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「都議選の結果は、長期的に国民の健康を左右する」 受動喫煙とどう向き合うべき?

日本の医療政策をリードしてきた黒川清氏と、気鋭の医療政策学者の津川友介氏が対談。BuzzFeed Newsが単独取材した。

「今、塩崎さん(厚生労働大臣)が交代させられるようなことがあれば、今後10年間、受動喫煙対策は何も動かない」そう強く言い切るのは、黒川清氏。

厚生労働省は先の国会で、受動喫煙対策法案の提出を断念した。与党自民党内で強い反対にあったためだ。自民党内には「たばこ議連」という、たばこ産業の業界団体の立場を擁護する議員が多数いる。

厚労省案は、建物内に喫煙室の設置を認めている点で、規制は諸外国より緩やかだといえる。しかし、自民党案で「客室面積100㎡以下の飲食店は表示義務に止める」など、さらに後退を迫られた塩崎恭久厚労相は抵抗、譲歩はしなかった。

このことにより、夏に予定されている内閣改造で「塩崎大臣の留任はないのでは」とする観測も一部で報道され始めた。黒川氏の発言は、このような報道を受けてのものだ。

医療政策学者で医師の津川友介氏によれば「受動喫煙により健康上の害があるというのは科学的に証明された事実で、もはや議論の余地はない」。

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受動喫煙が原因で、世界では年間約60万人が、日本でも9000人〜1万5000人が死亡していると推計されている。これらは自分ではたばこを吸わず、他人のたばこの煙を吸ったために命を落とすことになった人たちだ。

日本は「世界最低レベル」と指摘される受動喫煙対策の現状があり、東京ではたばこフリー(たばこによる受動喫煙の害がない状態)が原則のオリンピック開催も控えている。対策は緊急の課題でありながら、議論はこう着してしまった。

この議論を前に進めるためには、どうすればいいのか。BuzzFeed Newsは6月19日、黒川氏と津川氏の対談を単独取材した。対談は黒川氏が代表理事を務めるNPO日本医療政策機構で行われた。

議論しているのは「たばこ規制」ではなく「受動喫煙対策」だ。アルコールだって、自分で楽しむだけなら個人の自由。でも、他人に無理やり飲ませたら犯罪。

黒川清氏(以下、黒川):臨時国会、内閣改造、そして都議会議員選挙と、それぞれの争点になっているように、受動喫煙対策はもう政治的な問題なんです。

津川友介氏(以下、津川):これを一歩でも前に進めるには、どうすればいいと思いますか?

黒川:まず必要なのは、議論の整理でしょう。例えば、噛み合わない議論の例として、「酒も飲み過ぎれば体に害のある嗜好品だが、アルコールも規制するのか」という反論がありますね。しかし、これはいくつかの点で的外れです。まず、今回、別にたばこそのものを規制しようとしているわけではない。

津川:そうですね。お酒を一人で飲んで楽しむだけなら個人の自由です。しかし、受動喫煙というのは、隣の席の人に無理やりお酒を飲ませるようなもの。他人にアルコールの摂取を強要すれば、場合によっては犯罪です。「自分で飲むのはいいけど私には飲ませないで」と言っているだけなんです。

黒川:それにこれだけ反対するところを見ると、もしかしたら政治家というのは、「飲め」と言われたお酒を断るなんてあり得ない、というカルチャーの人たちなのかも知れません(苦笑)。しかし、そんなのはもう、前時代的でしょう。

津川:私が一番問題だと思うのは、そのような一部の政治家の主観により、エビデンス(科学的な証拠)が歪められてしまっていることです。

黒川:「私はずっとたばこを吸ってきたが、子どもも孫も健康そのもの。だから受動喫煙は健康に影響ない」などのように、一個人の限られた経験を根拠に、国民全体の健康を危険にさらす考え方ですね。

津川:その通りです。前提として、私はエビデンスと政治的な意思決定は別のものだと思っています。つまり、受動喫煙により世界中でたくさんの人たちが命を落としている。日本でも交通事故より死亡者数が多く、その中には数千人の子どもたちが含まれていると言われる。これはまず、議論の余地のないことです。

それを知った上で、たばこによる税収やJTの株の配当金など、経済的合理性を優先して、「受動喫煙対策を推進しない」という選択はあり得るかもしれません。しかし、主観により「受動喫煙は健康に影響ない」としてしまうと、科学的な証拠を捻じ曲げていることになる。

これは、今、トランプ大統領の影響で、アメリカを中心に問題になっている、フェイクニュースやポストトゥルースそのものです。これらはもともと、トランプ大統領がウソをついていることを追求されたときに用いられた言葉であり、要するにウソ、科学においては「ニセ科学」と同義です。

政治的な判断をするのは構いませんが、真実を歪めることは許されないと思います。

黒川:極論ですが、受動喫煙が減るとみんなが長生きになり、医療費が上がる(から受動喫煙対策を推進しない)という反論はあり得るということですよね。みんな自分の主観のために、屁理屈を言うわけですから。

津川:はい、議論としては。しかし、一方で、経済的合理性だけではなく、公衆衛生学的な観点からいえば、国には本来、「国民の健康を守る」という義務がある。だって、日本国憲法は基本的人権で生存権を認めているわけですよね。であれば、国は受動喫煙対策を推進しなければならない、とも言えます。

黒川:憲法に則って考えるというのは、本来的でおもしろい。まあ、そもそも、安倍総理は所信表明演説で受動喫煙対策の徹底を明言しているわけですが、未だに受動喫煙と健康被害の関係に疑問を投げかけている政治家がいる。

津川:国の最高決定機関である国会の準備ですらこんな状態で、エビデンスそのものを疑おうとしている。そして、誰も責任を持って意思決定をしようとしない。私はこのような現状に、違和感があるというか、危惧すべき状態だと思っています。

「誰も悪者になりたくない」日本。これを打ち破り、自分や「家族」を守るために、私たちにはできることがある。

黒川:国民はこの現実をきちんと見ているはずです。しかし、その多くは実際の行動に移していないので、民主主義が機能していないのです。

はっきり言ってしまえば、日本はずっとそうです。誰も悪者になりたくないのでしょうね。私が調査委員長を務めた福島原発の事故でも、浮かび上がってきたのは「誰が決めるのか」をはっきりさせない日本特有のやり方でした。

例えば、福島原発事故前から、国際原子力機関(IAEA)は、原子力安全について5層の防護策が必要だとしていました。しかし、日本は4層目と「重大事故が起きたときに人々をどう避難させるか」という5層目の対策をしていなかった。「重大事故は起こらない」と考えて。

津川:私も海外で研究をしている身ですが、やはり日本特有の社会構造というのはありそうです。

黒川:厳しいことを言いますが、日本は本当にシビル・ソサイエティ(封建的社会体制から解放され、自由と平等を獲得した個人によって成り立つ社会)なのか、と思うことがよくあります。

若い人は聞き慣れない言葉でしょうが、日本人は2000年代になってもまだ「巨人・大鵬・卵焼き」が多すぎる気がします。

プロ野球の巨人(読売ジャイアンツ)、戦後期の横綱である大鵬、子どもに人気の卵焼き。みんな同じものが好きで、均質な社会です。もちろん、そういう人がいていいんです。でも、あまりにみんな均質になると、事実上の自民党の一党独裁を許したり、逆にちょっとでもマイナスのところを見ると一斉に叩いたり。

今のたばこ産業 - JT - 行政の関係は、福島原発事故時の日本原子力研究開発機構 - 東芝 - 行政の関係と、程度は違えどよく似ています。一人で考えれば当然気づけることでも、集団で考えると異論が言いにくいため、結果として見落とされてしまうのです。

「必要な情報を収集しなかった」「情報の分析による判断を誤った」「実行中に修正をかけなかった」というように、言い訳ばかりになってしまう。

津川:この問題は根深いものがありますね。

黒川:塩崎さんを交代させようとするのも、要は政治の世界の中で、自分と異なる意見を持つ人間を排除しようとする非常に狭量な動きなんですよ。

塩崎さん個人の働きはもちろん正当に評価されるべきですが、それ以上に、たばこ業界のロビイングに屈し、政官財が結託して時の大臣を更迭しようとしているとも見える、この日本的なやり方を許容するのかが、今、国民に問われているともいえるのです。

津川:簡単ではないことはもちろんですが、私たちには次の世代のために、何ができるでしょうか。

黒川:絶対にやらなければいけないことがあります。それは「選挙に行く」ということです。政治家がなぜたばこ業界を重視するかといえば、本人がたばこを吸いたいという場合を除けば、そこに「集票マシーン」という機能があり、また献金を受け取れるからでしょう。

津川:受動喫煙対策に賛成の人は8割を超えるという調査結果もあります。まさにノイジーマイノリティーというか、国全体では多数派ではない人の意見を、別のインセンティブ(利益)のために聞かざるを得ない構造がある。

この構造を崩すには「受動喫煙対策に反対する議員には絶対に投票しない」という行動によって、国民が「NO」を突きつけるのが効果的です。そうすれば、政治はまた、国民の声を聞くようになると思います。

黒川:幸いなことに、直近では7月2日が投票日の東京都議選があります。もし、本当に受動喫煙のない社会を望むなら、自分が投票しようとしている政党の政策を見直し、受動喫煙に対して積極的な政党を選べばいい。少なくとも、この問題にどのような姿勢を取っているのかは、把握しなければなりません。

津川:もちろん、その上で、他の政策を優先して、受動喫煙対策に消極的な候補や政党に投票することはあり得るでしょう。しかし、それを把握せずに投票し、「こんな社会は望んでいなかった」と言って後悔をしても、取り返しがつかないのです。

黒川:繰り返しますが、日本における諸問題には、ずっと同じ構造的な原因が潜んでいます。このまま塩崎大臣が実質的に交代させられるようなことがあれば、受動喫煙対策は今後10年は進展しないでしょう。これは、日本としてどうしていきたいかの問題なのです。

津川:私は、「社会は変えられる」と思っています。オバマはアメリカ初の黒人の大統領になりました。また、これは良い方向の変化とはいえませんが、トランプの大統領就任もそうです。そのためには、これまで政治に関心の薄かった人でも、選挙という形で政治に参加することが第一歩になります。

黒川:とはいえ、日本ではシルバーデモクラシーという言葉があるように、選挙に行く高齢者が優遇される政治になっていて、ますます若い人が選挙に行かなくなるという、悪循環があるようですね。

津川:これを打破するには、若い人が選挙に行くしかありません。しかし、なかなか政治に関心が集まらない事情もあります。行かないと損をしてしまうというのは、一つの動機づけにはなると思いますが、それだけでは弱いとも感じます。

黒川:その意味では「受動喫煙の害」というのは世代を問わず関心の集まっている話題ですし、選挙の争点としては優秀でしょうね。もし、それでも選挙に参加するハードルが高いと感じる人がいるとすれば、「受動喫煙は子どもや家族の問題だ」と考えてみるといいかも知れません。

津川:自分だけの問題ではない、ということですね。

黒川:はい。これは、自分の子どもや家族を受動喫煙の害から守るための行動です。よく考えてみてください。道を歩いている人、喫茶店で横に座っている人、みんな誰かの子どもや家族です。

津川:その上で、政治家の方々には、真の国民の声を吸い上げて、政策決定に反映させていただきたいですね。

BuzzFeed Newsでは、日本医師会副会長の今村聡氏に、日本で受動喫煙対策の議論が進まない根本的な原因を聞いている。記事はこちら


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