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「毎日写真見てます」「ストッキング売って」 選挙で女性候補者を襲う“票ハラ”とは

10月31日に投開票日を迎える衆院選。有権者が「1票の力」を振りかざす「票ハラスメント」の問題に注目が集まっている。

10月31日に投開票日を迎える衆議院議員選挙。

候補者らが日本各地やオンラインで投票を呼びかける中、有権者が「1票の力」を、特に女性候補者に振りかざす「票ハラスメント」の問題に注目が集まっている。

「票ハラスメント」とは?

女性議員や候補者の政治活動をサポートしている団体「Stand By Women」代表の濵田真里さんによると、「票ハラ」とは、有権者が票を持っていることを利用して、議員や候補者に高圧的な態度で接したり、自分が望む行動を強要したりするハラスメント行為の一種だ。

今回の選挙戦でも、参院議員の塩村あやかさんが都内で応援演説した際に、聴衆の男性ともみ合いになり、身体を触られたとツイート。「たまたまであれ、私は戦意喪失。本当は毅然と対応したかったのですが…」などと心情をつづっている

市民の代表である議員や候補者に有権者が要望を伝えるのは当然のことだ。しかし、そこに必要以上に高圧的な態度や支持の見返りへの強要などが伴えば、「ハラスメント」の域に達することになる。

街頭演説からSNSでの情報発信まで、様々な方法で選挙活動が展開されるなか、「票ハラ」も、ストーカー行為やオンラインでの誹謗中傷まで多岐にわたる、と濵田さんは語る。

「どのような被害を受けるかは、その議員さんの発信方法などによって変わってきますが、Twitterで誹謗中傷されたり、デマを流されたりする被害は、当たり前のように多くの議員さんや候補者が経験しています」

「DMで性的なメッセージを送りつけられる被害も本当に多いです」

「例えば、容姿に言及してくるものや、『あなたの写真を毎日見てます』『この写真で穿いているストッキングを売ってください』といったメッセージ、性的な行為を長々と挙げて『君とこんなことがしたい』と言ってくるもの、自分の局部の写真を送りつけてくるものなど、本当に“よりどりみどり”と言っていい状況です」

オンラインでなくとも、街頭演説などの不特定多数の有権者と会う場面で体を触られたり、暴言を言われたりする被害があったり、選挙活動の手伝いを理由に接近してきたボランティアや支援者から被害を受けたりするケースも少なくないという。

「例えば、『今日ビラ配りを手伝ってあげたんだから、連絡先くらい交換してよ』と迫ったり、『住所を教えて』と言ってストーカー的な行為をされたり、個人的な関係に持ち込もうとするケースが多くあります」

「特に当選回数の少ない議員さんは、人集めにすごく苦労されることが多いのですが、女性議員さんがボランティアを公募すると、希望者の圧倒的多数が男性になるというのは、女性議員さんにとっては『あるある』な現象ですね」

「女性は“性的な対象”と見られやすい」

内閣府が昨年度、「立候補を断念した人」を対象に実施したアンケート調査では、回答者のうち男性の58.0%、女性の65.5%が、立候補を検討している時や出馬に向けた準備中に何らかのハラスメントを受けたと回答している。

具体的な被害では、男性は「SNS、メール等による中傷、嫌がらせ」が24.5%で最も多かったのに対して、女性は「性別に基づく侮辱的な態度や発言」が最多で、27.2%だった。

男女ともに被害を経験している一方、女性の方がより「支配の対象や性的な対象として見られやすかったり、ケアを提供してくれる、構ってくれる対象としても見られやすく、被害に遭いやすい」と濵田さんは指摘する。

「女性議員さんからよく聞くのが、『議員としての仕事自体にはものすごくやりがいを感じるけれど、ハラスメントなどの状況があまりにひどいので、他の女性にこの仕事を勧めづらい』という言葉です」

「女性の場合はハラスメントに限らず、妊娠・出産して議員活動を続けることもまだまだ難しく、議員は24時間働くのが当たり前みたいな風潮の中で、子育てと両立させることも非常にハードルが高いのが現状です」

「女性議員を増やそうという機運は高まってきているとは思いますが、こうした労働環境で実際に女性が働き続けることができるのかと考えると、非常に困難な状況があると思います」

政治におけるジェンダーギャップ

濵田さんが票ハラに着目し、女性議員や候補者のサポート活動を始めた背景には、日本の政界に横たわるジェンダーギャップを解消したいという思いがある。

世界経済フォーラムが今年3月に発表した「ジェンダー・ギャップ指数2021」で、日本は156か国中120位と、G7諸国の中でも圧倒的な最下位を記録した。特に政治分野の評価が低く、156か国中147位だった。

解散前の衆議院議員の女性比率は約10%。今回の衆院選は、各政党に男女同数の候補者を擁立するよう促す「政治分野における男女共同参画推進法」の施行後、初めて行われる国政選挙だが、候補者1051人のうち、女性は186人で17.7%だった。

「人口がそもそも男女で半分半分の中、国の根幹である民主主義を実現するための国会(衆議院)に女性が1割しかおらず、男性が9割を占めるというのは非常にバランスが悪い状況です」と濵田さんは指摘する。

「そのような状況の国会が、国民の意見を反映できているのかは疑問です」

「票ハラ」を減らすためには

票ハラを減らしていくためには、どんなことが必要なのか。濵田さんは、被害を受けた議員や候補者が相談できるような専門機関を立ち上げるとともに、有権者一人ひとりの意識をアップデートしていくべきだと語る。

「ハラスメントをした人から『議員だからやってもいいと思った』といった弁解をよく耳にするのですが、議員も私たちと同じ一人の人で、その感覚は非常に間違っていると認識する必要がまずあると思います」

「議員や候補者に対してハラスメント行為をしている人は、身近な別の場面でもハラスメント的なことをしている可能性が高い。自分のやっていることは相手が嫌がる行為ではないかを自問しつつ、自分も加害者になりうると自覚して、行動を変えていくことが重要だと思います」