「この映画はファンタジーではない」ピクサーの最新作が絶賛される理由

    ディズニー/ピクサーの『リメンバー・ミー』はなぜこれほど絶賛されているのか。エイドリアン・モリーナ共同監督へのインタビューなどを通じて紐解いた。

    メキシコの「死者の日」を題材に家族の絆を描いたディズニー/ピクサー最新作『リメンバー・ミー』が3月16日、日本で公開される。

    2017年秋にアメリカで公開され、“アニメ界のアカデミー賞”と呼ばれるアニー賞で最多の11部門に輝き、オスカーでも長編アニメ映画賞と主題歌賞を受賞。

    なぜここまで絶賛されているのか。2月下旬に来日したエイドリアン・モリーナ共同監督へのインタビューなどを通じて紐解いた。

    キーワードは「レプリゼンテーション」

    いま、英語圏、特にアメリカの映画やテレビ、メディアを考える上で欠かせないキーワードがある。

    英語では“representation”(レプリゼンテーション)。

    日本語ではしばしば「表象」「体現」「代表」などと訳されるが、元の言葉がはらむ切実さまで捉えた単語がうまく見つからない。

    では、この言葉は何を意味するのか。

    『リメンバー・ミー』を手がけたリー・アンクリッチ監督の言葉を借りると、「物語の中に自分と同じ見た目、言葉、暮らしをしているキャラクターが登場すること」を指す。

    もう少し噛み砕くと、どんな人種や民族、宗教、ジェンダーなどのマイノリティであっても、自分と同じ属性を持ったキャラクターが映画やテレビの中に当たり前のように登場すること。

    物語を通じて、自分が社会の一員であることを実感できること、と言える。

    アンクリッチ監督は、アカデミー賞の受賞スピーチでこう述べている。

    「私たちは『リメンバー・ミー』で、すべての子どもたちが、自分と同じ姿で、同じ言葉を話し、同じ暮らしをしているキャラクターが登場する作品を見て育つことができる社会に向かって、一歩前進しようと試みました」

    「なぜなら、社会の片隅にいる人たちもみな、ここに居場所があると感じる価値があるからです。だから、彼らが物語の中で体現されること(レプリゼンテーション)は、とても大事なことなんです」

    文化を丁寧に描くこと

    ハリウッド映画におけるマイノリティや異文化の描かれ方については、近年多くの作品が物議を醸してきた。

    記憶に新しい例では、2017年に公開された『攻殻機動隊』のハリウッド実写版で、日本語名を持つキャラクターに白人女優のスカーレット・ヨハンソンがキャスティングされ、批判を浴びた

    一方、『リメンバー・ミー』は2017年秋にアメリカで公開され、アカデミー賞では長編アニメ映画賞とともに主題歌賞も受賞。

    “アニメ界のアカデミー賞”と呼ばれるアニー賞では、最多の11部門に輝いた。

    それほどまで評価された一因として、アメリカの移民社会にもしっかりと根を張っているメキシコ文化を細部まで丁寧に、そして忠実に描いたことが挙げられている。

    「死者の日」に始まる冒険

    『リメンバー・ミー』の物語は、先祖代々「音楽」を禁じられた家族に生まれた少年ミゲルが、ミュージシャンになる夢を追いかけるために、家を飛び出すところから始まる。

    その日は奇しくも、年に一度、亡くなった家族が現世へ帰ってくるとされるメキシコの祭礼「死者の日」。

    街が死者たちを迎えるマリーゴールドの花びらに彩られるなか、ミゲルは一人で死者の国に迷い込んでしまう。

    「この映画を作るにあたって強調したかったのが、メキシコでは『死者の日』が亡くなった家族を静かに悼む日ではなく、家族の再会を祝って喜ぶ、祝いのお祭りの日だということです」

    「大切な人の思い出を語る行為自体が家族との再会を意味するという考えは、メキシコ現地での取材で発見したことでした」

    「だからこの映画はマジカルな物語ではありますが、実際の伝統に基づいているため、ファンタジーではないんです」

    アンクリッチ監督とともに『リメンバー・ミー』を制作したエイドリアン・モリーナ共同監督は、BuzzFeed Newsの取材にこう話した。

    彼自身も、メキシコからアメリカに移住した母親のもとに生まれた移民2世だ。

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    インターンから共同監督へ

    モリーナ共同監督は小さい頃から『白雪姫』や『リトル・マーメイド』などのディズニー映画に魅了され、2006年にインターンとしてピクサー・アニメーション・スタジオに入った。

    主に絵コンテを描くストーリーボード・アーティストとして『トイ・ストーリー3』や『モンスターズ・ユニバーシティ』などの制作に携わってきたが、共同監督としてエンドロールに名を連ねたのは今回が初めてだ。

    だが、他にも『リメンバー・ミー』が彼にとって個人的な意味を持つ理由がある。

    それはもちろん、彼の家族に対する愛とそのルーツに対する敬意だ。

    「死者の国は、メキシコの世界遺産に登録されている街グアナファトから着想を得ました。ターコイズやマジェンタなどとにかく鮮やかな色があふれる街で、すごくエネルギーに満ちているんです」

    「その美しさとエネルギーを映画の中でも表現したいと思っていました。だから映画に登場する場所の中でも、死者の国が最も生き生きとしている場所になっていると思います」

    家族のルーツを取り戻す

    他にもメキシコの“死者の日”の伝統にならい、死者の国と生者の国をつなぐ橋がマリーゴールドの花びらでできていたり、日本語吹き替え版でも随所でスペイン語の言葉が飛び出したりする。

    ミゲルが生者の国に帰るためには「家族の許し」をもらわなくてはいけないというストーリーも、モリーナ共同監督が自身の経験が反映されているのだという。

    「車に荷物を積んで家を出ようとしたとき、両親が『出発する前に許しを与えないと」と言って僕を引き止めたんです」

    「そして『私たちの息子を導き、目標を成し遂げる力を与え、どこへ行っても私たちが彼を愛していることを伝えてください』と祈ってくれました」

    「このとき、どれほど自分の家族のルーツにメキシコ文化があるかを実感したんです」

    「小さい頃は誰でも、自分は家族とは違う、自分のことは誰も理解してくれないと思いがちです。でも大人になるにつれて、家族がいかに自分の一部だったかに気づく」

    「ピクサー映画はどれも家族というテーマが描かれてはいますが、この映画はそれをさらに深掘りして、家族とは何なのか、家族のために自分には何ができるのか、ということを掘り下げています」

    物語が子どもたちに与えるもの

    インタビューをした日、モリーナ共同監督はミゲルが作中で着ている真っ赤なパーカーを着て現れた。

    黒々とした髪に、好奇心をたたえた丸い瞳。彼がインタビュー室に入ってきとき、誰かが「ミゲルが映画の中から出てきたみたい」とつぶやいた。

    メキシコ系アメリカ人の彼と重なる容姿の少年が世界的に評価される映画の主人公になったこと。移民2世の彼がかつて夢見たピクサーの共同監督になったこと。

    その事実が「社会の片隅にいる」子どもたちに与えるものは少なくない。

    モリーナ共同監督は最後に、ピクサーでの自分たちの仕事は「時を超えても愛され続ける作品を作ることだ」と語った。

    「これだけ多くの情報があふれていると、どこか情報に『使い捨て』の感覚が生まれると思います。見たらすぐに忘れて、次に行ってしまうような」

    「だから、僕たちピクサーは観客の時間を少しゆるめて、忘れることのない感動を与えたいと思っています。人生に対する考え方も変えるような、観客がずっと大事にしつづける作品を作れたらアーティストとして成功だと思います」


    BuzzFeed Japanでは『リメンバー・ミー』日本語吹き替え版でフリーダ・カーロ役を務めた渡辺直美さんへのインタビュー記事も掲載しています。

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