「LGBT理解増進法案」をめぐる自民党の会合で、反対派の議員が性的マイノリティに対する差別発言をし、法案の今国会提出も見送られる見通しとなったことを受け、自民党本部前で抗議活動が行われている。
5月30日18時すぎから始まったデモには、およそ300人(主催者発表)が参加し、「私はここにいる」「差別発言を撤回しろ」などと書かれたプラカードやキャンドルを手に声をあげた。
(*この記事には差別的な発言についての記述が含まれています。閲覧にご注意ください)
「憤りという一言では表しようのない」
自民党の「性的指向・性自認に関する特命委員会」(稲田朋美委員長)が中心となり、今国会での成立を目指してきた「LGBT理解増進法案」。
法案の目的と基本理念に「差別は許されない」という言葉を追加することで、野党の合意も得ていたが、自民党の会合で出席した議員から反対意見が続出。
なかでも「LGBTは種の保存に反する」という趣旨の発言などがあったことが報じられると、差別的だと批判が殺到した。
「憤りという一言では表しようのない、本当に何のためにこれまでやってきたのだろうと感じるくらいひどい発言だった」
ゲイであることを公表し、性的マイノリティに対する差別を禁止する法律を求めて活動してきた松岡宗嗣さん(一般社団法人fair代表理事)は、壇上でそう怒りをあらわにした。
「議員の差別発言に対して党として何も対応をせず、法案も提出しないというのはあまりにおかしい。自分たちで率先して差別をしたい、差別を温存したいと言っているとしか思えません」
松岡さんはこれまで、理解増進を掲げる自民党の法案では不十分で、差別で苦しむ当事者の救済を目的とした法律の必要性を訴えてきた。
そのため、与野党協議で「差別は許されない」という言葉が追加されたことは、「いま起きている差別をなくすための一歩にはなる」と考えてきた。
「誰かの生きやすさを『運命に委ねない』ことが本当に重要。どこに生まれても、どんなジェンダーやセクシュアリティでも、不当な差別を受けずに自分らしく生きていくことのできる社会を作るためには、まず法律が必要で、どんな法律が必要かが議論されるべきだと思います」
「私の存在も否定されたのだろうか」
デモでは、参加者が次々と登壇し、リレートークが行われた。
LGBT法連合会理事でレズビアンの五十嵐ゆりさんは、「発言が報じられてから、自分の感情を言語化することができなかった。あの言葉は、私に言われているのか、私の存在も否定されたのだろうかと、つらい数日間を送ってきた」とひとりの当事者として胸の内を打ち明けた。
東京レインボープライド共同代表で、トランスジェンダー男性の杉山文野さんは、「差別は許されないと法案に明記したら、社会が混乱するという懸念も党内からあったようですが、混乱しているのは自分たちではないか。いつまでも社会のせいにしていないで、命を守る法律を作ってください」と訴えた。
Zoomを通じて、京都や大阪、北海道などの各地方からも声が上がった。
熊本を拠点とする支援団体「くまにじ」のメンバーで、同性婚訴訟の九州弁護団の一員でもある森あいさんは、「自分は東京にいないからできることはないと感じている人もいるかもしれませんが、地元からの声が議員たちには響きます。ぜひ声を届けて下さい」と呼びかけた。
また、会場ではこれまで差別に苦しみ、命を落とした当事者を偲ぶために、LEDキャンドルライトや花束が配られた。
プライドハウス東京の代表で、自身もゲイの松中権さんは、2015年にゲイだと暴露された学生がキャンパス内の建物から転落死した事件が起きた、一橋大学の卒業生だ。
「もしも周りの環境が少し違ったら、同じことが僕にも起きていたかもしれない。あの事件で亡くなった彼は、私自身だったかもしれない」。松中さんはそう語ると、こう続けた。
「今日も命をなくしている人がたくさんいます。これ以上、私たちの命を奪わないでくださいと伝えたいです」
抗議活動は5月31日夕方まで、感染症対策に配慮しながら、一部の参加者が24時間の座り込みを続ける。31日午後には複数の当事者団体が、自民党に抗議文や署名を提出する予定だ。