の障がいを持った希望者について、有償での雇用を予定。カフェで働く人は、分身ロボットを介して、コーヒーなどの給仕の他、受付や会計(をレジまで運ぶ係)、会場の案内などに従事する。

    一般社団法人分身ロボットコミュニケーション協会代表の兼村俊範さんは「今後、さまざまな課題が出てくると思うが、2020年のオリンピック・パラリンピックにあわせて常設にできれば」と展望を明かす。

    「身体障がいがあると行き先がない」現状

    障がい者の就労については、中央省庁が長年、障がい者雇用率を水増ししてきたことが明らかになったばかり。

    日本財団公益事業部国内事業開発チームシニアオフィサーの竹村利通さんは、「霞が関で起きた絶望的な事態に対して、このカフェは希望になる」とした。

    同プロジェクトの発表によれば、身体・知的・精神障がい者のうち、18歳以上65歳未満の在宅者数は約355万人。民間企業の雇用障がい者数は約50万人に留まる。

    このような現状を受け、オリィさんは「身体障がいがあると、特別支援学校などを卒業したあとに、行き先がない現状がある」と指摘。

    オリィさんは自身の研究所で、これまでに体が不自由な社員を4人、雇用しているが、重度の障がいがあっても、分身ロボットを使って働くことができているという。

    今回の記者会見中、自宅から新型の『OriHime-D』を操作していたのは、自らも難病で車いすで生活しながら、リモートワークでオリィさんの秘書を務める村田望さん。

    村田さんは分身ロボットを介して「今まで病気で働けなかった方や、将来の働き先に悩む障害のある子どもたちにとって、夢であった就労が現実となり、働く手段が増える」と今の気持ちを語った。

    また、ALS患者で元日本ALS協会会長の岡部宏生さん、一般社団法人WITH ALS代表の武藤将胤さんも会見に参加し、それぞれ以下のように訴えた。

    「私たちは常に、他人のサポートを必要とします。そのとき感じるのは、感謝とともに、“人に手間をかけている”という痛みです。そんな心の痛みを、このロボットはなくしてくれるのです」(岡部さん)

    「私たちの行動を通じて、すべての人に、自分らしく働く自由があるんだということを発信していきたいです」(武藤さん)

    新時代の労働革命を目指して

    現状でも「数社から導入したいとの声がある」(オリィさん)が、このような動きがさらに広がることを目標にしているという。

    オリィさんはBuzzFeed Japan Medicalの取材に、このような試みは「新時代の労働革命につながる」と回答する。

    「必ずしも自分がそこにいなくても、体が不自由でも、働きたいと思う人は、分身ロボットで誰でも“労働力”になれる。このようなテクノロジーによって、労働2.0を実現していきたいと思います」

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