こちらは陳冠明さん。60歳の中国人の農家だ。はるばる中国からリオまで、人力車のペダルを踏み、やってきた。自称「オリンピックきちがい」の陳さんが、五輪の会場まで三輪車やってきたのは、今回でなんと3度目。ブラジルには、一週間前に到着した。
陳さんが、五輪会場へのクレイジーな冒険に初めて乗り出したのは、17年前。2008年には、北京オリンピックに出席する前に中国を一周。2012年には、ロンドンに人力車で旅した。そして今はリオにいる。陳さんはこの世界の旅を、2020年の東京オリンピックで終えるつもりだ。
陳さんには、あまりお金がなかった。でも、道で出会った見知らぬ人々がサポートしてくれたという。彼らは、心をこめて励ましてくれたり、あたたかい食事をふるまったり、丘を登るのを手伝ってくれたりしたそうだ。重さ180kg以上ある人力車は、荷物を全部運んでくれる、陳さんの相棒だ。
ファンたちは、陳さんの次の目的地となる町の人たちに、陳さんをサポートするよう呼びかけた。
水辺を渡らなくてはならない場合、出会った人々が陳さんを飛行機で運んでくれた。陳さんは人力車が船で到着するのを気長に待つだけだ。
陳さんは、ロンドン五輪に行くために、2年の歳月を費やし、約6万4千キロを旅した。今回はカナダ行きの飛行機に飛び乗り、カナダから、アメリカと南アメリカを経由して、リオに向かった。
陳さんは、こうしたことをすべて、オリンピック精神を奨励するためにやっているのだと話す。「自分が弱いと感じ、挑戦することを恐れている人たちに、困難に立ち向かい、乗り越える勇気を持ってもらうこと」を願っているそうだ。
「世界中の人々に励まされ、認められ、支えられてきた、私の経験から、そう思うのです。よい循環が生まれれば、人々の友情が深まり、その結果、平和がもたらされます」
リオでは、陳さんはどうやら、オリンピックセレブになりつつあるようだ。つまり、フィールドの外で自分自身と闘うスポーツマンだ。
陳さんは現場で試合を見れなくても、ごみを拾って、スタジアムの周りの掃除を手伝い、幸せを感じている。これこそ、オリンピックとは何なのかを教えてくれる。陳さんの言葉を借りれば、オリンピックとは「限界に挑戦し、友好的な方法で勝負し、より高い使命感という栄誉を勝ち取ること」だ。