• lgbtjpnews badge

私たちの家族を「差別しない」神社はどこですか? 全国32の神社を調査した結果…

自民党議員が多く所属する「神道政治連盟」の議連で、性的マイノリティを差別する内容の冊子が配られていた問題。各地の神社は「同性婚」などについて、どのような立場をとっているのか。「私たちのお賽銭の行方」を探るプロジェクトを、当事者たちが立ち上げた。

神社本庁を母体とする「神道政治連盟」が、性的マイノリティを差別する内容の冊子を国会議員に配布していた問題を受け、同性婚や選択的夫婦別姓の法制化を求めて活動している当事者たちが、各地の神社にそれぞれの立場を表明するよう求めている。

7月には、初詣の参拝客数が最も多いとされる全国32の神社にアンケート調査を実施したが、どの神社も期限内に回答しなかった。

発起人は「神道政治連盟の主張は、私たちを家族と認めず、差別するもの。それに対して、各地の神社はどう考えているのか表明してもらうことで、わたしたちが『幸せを願う場所』にふさわしい神社を可視化したい」と話す。

「同性愛は精神の障害、または依存症」

活動の発端となったのは今年6月、神道政治連盟に賛同する議員連盟の会合で、性的マイノリティに対する誤った認識を広め、差別的な主張を展開する冊子が配布された問題だ。

議連には自民党の議員が多く所属。冊子には、弘前学院大学の楊尚眞教授の講演録が収録されており、同性愛は「後天的な精神の障害、または依存症」「カウンセリングなどの手段を通じて抜け出すことが可能」などとする説が展開されている。

冊子の冒頭では、法整備に関する判断は「科学的、客観的な事実に基づいて」なされるべきと書かれているが、冊子に書かれている内容はその前提に反している。

WHOは1990年に「同性愛」を国際疾病分類から除外し、「同性愛はいかなる意味でも治療の対象とならない」と宣言。欧米の一部の国々では、同性愛を矯正しようとする「転向療法」が違法とされている。

「当事者が生きていることを否定する内容」

自身もゲイで、冊子の問題を指摘した松岡宗嗣さんは「今回の冊子は『転向療法』など、当事者の存在そのものの否定と取らざるを得ないような、まるで当事者が生きていることを否定するかの内容が掲載されている」と批判。

冊子の内容を否定するよう自民党に要望した署名には、5万筆を超える賛同が寄せられた。

また、神道政治連盟は、「選択的夫婦別姓」に対しても反対を続けており、冊子を通じて「別姓を認めれば、伝統的な戸籍は解体され、社会の混乱をまねくことになりかねません」などと主張している。

全国32の神社にアンケート調査

こうした連盟の主張に対して、各地の神社はどのように考えているのか、立場を明らかにするよう求めている「#私のお賽銭のゆくえ プロジェクト」は、有志25人が立ち上げた。

7月頭に参拝客数が多い全国32の神社に対して、メールや電話、問い合わせフォームなどを通じて、次のような項目について回答を求めた。

・同性カップルや、互いの名字を尊重し合いたいカップルが神前式を希望した場合、貴神社で式を挙げることができますか

・貴神社の「恋愛成就/縁結び祈願」は、異性カップル(男女のカップル)のみを対象にしていますか

・今回の冊子で「同性愛は依存症」「LGBTの自殺は本人のせい」などと記載されていることに、貴神社は率直に、どのようにお考えになりますか

7月末を回答期限としていたものの、いずれの神社からも回答を得ることはできなかった。

発起人の一人で、金沢大学准教授の岩本健良さんは「神社は宗教法人としてすべての人に開かれているはずで、地域におけるインフラ的な役割を担ってきたと言えます」と語る。

「そうした中で、多様な家族に対する考え方について、それぞれの神社が検討しているかどうかも聞けなかったのは、どこか他人事のように捉えて、自分たちは関係ないと考えているのではないかという印象を受けました」

人生の節目に訪れる神社

同じく発起人で、選択的夫婦別姓の実現を求めて活動している井田奈穂さんは、幼い頃から神社は生活の中にあり、人生の節目節目に訪れてきた場所だと語る。

「初詣やお祭り、修学旅行などの学校行事、七五三や結婚式などの様々な場面で神社を訪れ、親しんできました」

「しかし、今回の問題を受けて、実はそうした神社が本当は私たちのような家族のことを差別したり、否定したりする考えを持っているのではないかと、疑心暗鬼に感じるようになりました」

署名に賛同した人のコメントの中には、こんな声もある。

かつて、強い生きづらさを感じ、日々「死」という選択肢が身近に存在した頃、縋ることができたのは神社の神様くらいしかいませんでした。

信仰は本来、弱い立場にいる人、苦しんでいる人の寄る方となるはずですが、無根拠かつ不正確な情報をもとに、マイノリティに対する差別が行われていることに強い衝撃と悲しみを受けています。

井田さんは「賛同人の中には、非常につらい時に、自分は神社の存在に支えられ、よって立つものだったという経験を持つ人もいる。そうした場を預かる者として、どのように考えているかは表明すべきではないか」と指摘する。

神社本庁は「SDGs」を推進?

上越教育大学准教授の塚田穂高さん(宗教社会学)は、「氏子や崇敬者のなかに夫婦別姓婚や同性婚、その神前式や縁結び祈願などのニーズが実際あるにもかかわらず、それに対して神社が回答しない・できないというのは理解しがたい」と、コメントで指摘している。

また、神社本庁は2018年に国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を推進する委員会を立ち上げている

SDGsは「誰一人取り残さない持続可能で、多様性と包摂性のある社会の実現」を目指す、17の国際目標を掲げたもので、その中には「ジェンダー平等の実現」も含まれている。

塚田さんは「彼らの目指すSDGsの「ジェンダー平等」には、夫婦別姓の問題や同性パートナーシップの問題などは入っていないのだろうか。その点での整合性も問われるだろう」と指摘している。

プロジェクトでは今後、同性婚や選択的夫婦別姓の家族を歓迎する「フレンドリー神社」に関する情報を集め、サイトなどで公開していく予定だ。

【訂正】名前の表記などに誤りがあったため、修正しました。