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「結婚しない」ことと「できない」ことは違うから。同性婚訴訟が東京でも山場。傍聴席から見つめた当事者の思い

同性婚の実現を求める「結婚の自由をすべての人に」訴訟。東京第1次訴訟の証人尋問が10月11日に開かれ、審理は山場を迎える。

法律上の性別が同じふたりの結婚を認めないのは「憲法に反する」として、日本各地の当事者が国を訴えた「結婚の自由をすべての人に」訴訟。

東京地裁で10月11日、第1次訴訟の証人尋問が行われ、原告ら7人が自らの経験や思いを証言する。審理における山場と言っても過言ではない。

同性婚の実現を求めるこの裁判では、2019年2月の一斉提訴以降、多くの人が傍聴席からその行方を見守ってきた。

それぞれどのような思いで、裁判所に足を運んだのか。4人の当事者に聞いた。

裁判所で買ったスケッチブック

女子ラグビー選手で、日本代表に選出された経験を持つ村上愛梨さん(31)が、パートナーの鈴木恵里さん(30)とともに初めて傍聴に訪れたのは、2020年12月のことだ。

裁判所ではまず、入り口で荷物検査を受け、裁判が開かれる法廷へ向かう。法廷内では、スマートフォンなどの電子機器を使用することは禁止され、写真や音声を撮ることは許されていない。

村上さんと恵里さんにとっても、裁判所に足を踏み入れるのは初めてのこと。慣れないことばかりで戸惑う中、村上さんは地下にあるコンビニでスケッチブックとペンを買い、アーティストとして活動する恵里さんに託した。

裁判の様子を「法廷画」に描いてもらうためだ。

「私も友達に教えてもらうまでは、同性婚を実現するために裁判で闘ってくれている人たちがいることを知らなくて。知ったからには、自分ごとだから関わりたい。自分にできることをしたい」

「LGBTQの人たちだけじゃなく、自分のラグビーの仲間や親にも裁判のことを知ってもらいたい。そう思って、裁判のことを恵里の絵で伝えることができないかと思ったんです」

初めて裁判を傍聴したこの日、恵里さんが描いたイラストには、意見陳述で自身の半生を語る原告の大江千束さんや、代理人弁護士、裁判官らの姿が記録されている。

「裁判を見るのも初めてなので、どういう場面を描けばいいかもわからないし、立って話している人がいつ座るかもわからず、早く描かないと風景が変わっちゃう」

「わからないことだらけでしたが、とりあえず描けるだけ描こうと必死でした」と恵里さんは振り返る。

それ以来、恵里さんと村上さんはそれぞれ3回ずつ東京や名古屋で傍聴し、イラストやマンガを使って、裁判について自分たちの方法で発信をしてきた。

ふたりが結婚するためには…

村上さんと恵里さんが交際を始めたのは、今から2年ほど前。

村上さんはそれまでも女性と交際したことがあったが、レズビアンであることを隠さずオープンにしている人は、恵里さんが初めてだった。

ふたりで出かける時に手を繋ぐことができる。友達や親に相手のことを「恋人」として紹介できる。ふたりの関係がバレたら、と怯える必要がない。ふたりの将来について考えることができるーー。

一見、ありふれたことのように思える一つひとつが、村上さんにとっては初めて経験する出来事だった。

「恵里と付き合い始めてから、写真で笑えるようになったんですよ。小学校も高校でもずっといじめられっこで、自分に自信がなくて、写真を撮られる時も笑うことができなくて」

「だけど、恵里がいつも『可愛いよ』と褒め言葉を言ってくれることが自信になって。顔色も良くなったと言われるくらいなんです」

恵里さんにとっても、村上さんは「自分のことを理解し、大事にしてくれる存在」だ。

交際を始めて1年ほどして、結婚や子どもについて話すようになった。

結婚がしたい。でも、そのためにはまず、日本が変わらなければならない。

札幌地裁で今年3月、同性婚ができないのは違憲だと認める判決ができたときは、「こんなに嬉しいものなんだ」と自分でも驚くくらい嬉しかったと、恵里さんは言う。

「この裁判は本当に『自分のこと』。今までは結婚できないことが当たり前みたいになっていたからこそ、本当に第一歩だと思っています」

「結婚しないこと」と「結婚できないこと」は違う

首都圏の大学に通う五十嵐理子さん(18)も、この裁判を自分の目で見てみたいと、東京地裁で先月開かれた第2次訴訟の口頭弁論を傍聴したひとりだ。

五十嵐さんはバイセクシュアルで、中学2年生の頃に、自分が女性も好きになることに気が付いた。高校1年の冬にニュージーランドへ留学したことがきっかけで、日本の現状を「遅れている」と感じるようになった。

「そもそも同じ日本に生まれてきたのに、同じ制度を利用できる人とできない人がいる。それって、気持ち悪くないですか?」

五十嵐さん自身は将来、結婚したいとは思っていない。でも「『結婚しない』ことと『結婚できないこと』では、全然違うことですよね」と語る。

原告たちはこれまで「自分たちと同じような苦しい経験を若い世代にさせたくない」と繰り返し、語ってきた。

「次の世代のことを思ってくれるのは嬉しいし、尊敬するし、本当にありがたいと感じています」

「裁判長には、目の前で喋っている人が、自分と同じ制度を共有できていないということを目で見て、耳で聞いて、よく考えてほしいです」

家族を持つ未来が欲しい

RYOSUKEさん(36)も先月開かれた2次訴訟の口頭弁論で初めて、傍聴席に座った。

この日は、原告の藤井美由紀さんが意見陳述。自分の性的指向を隠すために日々、小さな「うそ」を重ね、本当の意味での人間関係を築くことができなかったと語った、藤井さんの言葉に共感した。

「原告の方が話していた内容はとてもプライベートで、話すだけでも勇気がいることなのに、裁判の進行はすごく事務的だなというのが印象に残りました」

RYOSUKEさん自身も自分がゲイだとわかったときから、将来結婚すること、家族を持つことはないのだと、あきらめてきた。

自分にはそんな選択肢がないと考えて生きてきたが、今は「そういう未来が欲しい」と感じるようになった。

「同性婚が認められたら、実際に結婚できるようになるだけでなく、周りに自分のことを話しやすくなるし、自分も『社会に存在していいんだ』と認められるような、精神的な安心にもつながると思います」

裁判官に「自分が書かなければ」と

東京第1次訴訟では当初、裁判所が原告一人ひとりの個別事情を「夾雑物(余計なもの)」と呼び、尋問を実施しない方針を示していた。

原告側は署名活動などを通じて抗議し、裁判長が交代するとともに、尋問の実施が決まった。

東京弁護団・共同代表の寺原真希子弁護士は、「これまでの期日で、代理人として主張すべき法律的なことはすべて、もう何十ページも使って主張済みなんですけど、やっぱりそれでも伝わらないことを伝えるのが、本人尋問です」と語る。

「弁護団としては、同性婚ができない現状は憲法に違反していると確信していますが、それを裁判官に実感してもらうことが重要。『自分が(違憲判決を)書かないとおかしいことになるぞ』という実感を持ってもらうために重要なのが、尋問だと思います」

尋問は10月11日午前10:30から、東京地裁103号法廷で開かれる。