「もう終わりにしなければならない」財務省のセクハラ調査に新聞労連が声明(全文)

    全国の新聞社が加盟する新聞労連が4月18日に発表。「セクハラが人権侵害だとの認識が欠如していると言わざるを得ない」と抗議した。

    週刊新潮が報じた、福田淳一・財務事務次官が女性記者に対してセクハラ発言を繰り返していたとされる問題。

    財務省の対応や麻生太郎財務相の発言を受け、全国の新聞社の労組が加盟する日本新聞労働組合連合(新聞労連)が4月18日、「セクハラが人権侵害だとの認識が欠如していると言わざるを得ない」と強く抗議する緊急声明を出した

    福田次官は18日、辞意を表明した

    麻生大臣「被害者が申し出てこないと」

    週刊新潮の報道を受け、財務省は16日、「このようなやりとりをしたことはない」とセクハラを否定する福田次官への聴取結果とともに、被害を受けた女性記者に情報提供を求める異例の呼びかけを発表

    翌17日には麻生大臣が、「(被害を受けた女性記者が)申し出てこないと、どうしようもない」と話し、記者が財務省の顧問弁護士が担う調査に協力しない限り、セクハラを事実と認定できないという考えを示していた

    また、18日の衆議院財務金融委員会で麻生大臣は「福田次官の報じられているセクハラに関するやりとりをしたかどうかは、肯定も否定もしていません」と述べた。

    財務省の調査については「人事院のセクシュアルハラスメントに関する資料の内容に沿って、そのマニュアル通りにきちっとした対応をしている。匿名でいいと文書にも書いている。協力を依頼しているのであって、圧力に感じるものなのか」と繰り返した。

    「被害者への恫喝」「報道機関に対する攻撃」

    こうした麻生大臣と財務省の姿勢に対し、新聞労連は声明で「セクハラは圧倒的な力関係の差がある状況で起きることを理解しているとも思えない」と厳しく批判。

    財務省が、省の顧問弁護士に被害者本人が名乗り出るよう求めていることは「被害者への恫喝であると同時に、報道機関に対する圧力、攻撃にほかならない」とし、被害者保護のために早急に対応を改めるよう求めた。

    また、安倍政権が「女性活躍」を掲げるのであれば、首相官邸が事情聴取を行い、全省庁においてセクハラ事案がないか徹底調査すべきだと主張。

    福田次官には、「あなたは本当に女性記者の尊厳を傷つける発言をしたことはないと断言できるのか」と問いかけた。

    さらに、声明はセクハラを容認するような取材活動を続けてきた報道各社に対する厳しい言葉で結ばれている。

    多くの女性記者が取材先との関係悪化を恐れるあまり、我慢を強いられてきたことにも触れ、「『事を荒立てるな』『適当にうまくやれ』など記者に忍耐を強いる指示や黙認は、セクハラを容認しているのと同じ」と批判。

    「こうした状況はもう終わりにしなければならない」「会社は記者の人権や働く環境を守るため、速やかに毅然とした対応を取るべきだ」と結んだ。

    記者クラブと民放労連も抗議

    新聞労連に続いて、財務省の記者クラブとテレビ局の労組で作る日本民間放送労働組合連合会(民放労連)も18日午後、抗議声明を発表した。

    NHKによると、財務省の記者クラブ「財政研究会」は、被害女性のプライバシーや記者としての立場が守られるのかが明確ではなく、二次被害につながる恐れがあると主張した。

    民放労連は、財務省による調査協力の呼びかけは、「記者に求められる取材源の秘匿の観点からも到底応じられるものではない」と抗議し、「一連の政府の対応を見ると『女性の人権』を軽んじているようにしか見えない」と批判。

    また、報道各社に徹底したセクハラ問題への対策を要求し、今回の問題を受けて「『現場に女性を出すな』といった安易な対応は、取ってはならない」と訴えた。

    新聞労連の声明「『セクハラは人権侵害』財務省は認識せよ」の全文は以下の通り。


    女性記者に対する財務省・福田淳一事務次官のセクシャルハラスメント疑惑に関し、麻生太郎財務相や同省の一連の対応は、セクハラが人権侵害だとの認識が欠如していると言わざるを得ない。

    セクハラは、圧倒的な力関係の差がある状況で起きることを理解しているとも思えない。新聞労連は同省の対応に強く抗議するとともに、被害者保護のため早急に対応を改めるよう求める。

    週刊新潮が福田次官のセクハラ疑惑を報じた際、麻生財務相が当初、事実関係の調査や処分はしない方針を示したことは、セクハラが人権侵害であるという基本を理解していない表れだ。

    その後、音声データが出てから調査に踏み切ったのは遅きに失しており、国際的にみても恥ずかしい対応であり、看過できない。セクハラの二次被害を生み出さないためにも、被害者を矢面に立たせないための配慮は調査の最優先事項だ。

    財務省が、同省と顧問契約を結ぶ弁護士事務所に被害者本人が名乗りでるよう求めていることは容認できない。被害者への恫喝であると同時に、報道機関に対する圧力、攻撃にほかならない。

    「女性活躍」を掲げる安倍晋三政権は、疑惑を持たれた人物が官僚のトップである財務省に調査を任せて良いのか。省庁を統轄する首相官邸がリーダーシップを発揮して、福田次官に厳格な事情聴取を行うことがなぜできないのか。それなしに、被害女性に名乗り出ろという見識を疑う。

    政府はこれを機に、全省庁に対し、他にセクハラ事案がないか徹底調査を指示するべきだ。

    福田次官にも問いたい。あなたは本当に女性記者の尊厳を傷つける発言をしたことはないと断言できるのか。であれば堂々と、記者会見を開いてあらゆる質問に答えてほしい。

    新聞社が新規採用する記者の半数近くが女性だ。多くの女性記者は、取材先と自社との関係悪化を恐れ、セクハラ発言を受け流したり、腰や肩に回された手を黙って本人の膝に戻したりすることを余儀なくされてきた。屈辱的で悔しい思いをしながら、声を上げられず我慢を強いられてきた。こうした状況は、もう終わりにしなければならない。

    今回の件を含め、記者が取材先からセクハラ被害を受けたと訴え出た場合、会社は記者の人権や働く環境を守るため、速やかに毅然とした対応を取るべきだ。「事を荒立てるな」「適当にうまくやれ」など記者に忍耐を強いる指示や黙認は、セクハラを容認しているのと同じであり、到底許されない。

    いまなお、女性記者が取材先からセクハラ被害を受ける事例は後を絶たない。新聞労連は性差を超えた社会問題としてセクハラを巡る問題に正面から向き合い、今後も会社や社会に対しメッセージを発信していく。

    2018年4月18日
    日本新聞労働組合連合(新聞労連)
    中央執行委員長 小林基秀

    【UPDATE】一部表現を修正し、福田次官の辞任表明と、財務省の記者クラブ・民放労連の抗議声明を追記しました。