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1年3ヶ月の「監禁」生活を乗り越えた男が語る、コロナ自粛疲れに打ち勝つ極意

『電波少年的懸賞生活』で1年3ヶ月にわたって懸賞だけで生活した、なすびさんのツイートが大きな反響を呼んでいる。巣ごもりの達人なすびさんに、「コロナ疲れ」と対峙する心構えを聞いた。

「1週間や10日位、試しに家に閉じこもってみませんか? 私ができたんだから、あなたにだってできます!!」

俳優・タレントのなすびさん(44)が4月中旬にTwitterでこう呼びかけると、4万回以上リツイートされ、11万を超える「いいね」が集まった。

22年前、人気バラエティー番組『進ぬ!電波少年』の企画で1年3ヶ月にわたって部屋に閉じこめられ、懸賞の賞品だけで生活したなすびさん。

新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が出され、多くの著名人が「うちで過ごそう」と呼びかけるなか、壮絶な実体験に裏打ちされた言葉は「説得力のレベルが違う」と反響を呼んでいる。

じわじわと広がるコロナ疲れ、自粛疲れをどう乗り切ればいいのか? BuzzFeedは巣ごもり生活の達人、なすびさんに極意を聞いた。

自粛生活もストレスなし

――どんな思いであのツイートをしたのでしょうか。

僕もコロナの影響で仕事の中止や延期が続いていて、もう1ヶ月以上、仕事や食料の買い出しで数回外出した以外は、ずっと家に閉じこもって生活しています。

本当に何もしていなくて、ただ家にいて、寝て起きて、テレビ見て、みたいな自堕落な生活をしているだけなんですけど。

最近、ニュースやSNSでいわゆるコロナ疲れ、自粛疲れについて目にする機会が多くなってきて。皆さんやっぱり外出できなくてつらい、ストレスがたまっているんだなと。

僕は20年以上前ですけれども、「懸賞生活」で1年3ヶ月以上部屋に閉じこもっていました。そんな経験があるからか、1ヶ月部屋にいても心身ともに健康で、ほとんどストレスを感じません。

僕らにできることは…

――経験が生きている(笑)

X-MENみたいなカッコイイ能力ではないですが、ちょっと特殊な体験をしたことで、何か培われたものがあるのかもしれません。

懸賞生活と同じことを実践しろというのは酷だし、そんなつもりはまったくないんですけど、僕がああいう呼びかけをしたら、もしかしたら皆さん納得してくれるんじゃないかなと思ったんです。

医療体制の逼迫が叫ばれ、医療従事者の方々は本当に命がけで、最前線で頑張ってくださっている。その負担を少しでも減らすために、僕らは何ができるだろう?

結局、僕らができることって何もない。逆に言えば、何もしないで家に閉じこもっていること、できるだけ人との接触や3密」(密閉・密集・密接)を避けることが、いま一番できることなのかなと。

懸賞生活をやっていた『電波少年』は、最高視聴率30%を超えた人気番組です。それだけたくさんの方が見ていたとするならば、僕の経験をSNSで発信した時に、少しは皆さんにほっこりしていただけるかもしれない。

「そうか、なすびも頑張っていたんだし、俺らもちょっと頑張ってみるか」とネジを巻き直してもらえたら。そんな「気づき」のきっかけになれば、と思って投稿しました。

医療従事者らからも感謝

――これだけの反響は予想されていましたか。

正直、あんなに反響があるというのはまったく想像していなかったので、驚きと戸惑いを隠せません。

賛否両論あるのかもしれませんが、「なすびを見習って家に閉じこもっているよ」といった前向きな反応が多くて、すごく嬉しかったです。

なかには医療従事者の方やスーパーで働いている方、社会インフラを回すためにやむを得ず出勤している方もいらっしゃいます。

そういう方々からも「僕らは外に出なきゃならないけど、皆さんが家で頑張ってくれることが力になってます」「気持ちをわかってくれてありがとう」という声をいただいたり。

苦渋の選択と不急の外出

――「うちで過ごそう」と呼びかける有名人はたくさんいますが、どうしても通勤しないといけない立場の人からすると、「俺だって本当は休みたいよ」「芸能人はお金もあるし、いい気なもんだな」という思いがよぎってしまうこともあるかもしれません。その点、なすびさんは実際に過酷な懸賞生活を乗り切っているだけに、説得力がありますね。

僕が発信したことが誰にでも通用する話ではない、ということは百も承知の上で。

やむを得ず仕事に行っている方はやっぱり苦渋の選択だろうし、「家にいられるものならいたい」とつらい思いをされているだろうと思います。

僕が「会社を休みにしてください」と言っても無理な話なので、そういう人たちに対しては本当に心苦しいですが、そこは国が動いたり、(補償など)違う部分で働きかけなきゃならないところなんでしょうね。

一方でニュースなどを見ていると、不要不急の外出をしている人もいます。

やむを得ず職場へ行っている方々が苦渋の選択だということも含めて考えると、そうじゃない人たち、もうちょっと我慢できるんじゃないかなと。

普段はそんなに外を出歩いていなかったような人たちも、急に「ダメ」と言われたら、ここぞとばかりにやりたくなる、逆説的な部分があるのかもしれません。

だけど、世の中を動かすために命がけで外に出なければならない方がいらっしゃるのであれば、僕らにいまできることは「命がけで家に閉じこもること」だと思うんです。

ドッグフードで生き延びた

ま、残念ながら私がもう一度懸賞生活をする事だけは有り得ませんがねっ!フリじゃねーよっ!!

――改めて振り返って、1年3ヶ月の懸賞生活はつらかったですか?

1日に200枚、300枚とハガキを書いて、懸賞で当たったものしか食べられない生活。ドッグフードを食べて生き延びた時期もありました。

ずっと全裸で過ごさなきゃいけないのもキツかったですが、服は着なくても死にはしない。やはり食べ物がない空腹感の方がつらかったですね。

本当につらくて、精神的にも追い込まれて。なんで自分一人だけ、こんなつらい思いをしなきゃならないんだろうと。正直に言うと、何度も自殺を考えたぐらいの極限状態でした。

いまになってこういう形で役に立ったのだとすれば、多少は救われる、報われる部分もあったと思いますけれども。

死刑よりも重い刑罰

――懸賞で100万円分当てるまで外に出られないって、もしかしたら刑務所よりキツイかもしれないですね。

刑務所の中でも、独房にずっと入れられていたようなもので。人間って行動を制限されるとものすごくしんどい。

懸賞生活が終わった後に本で読んだのですが、死刑よりも重い刑罰は、狭い部屋に閉じ込めて単純作業を繰り返させることらしいです。そうすると人間、自然と狂ってしまうという。

これ、俺だよなと思って。俺は死刑よりも重い刑を科されていたのかって(笑)

何気ない幸せの大切さ

――出口の見えない不安感、なかなか外に出られない状況は現在の自粛生活にも通じます。「コロナ疲れ」に陥ってしまった時、どうやってメンタルを立て直したらいいでしょうか。

僕と皆さんの大きな違いは、「外に出られない」と言っても、3密を避けたうえで散歩や軽い運動はできるということ。

「外に出られない」とストレスを抱えるよりは、逆に「いつでも外に出られるんだ」という心のゆとりを持ってほしい。

ちょっと寂しいなと思ったらインターネットを通じていろんな方とお話できますし、自粛期間が終われば会うこともできます。

底辺を知る人間の強さじゃないですが、僕は幸せのハードルがすごく低いんです。

ドッグフードじゃない、普通の食事を1日に1回でも2回でも食べられる。何百枚もハガキを書かなくても命をながらえることができる。

懸賞生活を振り返ると、何気ない普通の日常が実はものすごい幸せなんだなと思えます。

「命がけで閉じこもろう」

毎日、葉書を何百枚も書かなくても食べ物の心配せずに生活を営なめているだけで、心穏やかに安らぎを感じ、家に閉じ籠っていられます。因みに懸賞生活の時の当選品、何一つ手元に残っていないのですが、当時の相棒と思しきアシカの縫いぐるみを引っ張り出して来ました!名前覚えていますか?

――散歩もできるし、Zoom飲み会もできるし…。むしろ恵まれてるんじゃないかと錯覚してきました(笑)

そういう錯覚を皆さんに感じてほしい(笑)

それぞれの家庭や個人の事情もありますから一概には言えませんが、普通にご飯が食べられること、周りの人と会えなくてもネットでつながっていられることに、心の安らぎや幸せを感じてもらえたら。

「自分は大丈夫」「自分だけは関係ない」と外出している人もいるかもしれませんが、そうじゃないよね、と思います。

新型コロナウィルスの感染拡大を食い止めるために、医療の最前線で本当に命がけで頑張っている方がいる。僕らの生活を守り、社会インフラを止めないために頑張ってくださっている方もいる。

いまこそ僕たちも、「命がけ」で家に閉じこもりましょう。ステイホームしましょう、と言いたいですね。

〈なすび〉 1975年、8月3日生まれ。福島市出身。日本テレビ系『進ぬ!電波少年』の企画「懸賞生活」で1998〜1999年の1年3ヶ月間、日韓を舞台に懸賞のみで生活した。ブレイク後は俳優としての活動も本格化させ、2002年に劇団「なす我儘」を旗揚げ。2011年の東日本大震災後、故郷・福島の復興を祈念してエベレスト登頂に挑戦。雪崩や大地震などで3度の断念を余儀なくされるも、2016年、4度目の正直で登頂に成功した。「あったかふくしま観光交流大使」「安達太良山観光大使」などを歴任。新型コロナで深刻な影響を受けた福島企業の産品を扱う通販サイト「ふくしま!浜・中・会津の困った市」も応援している。