「ダンス禁止」の張り紙再び 警察から指導「時代が戻ってしまったよう」

    「音に合わせて体を動かすのは自然な行為。これから外国人観光客を増やしていこうというなかで、『ダンス禁止』というのは馬鹿げています」

    東京・六本木の人気ショットバー「GERONIMO東京」が風営法の取り締まりで警察に呼び出しを受け、「ダンス禁止」の張り紙をするよう求められた。

    そもそもGERONIMOにはDJブースやダンスフロアさえなく、ダンス営業も行っていないが、指導を受けてやむなく張り紙を掲示した。

    改正風営法が成立する2015年以前、全国各地でクラブ摘発の嵐が吹き荒れ、取り締まりを恐れる店側は「ダンス禁止」「NO DANCING」といった警告文を掲げていた。

    いま再び同じ光景が繰り返される事態に、経営者の田中雅史さんは「時代が戻ってしまったようだ」と嘆く。

    突然の立ち入り

    発端は今年2月15日のことだった。

    午前3時過ぎ、スーツ姿の警察官4人が店を訪れた。当時、田中さんは不在。

    電話連絡を受けた担当者があわてて別の店舗から駆けつけると、警官の1人からこう告げられた。

    無許可でダンスをさせてはいけない

    店内にいた客は15人ほど。担当者が見る限り、うち数名が音楽に合わせて体を軽く揺らしているだけだった。

    担当者は「これぐらいで取り締まるんですか」と食い下がったものの、「あなたが来る前にはもっと踊っていたんですよ」と言われ、警察署への呼出状を手渡されたという。

    呼出状には、こんな風に書かれていた。

    貴営業所に立入りを実施したところ、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反(無許可)があり、お尋ねしたいことがありますので、次によりおいでください。

    警官「何か貼るとか対策を」

    田中さんは呼び出しに従い、2月27日に麻布署に出頭。

    改めて経緯を問われ、「お客さんが勝手に体を動かしていただけ。積極的にダンスをさせたわけではない」と主張した。

    すると、警察官からこう言われた。

    「『ウチのお店はそういうこと(ダンス)をする店じゃないんですよ』ということで何か貼るとか、対策をとった方がいい」

    「我々が立ち入りをした時に、仮に同じような状況になったとして、表示をしておけば『店側としてはキチンと対策をとってます』という言い訳がつきますよね」

    田中さんは内心疑問もあったが、その場を収めるために受け入れることにした。

    帰り際にもう一度、「表示ができたら電話をください。夜に確認に行かせます」と念押しされたという。

    DJブースもないのに…

    2016年に改正風営法が施行され、深夜に酒を提供し、遊興をさせる店は「特定遊興飲食店」として営業許可を取ることが義務付けられた。

    無許可営業には、2年以下の懲役か200万円以下の罰金が科される。条文は、特定遊興飲食店を次のように定義している。

    「特定遊興飲食店営業」とは、ナイトクラブその他設備を設けて客に遊興をさせ、かつ、客に飲食をさせる営業(客に酒類を提供して営むものに限る)で、午前六時後翌日の午前零時前の時間においてのみ営むもの以外のもの(風俗営業に該当するものを除く)をいう。

    しかし、GERONIMOにはDJブースはおろか、ダンスフロアやミラーボールすらない。法律家も『設備を設けて』という条文の要件に当てはまらないと指摘している。

    強まる小箱への取り締まり

    GERONIMOに限った問題ではない。

    今年に入ってから、「小箱」と呼ばれる小規模なクラブやミュージックバーへの取り締まりは強まっている。

    1月末、渋谷のクラブ「青山蜂」が全国で初めて風営法違反(特定遊興飲食の無許可営業)容疑で摘発され、経営者ら3人が逮捕された。

    3月下旬には、原宿の有名DJバー「bonobo」に警察が立ち入り。観客が体を動かす様子を見とがめた警官は、経営者を「踊っているね?」と問い詰めた。

    4月上旬にも、渋谷や六本木などの少なくとも10店舗に一斉立ち入りが行われている。

    危機感を募らせた店舗側は業界団体「ミュージックバー協会(MBA)」を設立。田中さんは協会の代表理事に就任した。今後は法律の運用改善や立地規制の緩和などを求めていく考えだ。

    「ダンス禁止、馬鹿げている」

    田中さんは言う。

    「音に合わせて体を動かすのは自然な行為。これから外国人観光客を増やしていこうというなかで、『ダンス禁止』というのは馬鹿げています」

    GERONIMOがオープンしたのは1994年。欧米を中心とする外国人客が8割を占める。外国人観光客向けの口コミサイトでも「東京で最高のバー」「素晴らしく楽しい雰囲気」などと高い評価を誇る。

    ロバート・デニーロやヒュー・グラント、オアシスのノエル・ギャラガーら海外セレブも多く訪れる有名店だ。

    「ウチの店はもともとダンス営業をしていないし、張り紙をしたところで経済的な影響はありません。ただ、風営法が小箱やピアノバー、ジャズバーなどの営業を『遊興』として幅広く規制しているのは疑問です」

    「深夜の遊興に罰則を科し、立地エリアも狭い。ここまで厳しい規制をする必要があるのか、改めて議論していく必要があるのではないでしょうか」

    警視庁「清浄な風俗環境を保持」

    小箱への一斉立ち入りについて、BuzzFeed Newsの問い合わせに警視庁は4月23日付で次のように回答している。

    《個別案件については、お答えを控えさせていただきます。なお、当庁の実施する立ち入りは、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律、および同法施行条例に規定する各種義務の履行を確保し、もって善良の風俗と清浄な風俗環境を保持するとともに、少年の健全育成に障害を及ぼす行為を防止することを目的としております》


    BuzzFeed JapanNews