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「この判決で、人々が命を落とすだろう」中絶の権利が保障されなくなったアメリカ。大統領ら猛反発

1973年の「ロー対ウェイド」判決を覆す6月24日の最高裁判決を受け、アメリカでは「女性の中絶権が合衆国憲法で保障されない」こととなった。中絶反対派と擁護派の分断が深まる中、政界からはどのような声が上がっているのか。

米連邦最高裁判所は6月24日、女性が人工妊娠中絶を選ぶ権利を合憲としてきた「ロー対ウェイド」判決(1973年)を覆した。

この最高裁判決で、アメリカでは女性の中絶する権利は「合衆国憲法では保障されない」ことになり、各州が再び、独自の州法で中絶を禁止、あるいは厳しい制約を加えることができることになる。

「ロー対ウェイド」判決が覆されれば中絶を禁止する「トリガー法」が、すでに13の州で成立していた。そのうちアラバマ、アーカンソー、ケンタッキー、ルイジアナ、ミズーリ、オクラホマ、サウスダコタの7州では、すぐに中絶を禁止、ないしは厳しい制限を加える州法が施行された。

1973年の「ロー対ウェイド」事件は、中絶をほぼ不可能にしていた当時のテキサス州法の合憲性を巡る訴訟。最高裁判事9人のうち賛成7票、反対2票で、州法を「違憲」と判断。

これにより妊娠22~24週目(妊娠3カ月)まで中絶する権利が、憲法上の権利と認められることになった。

今回は、中絶を認める期間を妊娠15週までに狭めるミシシッピー州法について、トマス・ドブス州保健長官が代表する州保健当局と、ジャクソン女性健康機構が合憲性を争っていた(ドブス事件)。

最高裁判事9人のうち、5人が「ロー対ウェイド」判決を覆す判断に賛成。このうち3人は、ドナルド・トランプ前大統領の在任中に指名され就任した保守派の判事だ。

アメリカでは、中絶反対派と擁護派の分断が深まっている。

判決当日、最高裁判所前には1000人以上が集まり、中絶反対派と擁護派で小競り合いになる場面も見られた。

中絶の権利をめぐる議論は、反対派の「プロ・ライフ」と擁護派の「プロ・チョイス」に分かれる。

「プロ・ライフ」とは「命を優先する」という主張で、共和党支持者のキリスト教保守派に多い。

キリスト教でもプロテスタント福音派やカトリックなどの熱心な信者には、中絶に反対する人が多い。プロ・ライフの人々は、人間の生命は受精の瞬間に誕生しているとみなし、「中絶は殺人」という立場を取る。

これに対し「プロ・チョイス」は、女性(母体)の選択権を重視する考え方だ。民主党支持者のリベラル派に多い。

自分の体に関する決断は自分で下すべき、人生を大きく変えることになる出産や中絶は、自分自身が決める権利を持つべきだという視点だ。「中絶の権利は人権」と主張し、今回の最高裁判決に抗議している。

カトリックなど中絶を認めない宗派にも、現代の市民的権利としてプロ・チョイスを支持する信者はいる。例えばペロシ下院議長(民主党)はカトリックだが、プロ・チョイスの立場だ。必ずしも、宗派で支持、不支持が一色に染まっているわけではない。

ドブス事件判決を受け、アメリカ政界の中絶擁護派、反対派から、次のような声が上がっている。

中絶擁護派:ジョー・バイデン大統領

「間違ってはいけない。今日の判決は、法のバランスを崩そうという、数十年にわたる意図的な努力の集大成になってしまった」

Make no mistake: Today's overruling of Roe v. Wade is the culmination of a deliberate effort over decades to upset the balance of our law. It’s a realization of an extreme ideology and a tragic error by the Supreme Court.

Twitter: @POTUS

「これは極端なイデオロギーの現実化、最高裁による悲劇的な過ちだ」

「ロー対ウェイド判決は、プライバシーに関する基本的な権利を認めていた」

Roe recognized the fundamental right to privacy that has served as the basis for so many more rights that are ingrained in the fabric of this country. The right to make the best decisions for your health, the right to use birth control, the right to marry the person you love.

Twitter: @POTUS

「健康のため最善の決断をする権利、避妊の権利、愛する人と結婚する権利など、この国に根付く多くの権利の基礎になっていた」

中絶反対派:マイク・ペンス元副大統領

「今日、生命が勝利した」

Today, Life Won. By overturning Roe v. Wade, the Supreme Court of the United States has given the American people a new beginning for life and I commend the Justices in the majority for having the courage of their convictions.

Twitter: @Mike_Pence

「最高裁判所は、ロー対ウェイド裁判を覆すことで、アメリカ国民に新たな生命の始まりを与えた」

「(賛成した)多数派の判事たちの、信念に対する勇気ある行動を称賛したい」

中絶擁護派:バラク・オバマ元大統領

「最高裁は、50年近くにわたる判例を覆しただけでなく、人が下すことのできる最も個人的な決断を政治家やイデオロギーの気まぐれに委ね、何百万人ものアメリカ国民の本質的な自由を攻撃した」

Today, the Supreme Court not only reversed nearly 50 years of precedent, it relegated the most intensely personal decision someone can make to the whims of politicians and ideologues—attacking the essential freedoms of millions of Americans.

Twitter: @BarackObama

中絶反対派:ミッチ・マコーネル上院院内総務

「ドブス事件の最高裁の画期的な判決は、勇気ある正しいもの。合衆国憲法と社会的弱者のための、歴史的勝利だ」

The Supreme Court’s landmark ruling in Dobbs is courageous and correct. This is an historic victory for the Constitution and for the most vulnerable in our society. My full statement: https://t.co/oPTzOYOeAU

Twitter: @LeaderMcConnell

中絶擁護派:ナンシー・ペロシ下院議長

「共和党が支配する最高裁は、生殖に関する健康上の決定権を女性から奪うという、共和党の暗く極端な目標を達成した」

Today, the Republican-controlled Supreme Court has achieved the GOP’s dark and extreme goal of ripping away women’s right to make their own reproductive health decisions.

Twitter: @SpeakerPelosi

中絶反対派:マイク・シンプソン下院議員

「今回の歴史的な判決で、最高裁は人間の生命を保護する州の権利を認めた」

I released the following statement regarding the Supreme Courts decision to overturn Roe v. Wade.

Twitter: @CongMikeSimpson

「これは正しい判断であり、ロー対ウェイド事件は政治的判断として間違っており合憲ではないという私の長年の主張を最高裁が肯定してくれたことを、嬉しく思っている」

「憲法上、中絶の権利はない。最高裁がやっとそのことを認めてくれて安心している」

中絶擁護派:アレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員

「ロー対ウェイド判決を覆し、中絶を違法化しても、中絶はなくならない」

Overturning Roe and outlawing abortions will never make them go away. It only makes them more dangerous, especially for the poor + marginalized. People will die because of this decision. And we will never stop until abortion rights are restored in the United States of America.

Twitter: @AOC

「特に貧しい人々や疎外された人々にとって、(人工妊娠中絶手術が)より危険なものになるだけだ」

「この判決で、人々が命を落とすだろう。アメリカで中絶の権利が戻るまで、私たちは決して立ち止まらない」