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なぜ、はしか流行を防げないのか 感染症対策の専門家に聞く

背景には危機管理不足とワクチン不足がある。

大阪府が4月7日に発表した、関西国際空港内の事業所の従業員がはしか(麻しん)に感染していた問題。国立国際感染症センターの感染症対策専門職である堀成美さんは、「現状の府と空港の対策では不十分」と指摘する。

実際、同空港では2016年にも、グループ会社の従業員1人がはしかに感染したことをきっかけに、合計33人の集団感染が発生している。堀さんによれば、このときの教訓は今回の対策に活かされていない。

なぜ、同空港では関係者のはしか感染が繰り返されたのか。BuzzFeed Newsは対策の問題点を堀さんに聞いた。

3月28〜30日の利用者は、約20万人と推計できる。そのすべてが病院を受診しなければいけないの?

同空港は「3月28日~30日に関西国際空港を利用した人は感染の可能性がある」として、速やかに医療機関を受診するように呼びかけた。しかし、空港の利用者は1日約7万人。約20万人の利用者全員が病院を受診しなければいけないなら、これは大きな問題だ。

同空港を運営する関西エアポート株式会社の広報担当者は、BuzzFeed Newsの取材に、受診は「あくまでも体調に異変を感じたら」と回答。全員が受診しなくてもいいという見解を明らかにした。一方で「どの事業所から感染者が出たのか、府は明らかにしていないため、このような表現に止まった」とも説明する。

堀さんが指摘する今回の府および空港の対策の問題点は、まず、「空港内のどの事業所から感染者が出たのかについて、明らかにしていない」ことだ。空港のように、たくさんの人が出入りする場所で感染者が発見された場合には、いつ、どこで感染リスクが発生したのかを伝えるのが大切だという。

「約20万人に受診を促すのは、当然、現実的ではありません。だから、はしかの感染者がどの事業所にいて、空港内でどのような行動をしていたのかや、どのような移動経路で出退勤をしていたのかまで明らかにして、受診が必要な対象者を絞り込むことが必要です」

もちろん、府が情報を明らかにしなかったのは、感染者を守るためでもあるだろう。しかし、堀さんは次のようにいう。「感染者のプライバシーを守ることと、感染拡大を防ぐために必要な情報開示をしないことは、全く別です。そもそも、感染者というのはある意味で被害者なのだから、責める方がおかしいのです」

受診の目安も、「体調に異変を感じたら」ではなく、できるだけ具体的に、はしかが疑われる症状を提示するべき、と堀さん。空港にいる人、特に海外旅行をした後は体調を崩しやすいため、いたずらに不安を煽ってしまうからだ。

そもそも、これまでにはしかにかかったことがあるか、2回のワクチン接種をしていれば、すでにはしかに免疫がある可能性が高いため、堀さんは「受診の緊急性は高くない」という。

また、府が「医療機関に受診する場合は、事前に医療機関へ電話連絡の上、受診してください」と注意喚起したことについても、「もし多数の人が同時期に医療機関に電話をしたら、連絡窓口がパンクしてしまう。このような感染対策の危機管理としては、ホットラインを設けるのが国際的なスタンダード」だ。

感染症が輸入される「戦場」で、多くの従業員はあまりに「無防備」だった。

しかし、感染対策の危機管理が不十分であることは、2016年に発生した集団感染でもすでに明らかになっていた。

集団感染を受けた国立感染症研究所の調査によれば、同空港内の10~30代の従業員9137人中、はしかにかかったことがないと回答した人は8062人だった。そのうち、ワクチン接種歴が2回の人は1085人、1回の人は2996人、不明・未回答の人が3408人、ワクチン接種歴なしの人は562人という結果になった。

日本国内についてはしかの排除状態が宣言されている中、空港という場所は病気が「輸入」されてくる水際だ。それにも関わらず、感染歴がなく、ワクチン接種が1回以下、「不明・未回答」の人がこれだけいる現状を指して、堀さんは「丸腰で弾丸の飛び交う戦場に立つようなもの」と表現する。

では、その後、適切な対策、具体的にはワクチン接種は行われたのか。先述の調査には、「接種歴、罹患歴がなく、症例と勤務場所が近く、接客担当の従業員を優先的に、計300人に麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)を接種した」とある。これは感染リスクのある人数に対してあまりに少ないのではないか。

この理由について、堀さんは「背景にワクチンの不足がある」と説明する。日本ではしかに使われるMRワクチンについて、日本医師会などは厚生労働省に安定供給するように対応を求めているが、未だに今回のような流行が発生すると、不足してしまうのが現状だ。

「このまま不十分な対策が続けば、感染の拡大は防げず、また流行は繰り返すでしょう。一般の方には、まずワクチン接種歴の確認を。空港のような対策の水際では、2回接種の徹底を。国には、ワクチンの確保を、これからも呼びかけていきます」