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つらい眼精疲労は、なぜ起きるのか 専門家に聞く原因と、治療で大切なこと

井上眼科病院の名誉院長・若倉雅登さんが「とことん診断」する理由。

仕事でパソコン作業をしていて、ふと、ディスプレイから目を離したときのことだ。急に視界が眩しくなって、目を開けていられなくなった。

作業を中断し、オフィスの窓から遠くを見る。光が入り乱れ、にじむような視界の混乱は収まらない。次第に、目の奥が鈍く痛むようになってきた。

少なくとも、これは明らかな体調不良だ。吐き気に襲われながら、会社を早退。家に帰ってベッドに入った。眠れば治るだろう、という期待もあった。

しかし、深夜に一度、そして翌朝、起きても目の奥の痛みは続いていた。もしかしたらと思っていた、ある言葉が頭をよぎる。眼精疲労かもしれないーー。

近くの病院に行き、医師に告げられたのはやはり「眼精疲労」。このように、仕事や生活にも支障をきたす、眼精疲労とは一体、どのような症状なのか。

BuzzFeed Japan Medicalは眼科専門病院として百年以上の歴史がある井上眼科病院の名誉院長・若倉雅登(まさと)さんに話を聞いた。

原因は「メガネ」から「脳の異常」まで

そもそも、眼精疲労とは“視作業(眼を使う仕事)を続けることにより、眼痛・眼のかすみ・まぶしさ・充血などの目の症状や、頭痛・肩こり・吐き気などの全身症状が出現し、休息や睡眠をとっても十分に回復しない状態”(日本眼科学会公式サイトより)。

目薬などのCMにより、一般的にも認知度の高い症状名だが、「その原因は多岐にわたる」と若倉さんは指摘する。

「眼精疲労は、眼科の診療をしていると、よく遭遇する不定愁訴(原因がはっきりとしない患者さんからの訴えやその症状)のひとつです。そのため、診察の流れとしては、どんな原因で眼精疲労の症状が出ているのか、確かめていくこと、が第一になります」

若倉さんによれば、眼精疲労の原因は「目やその制御系の不具合」「視覚環境の不適」「心身の状態の悪化」のどれが起こっても生じる。それぞれの要素の総和が自身の許容範囲を超えると、治りにくい眼精疲労になる、という。また、視覚の制御を受け持つ「高次脳機能」の障害も見落とされがちである、とした。

「よくあるケースとしては、メガネやコンタクトレンズが目の状態に合っていない“過矯正”の状態やパソコン・暗所での長時間の作業(視覚環境の不適)が挙げられます。この場合はメガネやコンタクトを調節したり、そのような作業を避けることで、目は回復します」

「一方で、目の病気や斜視など(目やその制御系の不具合)、あるいは視覚情報を認識する脳など上位の場所にトラブルがあれば、やはり眼精疲労の症状が出ることもある(脳の高次機能の異常)。この場合は、病気などへの直接的な治療が必要です」

これらの原因が除外されたら、身体的な疲労や、精神的なストレスによる眼精疲労が疑われる、という。

根本的な治療には「原因の特定」が必要

若倉さんによれば、人体にはこのようなトラブルについて、個々に許容範囲があるため、その範囲内でなら、睡眠など休息をとれば回復することができる。

このように、一過性の場合は「眼疲労」として、眼精疲労とは区別される。しかし、この許容範囲を超えると、休息をとっても、原因を除かない限りは、眼精疲労の症状が続くことになる。さらに、原因は複合的で、どの要素が過大になっても、眼精疲労になることがある、という。

「例えば、緑内障や白内障などの病気や、別の科で処方された抗不安薬・睡眠薬などベンゾジアゼピン系の薬剤により、眼精疲労の症状が出ることもあります。眼精疲労が確立した病気ではなく、さまざまな原因から出る症状であることは、ぜひ知っておいていただきたいです」

だからこそ、必要なのが「専門医による原因検索」(若倉さん)。専門医は最初から「眼精疲労だろう」と決めてかかって対症療法をするのではなく、目やその制御系、さらに脳の高次機能の異常を検査することが必要だが、患者としては眼精疲労の症状が出たら、まずは病院にかかるべき、とした。

「とことんまで診断」の理由

一方で、原因検索をしても「疲労」「ストレス」といった結論になり、はっきりとした原因を特定しづらい眼精疲労もある。

「“眼精疲労”のような症状は、とても身近でありながら、あまりアカデミックな研究の対象になりにくい傾向もあります。そのため、研究が進んでいるとは言いにくい。“肉体的な疲労”“精神的なストレス”と眼精疲労の関係は、あるとされているものの、そのメカニズムはまだはっきりわかっていません」

しかし、原因が特定できない場合でも「少なくともここまでは(原因が)わかっている」と納得することは「患者さんの救いになる」と若倉さん。精神的なストレスの関連も疑われる中で、「原因がまったくわからない」ことは新たなストレスになりかねない。

若倉さんは、海外留学、大学病院勤務を経た後、視覚情報を伝達する目と脳の協力関係が壊れて起こる病気を扱う「神経眼科」の専門家として、同院で20年近く、患者さんの診療を続けている。その中で大事にしているのは、「とことんまで診断し、わかりやすい言葉で説明すること」だという。

「目から得られる情報は膨大なので、不調も自覚しやすい。時間がかかってなかなか治らなかったり、完全には治らなかったり。そうすると、患者さんはそのことに心をとらわれてしまうことがあります」

「だからこそ、眼科医は徹底的に診察し、患者さんにできるだけ納得して、目のことを“横に置く”余地を持ってもらう。そこで初めて、その人に合ったセルフケアの提案などもできる。自分の状態を理解することが、治療のスタートなのです」