極右「オルト・ライト」という造語を生んだ男 全米が震撼した衝撃の発言「ハイル・トランプ!」

    ワシントンDCの集会を撮影した動画は4300万回再生された。

    「ハイル・トランプ! ハイル・アワー・ピープル! ハイル・ビクトリー!」

    演壇の男がこう叫ぶと、聴衆は拍手をしながら、次々と立ち上がる。右手を突き上げ、ナチス式の敬礼をする者もいる。歓声で溢れかえる。

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    The Atlantic / Via youtube.com

    男が聴衆に語りかける。

    「白人であることは、努力家であり、戦士であり、探検者であり、征服者であることだ。我々は、築き、生産し、繁栄する」

    「アメリカの人種問題は大きな嘘である。我々は他の人種を搾取しない。やつらの存在から何かを得ているわけではない。やつらは我々を必要としているのだ。逆ではない」

    男が白人を「我々」と代弁し、有色人種を「やつら」とこき下ろすと、拍手と喝采で包まれた。

    「優雅に消えゆくことは、名誉ではない。我々に対して犯された巨大な犯罪が嘆かれることはない。我々にとって、これは、勝つか、死ぬかなのだ」

    "Conquer or die": Richard Spencer rallies white nationalists in the nation's capital https://t.co/0DF7YNY9nI

    「太陽の子どもとして、我々の血管に流れる血の中にこそ、偉大さを発揮するポテンシャルがあるのだ。これこそが我々に与えられた、かん難なのだ」

    「恥、衰弱、侮辱の下で生きるつもりはない。地球上にはびこる極めて卑劣な生物どもに、モラルを正当化してほしいと乞うつもりもない」

    白人を「太陽の子ども」呼び、優越性を説く。

    「我々は圧倒するのだ。全てを圧倒するのだ。それこそが我々にとって、自然で、標準の状態だからだ」

    白人こそが勝者となると宣言すると、拍手と歓声に包まれた。

    「アメリカは前の世代まで、白人の国だった。我々自身とその子孫のために設計された。これは我々が創造したものだ。我々が継ぐものだ。我々のものだ」

    会場は、スタンディングオベーションとなった。

    3分あまりの動画。Facebookでは4300万回、Youtubeでは230万回、再生された。米誌アトランティックが11月19日に撮影した。12月にドキュメンタリーを公開するという。(講演の全スピーチはこちら

    この話者は、誰か。

    名前はリチャード・バートランド・スペンサー。1978年生まれの白人男性で、白人だけの国をつくる「平和的な民族浄化」を呼びかける

    Mother Jones誌によると、テキサス州ダラスの裕福な地域で育ち、有名男子校に通った。バージニア大で音楽と英語を専攻。シカゴ大大学院に進み、修士論文のテーマはドイツの哲学者テオドール・アドルノだった。

    デューク大のヨーロッパ思想史の博士課程に進むが、中退。保守系雑誌やウェブサイトの編集者などを務めた。

    White Supremacist Richard Spencer to Speak at Texas A&M University https://t.co/xWtVl9srfW

    スペンサーの肩書きは「国家政策研究所(National Policy Institute, NPI)」代表。NPIは「アメリカや世界中にいるヨーロッパ系子孫の伝統、アイデンティティ、未来のための組織」をうたう。

    「アカデミック・レイシスト(理論的な人種差別主義者)」

    人権擁護運動で著名な「南部貧困法律センター(SPLC)」は、スペンサーをこう呼ぶ。「教養のある中間層の白人にアピールするために、イメージ戦略に長けている。小綺麗な格好をし、暴力を避け、合理的に見えるようにする」

    高まる注目

    このNPIが11月19日に開いたのが冒頭の集会だ。会場は、ホワイトハウスから数ブロックのロナルド・レーガン記念ビル。建物の外は、これに抗議する人々で溢れかえった。

    会場の記者団の後ろには聴衆が陣取った。そのほとんどが白人の若い男性。ドナルド・トランプのスローガン「アメリカを再び偉大に」のロゴ入り帽をがぶったり、頭の両側を刈り上げたりしている。ナチスドイツ下で流行し、ファシストに由来する「ファッシー(Fashy)」な髪型と呼ばれている。

    記者が質問するたびに、ブーイングを飛ばしたり、野次ったりした。

    聴衆は200人ほど。記者も20人以上集まった。これまでの集会ではありえなかったことだ。

    会見後スペンサーはBuzzFeed Newsに、会見は本当に楽しいものだと打ち明けた。知名度が上がり、注目されることを喜んでいた。

    なぜ、急にこれだけの注目を浴びるようになったのか。

    原動力は、次期大統領ドナルド・トランプだ。

    「トランプを完璧に」

    2015年6月の大統領選出馬会見で、メキシコ人を強姦犯と呼び、国境に壁を作ると豪語したトランプ。イスラム教徒の入国禁止や不法滞在移民の強制送還も訴えた。スペンサーは、勢いづいた。

    ヒラリー・クリントンが今年8月、演説で言及すると、一段と注目を高めた。クリントンは「オルト・ライトと呼ばれる人種差別イデオロギーが台頭し(トランプを通じて)共和党を効果的に乗っ取った」と述べた。

    スペンサーはこの造語「オルト・ライト」の発案者。Mother Jones誌は、このとき東京で休暇を取っていたスペンサーにインタビュー依頼が殺到したと伝える。

    11月19日の会見でスペンサーは、オルト・ライトは選挙前「体のない頭のようだった」と述べている。

    対照的に「トランプ運動は、頭のない体のようだった」という。そして、こう結論づけた。

    「知的先駆者集団として、オルト・ライトを前進させれば、トランプは完璧な存在となる」

    この「オルト・ライト」。一体、何を指すのか?

    オルト・ライトとは

    「白人だけの国家を建造するのが目的」。ワシントンポスト紙に、アラバマ大学助教のジョージ・ホーリーは、こんな描写をしている。

    その核は、白人ナショナリズム、少なくとも白人アイデンティティ政治といえる。ネットで盛り上がるのが特徴だ。

    典型的なオルト・ライトというと、10代後半~30代(ミレニアル世代)の白人男性。大学生か大卒で、宗教心は強くない。伝統的な家族観、限定的な国家の役割、タカ派の外交政策といった保守運動には関心がない。

    造語が生まれた2008年ごろは、ブッシュ前大統領や新保守主義に反対する右派全般を指していた。リバタリアンから超保守主義者、人種的右翼まで含んだ。だが徐々に人種的要素が色濃くなっていった。勢いを一旦失ったが、2015年にソーシャルメディアを中心に盛り返した。

    「オルト・ライト」という造語を使うのは、極右、ネオナチといった呼称を避ける婉曲表現に過ぎないとも批判も根強い。

    白人だけの国家を建造するといっても、どうやってそれを達成するかは曖昧なまま。ただ、こんな手順を示す人はいる。

    まず不法滞在移民を追い出し、次いで国籍の出生地主義を止め、米国を離れるインセンティブを提供し、他の人種の人間が少なくなったところで、より強制的な措置を取る、というものだ。

    白人ナショナリズム運動

    では、オルト・ライトの核とされる白人ナショナリズム。正体は何か。

    ニューヨークタイムズ紙に、ロンドン大バークベック校の教授エリック・カウフマンが解説している。

    国家のアイデンティティは白人のエスニシティ(民族性)を基礎に築かれるべきだという考え。白人の利益を他の人種の利益に優先させ、人種差別を法律や政策に組み込むべきだと考える。

    白人は人口の過半数を占め、文化的に優勢かつ、政治的、経済的に支配的地位を占めなければならない。

    長い間、白人ナショナリズムはイデオロギーというよりも、アメリカでは「当たり前の状態」だった。白人アメリカ人はこれまで、自分たちの民族集団の延長こそがアメリカだと捉えてきた。

    だが、人種構成が大きく変わり、公民権運動が盛り上がり、多文化主義が広がるにつれ、自らのアイデンティティに直面することになった。

    もちろん多くの白人は、多様性を好んで受け入れているが、これをストレスと感じる人もいる。こうした人たちが白人ナショナリズムを支持し、移民の制限や、極端な場合は非白人の強制送還を求めている。

    実は、アメリカの人口構成は大きく変わってきている。白人がマイノリティーになろうとしているのだ。

    全米では2011年、白人の乳児が過半数を割った。ピュー研究所によると、1965年に84%を占めた白人は、2045〜55年の間に人口の過半数を割る。増えるのはラテン・アメリカ系とアジア系だ。

    すでに全米最大のカリフォルニア州では、白人の人口は過半数を割っており、2014年にはラテン・アメリカ系が白人の数を上回って最大グループになっている。

    近年の欧州で軋轢を起こしたシリア難民問題も、白人ナショナリズムに拍車をかけた。

    「根を奪われる」

    南部貧困法律センター(SPLC)は、「ポリティカル・コレクトネス」や「社会正義」の名の下に、「白人のアイデンティティ」が、多文化を推し進める力によって脅かされているという信念がオルト・ライト運動の中心にある、と指摘する。

    アメリカ社会で多数派を占め、経済、政治的に優越的な地位を謳歌してきた白人男性。転落の不安をぬぐおうと、他者を排除し、人種を拠り所とする優越感にひたる。

    NPIの集会にいた「アジャックス」と名乗る23歳の男性はBuzzFeed Newsの取材に、白人が置かれた状況とオルト・ライト運動をこんな風に説明した。

    「リベラルも保守も決して理解することができない次元で、我々はアイデンティティ集団というのを理解しているんだ。 完全に根を奪われて、アイデンティティを持てず、社会から疎外されているように感じるのがどういうことか。我々はわかっている」

    主流に足がかり

    「オルト・ライトはいま、アメリカのメインストリーム政治に、人種差別、女性蔑視、外国人憎悪を吹き込むチャンスを得た」

    スペンサーに密着取材したジョシュ・ハーキンソン記者は書く。トランプ後、誹謗中傷や差別がはびこる「ヘイト政治」が当たり前になる世界を憂慮する。

    ただ、オルト・ライトは、屋外で大規模な政治集会を開いたり、政党を立ち上げたりするほどの勢力はない。Twitterは11月15日、誹謗中傷や差別をより厳しく取り締まる方針を公表し、数時間後、スペンサーのアカウントも停止した。

    「理由を知りたいね」

    トランプ本人はどう思っているのか。

    11月22日、ニューヨークタイムズ紙のインタビューで、自身の言動がオルト・ライト運動の隆盛につながったのではないかと問われると、これを否定した。

    「この集団を活気づけたいとは思わない。この集団を認めない」「もし活気づいているのだとしたら、よく調べたいし、理由を知りたいね」

    (敬称略、日時は現地時間)