2019年3月にニュージーランド南島クライストチャーチの2つのモスクで起きた銃乱射事件で、地元裁判所は8月27日、オーストラリア人のブレントン・タラント被告(29)に対し、51人を殺害したとして、殺人罪などで仮釈放なしの終身刑を言い渡した。
死刑制度がないニュージーランドで、仮釈放のない終身刑の判決が出たのは、ニュージーランドでは初だ。
事件が起きたのは2019年3月15日の現地時間午後1時過ぎ。武装したタラント被告が、礼拝中のモスクを襲撃した。タラント被告は事件当時、犯行の様子をフェイスブックでライブ配信していた。


4日間におよんだ判決公判の2日目、意見陳述のため遺族や生存者らが出廷した。陳述中、タラント被告は終始無表情だったが、数回笑みを浮かべた。
被告を前にして、遺族は何を語ったのか。
「私は強い。あなたはただ、私をさらに強くした」

父親を失ったアハド・ナビさんは、体をタラント被告に向け、次のように話した。
「あなたは私の父を傷つけましたが、私から父を奪うのは不可能です」
「あなたの行為は、臆病な人間がやることです」
「私は、あなたがしたことを許せません。刑務所にいる間、あなたは『地獄にいる』という現実に直面するでしょう。あなたを待ち受けるのは、炎のみです」
「私は強い。あなたはただ、私をさらに強くした」
「私は、息子を愛しています。私の天使です」

タラント被告を「人間ではない」「動物ですらない」と糾弾する人がいた一方で、14歳の息子を失ったジョン・ミルンさんは被告を「許す」と語った。
「私はもう、あなたのことを許しています。例えあなたが、私の14歳の息子サイヤードの命を奪っていても」
「私は、息子を愛しています。私の天使です」と、息子の写真を掲げた。
「この涙は、あなたのためではありません」
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サラ・カセムさんの意見陳述(英語)。
サラ・カセムさんは、事件で最愛の父親を亡くした。
「私の父、皆に愛されていたアブデルファタフ・カセムは…」と言いかけ、タラント被告に向かって「彼の名前を聞きなさい」と告げた。
「父は苦しんだのか、怯えていたのか、最後に何を考えたのか。何よりも私は、父の手を握って『大丈夫だからね』と伝えたかった。でも、できませんでした」
「私の両親が、安全と子どもの輝かしい未来を願って移り住んできたこの国で、こんな結果になるとは想像もしていませんでした」
「父ともっと旅行をしたかった。父が庭で作る料理の香り、父のコロンの香りが恋しいです」と涙を流した後、タラント被告を見て「この涙は、あなたのためではありません」と述べた。
「テロリスト(という分類)に、宗教や人種、肌の色は関係ありません」
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ミルワイス・ワジーリさんの意見陳述(英語)。
ミルワイス・ワジールさんは、事件を生き延びた負傷者の一人だ。タラント被告の顔を見て「彼は何も後悔していないようだ」と言い、台本を置いた。
「用意してきた陳述書を読むのはやめます。代わりに、あなた(タラント被告)に感謝したい」
「というのも、ニュージーランドで生活してきたこの17年間、アフガニスタン出身だからという理由で、悪意からかジョークか、私のことを『テロリスト』と呼ぶ人もいました」
「今この場では、あなた(タラント被告)がテロリストです。私が、そして私たちムスリムがテロリストではないと、あなたは世界に証明しました」
ワジーリさんがそう言うと、法定からは拍手が起きた。
「ニュージーランドの人々に言いたい。テロリスト(という分類)に、宗教や人種、肌の色は関係ありません」