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「死ぬまでに夫夫に…」判決を迎えられなかった“9人目の原告”。なぜ原告たちは国と闘うのか

法律上の性別が同じふたりの結婚を認めないのは「憲法違反」だとして、日本各地の当事者が国を訴えた裁判が11月30日、東京地裁(池原桃子裁判長)で判決を迎える。この裁判で問われるのは何か。そして、なぜ原告たちは闘うのか。

法律上の性別が同じふたりの結婚を認めないのは「憲法違反」だとして、日本各地の当事者が国を訴えた裁判が11月30日、東京地裁(池原桃子裁判長)で判決を迎える。

提訴から3年9カ月。原告たちはそれぞれの思いを胸に、「すべての人が結婚したい人と結婚できる世の中」を求めて、国との裁判を闘ってきた。

この裁判で問われるのは何か。そして、原告たちはなぜ闘うのか。

全国3例目となる判決を前に、これまでの経緯と裁判の争点を振り返る。

同性同士の結婚を認めないのは「憲法違反」か

「結婚の自由をすべての人に訴訟」と呼ばれるこの裁判は、東京、大阪、名古屋、札幌、福岡の地裁・高裁で続いており、計36人の原告が結婚する権利を求めて国と争っている。

裁判の大きな争点は次の2点だ。

1. 戸籍や住民票の性別が同じふたりの結婚を認めないことは、「法の下の平等」(14条)や「婚姻の自由」(24条)を保障する憲法に違反しているか

2. 同性同士の結婚を認めない法律をそのままにしていることは、必要な法整備を怠った「立法不作為」で違法か

審理が先行した札幌地裁の武部知子裁判長は2021年3月、法律上の性別が同じカップルだけが結婚によって得られる法的な効果を享受できないのは、「合理的な根拠を欠く差別」だと認める画期的な違憲判決を下した。

裁判所で分かれた判断

一方、今年6月には、大阪地裁(土井文美裁判長)が「憲法違反ではない」と判断し、原告側の訴えをすべて棄却。同じ内容の訴訟で、裁判所によって判断が分かれることになった。

大阪地裁の判決は、憲法が「婚姻の自由」を保障しているのは異性カップルのみで、同性カップルにどのような保護を与えるべきかは、まだ「議論の過程」にあるなどとした。

大阪判決について、原告側弁護団は「少数派の人権侵害があったとき、司法にはきちんと判断して、解消する役割が期待されている。今回の判決はその役割を放棄して国会に丸投げした」と強く批判した。

東京地裁では2019年2月に提訴された「1次訴訟」と、2021年3月提訴の「2次訴訟」が続いており、今回判決が出る「1次訴訟」は全国で原告数が最も多い裁判となる。

原告たちの訴えは大阪のように、再び退けられるのか。それとも札幌に続いて、「憲法違反」の差別だと認められるのか。

全国3例目となる今回の判決がどのように判断するかが、ポイントとなる。

判決を迎えられなかった「9人目の原告」

今回、判決を迎える東京1次訴訟の原告は8人。しかし、この日を待ち望んでいながら、迎えることができなかった「9人目の原告」がいる。

今年1月に急逝した佐藤郁夫さん(当時61)だ。

「いくさん」の呼び名で親しまれた佐藤さんは、パートナーのよしさんとともに原告として裁判に参加。

いつも目の奥に温かな光をたたえていた佐藤さんのことを、同じく原告の廣橋正さん(50代)は「太陽のような人」だったと言う。

2019年4月の第一回口頭弁論で意見陳述をした際、佐藤さんはよしさんとの人生について、こんな風に語っていた。

「私は今年、還暦になったゲイ男性です。年下の同性のパートナーと丸15年間、同居しています」

「普段、帰り時間を合わせ、スーパーで夕食の食材を買い、時には外食もします。映画や録画したドラマを観たり、ユーミンなどのライブに行きます。私たちの日常は、男女の夫婦と何一つ変わりません」

「私は38歳のとき、HIVに感染していることを知りました。それ以来、好きな人ができても、病気のことを伝えると離れていってしまったので、『これからの人生は一人で生きていくしかない』と思うようになりました」

「そんなときに出会ったのが今のパートナーです。病気のことを知っても、『あなたのことが好きだから、病気は関係ない』と言ってくれました。彼は、かけがえのないパートナーです」

「(中略)死ぬまでの間に、パートナーと法律的にきちんと結婚し、本当の意味での夫夫(ふうふ)になれれば、これに過ぎる喜びはありません」

原告の西川麻実さん(40代)は「いくさんの陳述書には、よしさんと仲睦まじく、助け合って生きていたことが書かれていて、もうこれが家族じゃないんだったら、何が家族なんだろうと思った」と語る。

「一人ひとりの尊厳のため」

佐藤さんが亡くなった後も、原告たちは佐藤さんの遺影を手に、法廷に立ってきた。

「いくさんは、明日の判決を天国で見てるんだなと思う」。判決前夜のイベントで、西川さんはそう語っていた。

正さんは3年9カ月の裁判を振り返り、「改めて、何のために闘っているのかということを考えると、それはやっぱり僕たち個人の尊厳のためなんです」と話した。

「ちゃんと僕たち一人一人のの尊厳を認めてほしい。法律でちゃんと『家族』と認めてもらい、国や社会に承認され、それぞれの暮らしの中で平等の権利を持って、暮らして行けたらと思います」