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「中国のスパイ」「家に帰って子育てしろ」 女性候補たちが浴びた誹謗中傷。ある財団が投げかける「このままでいいのか」

政治のジェンダーギャップが問題視される中、村上財団が政治家を志す女性を支援・育成する教育プログラム「パブリックリーダー塾」を立ち上げた。

政治のジェンダーギャップが問題視される中、政治家を志す女性を支援・育成する教育プログラム「パブリックリーダー塾」が始まった。

8月4日に開かれた会見には、参院選や都議選で落選した候補者なども参加し、選挙でぶつかった「壁」についてそれぞれの経験を語った。

政治家を志す女性を育成

プログラムを立ち上げたのは、2016年に投資家の村上世彰さんが設立し、現在は次女の玲さんが代表理事を務める「村上財団」。働く女性や教育、子どもの貧困などの領域で活動するNPOに対して、資金面から援助する活動などをしている。

プログラムの対象者は、将来、国会や地方議会で政治家として活動することを目指す10〜30代の女性(性自認が女性の人も含む)だ。

講義は全9回。野田聖子・男女共同参画担当相や辻元清美・参院議員をはじめ、国会議員や専門家が講師を務め、日本の社会課題や選挙戦略などについて学ぶことができる。

また、参加者には「チャレンジサポート」として100万円を支給し、選挙に出るまでのキャリア形成や修学を支援する。都内で開催される講義では、会場に託児サービスを用意し、遠方から参加する場合は交通費を支給するという。

「ふつうの女性」も政界へ

世界各国における男女平等の度合いを数値化した「ジェンダー・ギャップ指数」の2022年版で、日本は146カ国中116位を記録した。国会の女性比率などをもとに算出する「政治分野」が最も遅れをとっており、139位だった。

一方、先月10日に投開票された参院選には、181人の女性が立候補し、女性比率は過去最高を記録した

しかし実際は政党ごとに大きく差があり、自民党(20.6%)、公明党(15.4%)、日本維新の会(25.0%)などは、候補者男女均等法で努力義務とされている「35%」に届いていない。

財団代表理事の村上さんは、プログラムを立ち上げた背景には「危機感」があると言う。

「いまだに日本の国会・議会における女性比率は、世界でも最低レベルです。これは、日本で女性が政治家になるためには、男性に比べて、非常に困難な道を歩まなくてはいけないことが原因にあると思います。しかし、このままでいいのでしょうか?」

「女性の権利や介護や子育てなど、さまざまな人に関わる政策が、『専業主婦の妻』と『働く夫』という昔ながらの家族構成を前提に作られています。日本社会は多様化し、日本の社会的課題も多様化しています。しかし、政界は多様化できていません」

「子育てや介護に奮闘する人、シングルマザーの人、社会貢献事業をおこなっている人、日本社会を変えたいと思って勉学に励む人。こうした『ふつうの女性』が選挙に参加するハードルを少しでも下げられればと思い、このパブリックリーダー塾を立ち上げました」

「子どもがいるなら、家に帰って子育てしろ」

会見に参加した元候補者の佐藤ことさんは、障害者雇用支援企業で働きながら感じた「当事者の声を聞いてくれる政治家がいない」という思いから、2020年と2021年の東京都議会議員選挙に、日本維新の会公認で馬。

現在、5歳になった娘を育てる「一児の母」であることもキャッチコピーにしていたが、「子どもがいるなら家に帰って子育てをしろ」「まずは家庭のことをきちんとやれ」と、街頭で野次を浴びることも複数回あったという。

「支援者からも『子どもや家のことは大丈夫?』『家事・育児との両立はどう?」とよく聞かれていましたが、男性候補者はこういうことを言われるのだろうかと疑問に思っていました」

だが実際、通勤時間帯などを狙って駅前などで挨拶をする活動は、子どもの送り迎えの時間と重なってしまうなど、子育て中だからこそ経験したハードルは少なくなかった。

「女性、あるいは幼い子どもを持つ親であれば、多くの人がぶつかる壁だと思います」

「誹謗中傷。もうやめませんか?」

先月の参院選で、自民党から比例区に出馬した英利アルフィヤさんも、元候補者として会見に参加。

選挙中は、両親が中国の新疆ウイグル自治区出身だという自身のルーツなども明かして挑んだものの、SNSでは激しい誹謗中傷を受けたという。

みなさんにお願いがあります。 SNSでの誹謗中傷。もうやめませんか? 今の想いを画像にまとめ、ブログに詳細を書きました。 ご賛同いただける方はぜひ拡散をお願いします。 #拡散希望 #誹謗中傷ダメゼッタイ #日本人から世界を変えていく https://t.co/H88BcxcgjF

Twitter: @eri_arfiya

「例えば、『このバカ』『元外国人』『中共帰化人』『中国のスパイだ』などと事実無根の言葉が浴びせられましたし、『日本語を勉強して出てこい』などと言われたりもしました」

「政治家にはありとあらゆる批判を受け止め、議論を進めていく責任があり、国民には政治家の出自や政策的な立ち位置について、知る権利があると思います」

「それでも、政治家を目指す人の人権が尊重されていない場面があることは問題だと思いますし、政界をより多様にする目標を掲げるならば、多様な人が出馬できる環境づくりは重要だと思います」

一方、選挙でうれしかった瞬間は、小さな女の子たちが街頭演説中に近くへ応援にきてくれたり、自身の名前を覚えてくれたときだったと言う。

「もしこの子たちが、私や他の女性の政治家を見て育ったのであれば、彼女たちが20代になった時に、自分が政治家になることに違和感を持たないようになるかもしれない」

「そうなるのであれば、(選挙に出て)良かったなと思う。そうした論点からも、女性の活躍は必要なことだと感じています」

「パブリックリーダー塾」には、村上財団のホームページから応募が可能。締め切りは8月31日。