巨大ドームの中に入道雲を生成。今年もポカリのCMがすごい

    昨年、女子高生が波打つ廊下を駆け抜けるポカリスエットのCMが話題を呼んだ。今年も屋外に巨大なドームを作り、その中に入道雲を生み出すという大掛かりなセットで撮影されたCMが注目を集めている。制作の舞台裏と、一貫したコンセプトについて聞いた。

    降りしきる雨の中、女子高生がビニール傘をさして歩いている。

    彼女がふと顔を上げると、視線の先には車の列、その奥には入道雲。

    いつの間にか雨は止んでいる。女子高生はビニール傘と鞄を捨て、車の上を飛び石のように渡りながら、入道雲へと駆けていく――。

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    ポカリスエットCM「羽はいらない」篇 75秒ver.

    昨年、女子高生が波打つ廊下を駆け抜ける大胆な演出と、藤の花と桜の花が舞う情景の美しさで話題を呼んだ、ポカリスエットのCM。

    今年は「羽なんか、いらないよ」をキャッチコピーに、青い空と白い雲という、ポカリスエットの原点に立ち返るようなキービジュアルのCMが放送されている。

    去年と同様に注目を浴びたのが、その大掛かりなセットと撮影方法だ。

    制作陣は、入道雲をつくるところから始めた。

    スモークや霧などのような状態にはしやすいが、立体感と高さがあり、ある程度の時間形を保つ入道雲を、人の手でつくるのは難しい。

    約2カ月試行錯誤を繰り返し、ドライアイスと人体に無害な物質を配合して入道雲を生み出した。

    撮影は当初屋内セットで行う予定だったが、青い空と白い雲というキービジュアルに合うのは、「やっぱり太陽光」だと制作陣は気がついた。そして、屋内撮影から屋外撮影へ、プランを大幅に変更した。

    外での撮影となると、問題は風だ。せっかく入道雲を作っても、飛ばされてしまう。

    そこで撮影本番、セットを丸ごと包む巨大なドームを用意した。長さ45メートル、幅15メートル、高さ8メートル。

    ビニールハウスのようなもので、中にセットを設営してから膨らませる。そして、撮影直前に雲を生成する。

    雲の寿命は30秒ほどで、撮影できるチャンスは本当に短い。限られた時間で雲へと駆けていくシーンを撮りきれるよう、何度もシュミレーションを重ねてきた。

    1テイク撮影するたびに、白くなったドームを元に戻すため換気をしなければならない。そしてまた30秒で、一気に撮影する。

    この工程を繰り返し、「本物の汗」が光るCMが完成した。

    「ポカリはフィジカルなものとの接着が良い。本当に汗をかいているとか、本当に走っているとか、どうやって視聴者に『本当』を感じさせるかが大事なんです」

    そう語るのは、ここ8年ほどポカリスエットのCMの企画、クリエイティブディレクション、アートディレクションを務めてきた正親篤氏(なかよしデザイン)だ。

    正親氏が「ものすごい方達がバトンを繋いできた世界」というポカリスエットのこれまでのCMには、一貫したテーマがある。

    それは「人間の潜在能力、生命力を引き出す」こと。若者を描き続ける理由も、この点にある。

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    大塚製薬ニュートラシューティカルズ事業部、宣伝部課長の上野隆信氏によると、ポカリスエットを一番飲むタイミングは「中学・高校生時代」だという。

    「我々からすると、ポカリスエットって中高生で飲まないと、そのまま飲まないんですよね。やっぱり味のなじみってありますし、大人になってから初めて出会ってもあまり飲まない」

    「だから大人が演じていると、『自分たちのブランド』にはならない。だから、中高生たちが同世代に共感を覚えるCMにしてほしいとお願いしてきました」

    そんなポカリスエットが、今年の75秒バージョンのCMには一切登場しない。

    CM制作の舞台裏映像はこちらから。

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    青と白、若さ、爽快感、清涼感。それだけで「あ、ポカリだ」とわかる。

    その理由は、ポカリスエットが発売から42年、大幅なリニューアルをあえてしていない点にあると、正親氏は語る。

    「リニューアルをしないというのは、生活者がずっと同じブランドを認め続けているということ。受け手がブレないんですよね。だから、青と白のロゴで『ポカリだ』となる」

    「このCMは、最後に視聴者の方が自分で感じることで完成します。受け身で、わあっと一方的に受け取る情報と、自分が入っていって『あ、これポカリだ』とプッシュする情報って、全然強度が違うんです」

    「ポカリスエットはそれができる製品だから、あの物語の中で無理やり飲ませる必要はありませんでした」