死刑判決がもたらす死の苦痛 死刑囚は「拷問」を避けて電気椅子に座る

    BuzzFeed Newsは、テネシー州が所有する死刑執行用の電気椅子に関する資料を入手した。1985年に設置されて以来、これまでに1度しか使われたことのないその椅子にいま、注目が集まっている。

    テネシー州の死刑囚エドモンド・ザゴースキー(62歳)は、死刑執行時に使われる薬物注射は「拷問」であると考えている。そこで、薬物が使われることのないよう、執行方法を自分で選びたいと訴えを起こしていた。そしてザゴースキーはこのほど勝訴した。連邦裁判所判事は2018年10月11日(現地時間)、ザゴースキーが死刑に処されるときは、電気椅子を使用しなければならないという判決を下したのだ。

    判決が守られれば、テネシー州では2007年以来初めて、電気椅子によって死刑が執行されることになる。アメリカ全体では2013年以来だ。

    テネシー州のビル・ハズラム知事は10月11日、「問題なく慎重に刑が執行されるよう、関係者全員に必要な時間を与える」ため、ザゴースキーの刑執行まで10日間の猶予を与えた。電気椅子で感電死するのはまさに恐怖だが、薬物注射よりも確実に死ぬことができる。電気椅子による死刑執行は、1990年代までアメリカ全体で一般的だった。しかし、野蛮すぎるうえに、立会人にはとりわけ酷だと懸念され、薬物注射が主な方法として全米で採用されるようになった。いまでも9つの州では電気椅子の使用が認められているが、ここ10年では、バージニア州とサウスカロライナ州だけでしか使われていない。

    BuzzFeed Newsは、テネシー州の電気椅子に関する資料を入手した。そのなかには、製造者がテネシー州に対して現在の電気椅子を売り込んだ際の提案が含まれている。製造したのは、フレッド・ロイヒター・ジュニアというホロコースト否定論者で、自分は技術者だと職業を詐称していた人物だ。

    また資料からは、椅子を製造してから数十年後に、椅子を使うのは心配だとロイヒターが語っていたこともわかった。別の人物が改造を施したことで、電気椅子は「拷問の道具」になってしまったと懸念していたのだ。同氏は現在もその考えを変えていない。

    ロイヒターは、電気椅子を設置してから数十年後に、椅子の作動設定が変更されたことについて疑問を投げかけていた。そしてBuzzFeed Newsに対し、「(その電気椅子は)もう廃棄すべきです」と述べた。「不具合があることが世間に知れ渡って、大きな騒ぎになります」

    その電気椅子が設置されてから少なくとも1回は、人間を感電死させるのに適した電流と電圧の強さについて、専門家が異議を唱えていた。BuzzFeed Newsが入手した資料には、椅子を作動させる際のチェックリストが複数含まれており、1つのバージョンの末尾には「換気扇を回したままにすること!!!」という指示が書かれていた。

    この電気椅子で死ぬことを望んでいるのが、死刑囚のザゴースキーだ。彼は1983年4月に2人の男性を殺害し、有罪となった。被害者はジョン・ドットソンとジミー・ポーターという男性2人で、ザゴースキーは彼らを、大麻を100ポンド(約45kg)以上買えると偽ってテネシー州北部の森に誘い込んだ。そして、2人を銃で撃ってから喉をかき切り、彼らが購入代金として持参していた数千ドルを奪ったのだ。その1年後、ザゴースキーには死刑判決が下った。

    死刑制度を継続している30州のうち21州では、電気椅子による死刑執行を選択することはできない。その21州のうち、「電気椅子の使用は残酷であり憲法に違反する」と明確に判断が下されているのは2州だ。たとえば、ジョージア州では州最高裁判所が、交流電流は「脳を繰り返し活性化し、耐え難い痛みときわめて強い恐怖心を引き起こす可能性がある」という専門家の提言を引用し、電気椅子の使用を禁止する判断を下した。専門家はその際、刑執行で行われる電源の投入と遮断のパターンによって心臓は停止するが、再び動き出す可能性があるとも述べていた。

    もうひとつのネブラスカ州でも、裁判所が電気椅子の使用は違憲だと判断している。その際、電気椅子によって死刑囚の「皮膚の温度は摂氏93度くらいまで」上昇するという専門家の証言が引き合いに出された。また、刑執行時には消火器を近くに用意しておかなければならないと手順で決められていることや、刑執行に立ち会った経験を持つ人たちが、死刑囚の脚から煙が立ち上り、自分たちがいた部屋で人肉の焼ける臭いがしたと語ったことも挙げられた。

    ジョージア州とネブラスカ州いずれの判決でも、「頭皮の大部分がはがれ落ちる」ことや、「こめかみや耳の後ろあたりの皮膚が垂れ下がる」ことで頭部が焼ける可能性が示唆された。

    このように、電気椅子による死刑執行は、凄惨な事態につながりかねない。とはいえ、失敗率は薬物注射のほうが高い。テネシー州も他州と同じく、3種類の薬物を注射する方法を採用している。はじめに打たれるのは、精神安定剤に似た鎮静剤だ。続いて、激しい痛みを伴う2種類の薬物、筋弛緩剤と塩化カリウムが打たれる。医療専門家によれば、1つめの鎮静剤がうまく効いていないと、2つめ3つめの薬物を打たれたあとに死刑囚は、生き埋めにされたうえに生きたまま焼かれるような感覚を長い時間味わう可能性があるという。テネシー州が使用しようとしている鎮静剤のミダゾラムは、ここ数年に発生した薬物注射による死刑執行の失敗例に関係していた。

    ザゴースキーは、十数名の死刑囚とともに、薬物による死刑執行は残酷かつ異常な刑罰に相当するとしてテネシー州を訴えた。ところが、テネシー州最高裁判所はザゴースキーの死刑執行予定日3日前の2018年10月8日に、彼らの主張を認めないという判断を下した。死刑囚たちがより良い死に方を提案していないのがその理由だった。死刑囚らはほかの薬物を使った方法を提案していたものの、州側はその薬物の入手は不可能としていたのだ。

    主張が却下されてから数時間のうちに、ザゴースキーは電気椅子で刑を執行してほしいという要望を提出した。薬物注射による方法は拷問であると考え、それを回避したいというものだった。テネシー州では、1999年以前に死刑判決を受けた人間は、電気椅子か薬物注射かのいずれかを選択できることになっている。

    ところがテネシー州更生局は、ザゴースキーの要望を却下し、選択は9月27日までに行われなければならなかったと主張した。同局の副局長で主席顧問でもあるデブラ・イングリスはザゴースキーの弁護士に対し、薬物注射によって刑を執行すると通告した。

    そこでザゴースキーの弁護士は10月10日、依頼人の要望を検討することを強制するための緊急申し立てを提出。州が設定した執行方法の選択期日は無作為のものであり、法では規定されていないと主張した。その翌日の11日、連邦裁判所判事はザゴースキーに有利な判断を下し、電気椅子以外の方法によるザゴースキーの刑執行を禁じた。

    しかし、ザゴースキーの刑執行は保留されたままだ。連邦判事が11日に判断を下したあと、第6連邦巡回区控訴裁判所が、ザゴースキーは1984年の殺人事件の裁判で十分な弁護を受けていなかった可能性があるとして、執行を延期したのだ。

    ザゴースキーの弁護士ケリー・ヘンリーはメールによる声明で、「テネシー州の死刑に関する法律には、ザゴースキー氏が電気椅子による執行を選ぶ権利があると明記されている」と述べた。「生きたまま電気で焼かれ、体がずたずたになるのは良い死にかたではない。しかしザゴースキー氏は、電気椅子のほうが、ミダゾラムと筋肉弛緩剤、塩化カリウムを注射されるよりもずっと早く死ねると知っている」

    BuzzFeed Newsはテネシー州更生局に対し、電気椅子を使った死刑執行の取り決めやマニュアル、3カ月ごとに行われる設備点検の報告書や、関連する記録について問い合わせた。それらの資料から、同州に現在設置されている電気椅子は、先述したロイヒターが製造したことが明らかになった。

    ロイヒターはマサチューセッツ州在住で、無資格でありながら電気椅子の製造・設置を請け負い、のちに詐欺容疑で起訴された人物だ。さらには、ホロコーストのガス室を処刑のために利用するのは不可能だったことを論じた報告書を作成した人物でもある。

    ロイヒターはホロコースト否定論者だと言われてきた。しかし本人は、それは評判を傷つけるために使われている呼び名だと主張し、BuzzFeed Newsに対してこう述べた。「私は何も否定していません。起きていない出来事を否定することはできません」。詐欺容疑について尋ねたところ、その件はすでに和解しており、大学ではエンジニアではなく歴史を専攻したが、自分には「十分な資格がある」としている。

    ロイヒターは十数州で、電気椅子にとどまらず、さまざまな種類の死刑執行装置について助言を行っていた。しかし1990年になるころには、ロイヒターの装置が死刑執行に不適切であると人々が気づき始めたと、当時の『ニューヨーク・タイムズ』紙が伝えている。イリノイ州更生局は、シアン化カリウム(青酸カリウム)を注射するための機械は、「ひどく焼かれるような感覚を伴う不必要な痛みを死刑囚にもたらす」という専門家の証言を受けて、ロイヒターとの契約を終了した。

    入手資料を見ると、ロイヒターが1985年から、電気椅子の利点についてテネシー州刑務所とやりとりを始めたことがわかる。1987年10月にロイヒターが刑務所長に送った電気椅子の見積もりには、自分の会社が製造した「電気処刑や薬物注射用の機械、ガス室、絞首台」は、多くの州で導入されていると書かれている。

    ロイヒターは1989年11月、テネシー州にある最高警備レベルのリバーベンド刑務所に、電気処刑用システムの設置を完了した。発注は1989年6月付けで、発注先はフレッド・A・ロイヒター・アソシエーツ(Fred A Leuchter Associates Inc)。

    「電子機器の搬送、改装、修理」の名目で、人件費と材料費を含めて4万1844ドルが支払われたようだ。テネシー州は併せて、「モジュラー動力供給テスト装置(modular power supply test unit)」を5900ドルで購入していた。

    ロイヒターがリバーベンド刑務所にシステムとともに納入したマニュアルでは、電気椅子の仕組みや、刑執行後に死刑囚を椅子から外す方法、椅子の清掃方法が詳しく説明されている。

    そのマニュアルによると、椅子本体はオーク製だ。ロイヒターによると、テネシー州が初めて導入した電気椅子に使われていた木材が再利用されているという。また、調整可能な背もたれと、液体の受け皿がついている。

    電極は3つあり、足首にはめる真鍮製のもの2つと、頭にかぶせる「ぴったりとフィットするキャップ」によって、電流が確実に「死刑囚の胴体を隅から隅まで通り抜ける」ようになっている。

    マニュアルにはまた、医学的な記述もある。最適な成果を得るためには、「意識と自律神経系」の両方を考慮しなければならないという説明書きがあった。また、「体重70kgの平均的な体格の男性」の心臓を停止すると同時に「体の損傷(過熱状態)を最小限に抑える」ために適切な電圧量はどのくらいかを算出する計算式も記されている。マニュアルの1つのバージョンには、会社側は「当機械の意図した使用または実際の使用について、いっさいの責任を負わない」という免責事項も含まれていた

    ロイヒターは、従業員19名を訓練し、免状まで自作して、「電気処刑技術者」と名乗らせていたようだ。

    入手資料からは、死亡させることを目的に人体に電流を流すうえでもっとも人道的な方法は何かという点で、専門家が大きく異なる意見を持っていたことがわかる。

    1994年4月、外部専門家が訴訟手続きの一環としてリバーベンド刑務所を訪問し、死刑執行用の設備を視察した。そして、州検事総長に宛てた報告書に、普段の執行時に使われている電流は低すぎであり、機械は「死刑執行のための一般的な負荷ではうまく機能しないと思われる」と記した。

    そこでリバーベンド刑務所は、アーカンソー州の技術者ジェイ・ヴィーヘルトを雇い、刑執行時に流れる電流の量を増やしたり、電気を流すサイクルを変えたりするなど、椅子の作動設定を変更した。

    しかしロイヒター側は、そうした変更に異議を唱えた。

    ロイヒターの設計と技術の権利を取得した企業JVMのジョン・V・メイ会長は1996年4月、リバーベンド刑務所の副所長に宛てて、「設定をそのように変更すれば、死刑囚の『身体組織が過熱』されかねない。また、心臓が細動を起こすことで刑の執行が失敗に終わり、脳死状態に陥る可能性がある」と記した書面を送付した。

    メイ会長は、機械の設定変更、とりわけサイクルの変更について「危険」であるとし、変更を加えると、JVMが取得したロイヒターの会社による保証は無効になると述べた

    「当社はこの件について法的責任を負わないものとする。変更が施された機械を使用して死刑執行が行われれば、死刑囚を苦しめる可能性があると言わざるを得ない」

    ロイヒター自身は、変更を加えた技術者のヴィーヘルトは、死刑囚に対して、犯した罪に対する罰を与えようとしたのではないかと考えている。「ヴィーヘルトは、罪を犯した死刑囚は苦しむべきだと考え、機械が苦痛を引き起こすよう、意図的に変更を加えたのだと思います」と述べた(ヴィーヘルトは2016年に亡くなっている)。

    リバーベンド刑務所のリッキー・ベル所長は、JVMのメイ会長から1996年4月に書面を受け取ると、9月に返事を出し、「システムが予定どおりに機能しないことを示す根拠、さらにはヴィーヘルトが推奨した変更に対する反証を述べた」書面を提出するよう求めた(ベル所長は2006年のメモで、JVMから書面は届かなかったと書いている)。

    ヴィーヘルトは少なくとも2007年まで、リバーベンド刑務所を訪れて機械の点検を行った。2007年は、殺人罪で有罪判決を受けたダリル・ホルトンの死刑執行を行うために、この椅子が初めて使われた年だ。

    ホルトンの死刑が執行される前日、ロイヒターはテネシー州地元紙『シティ・ペーパー』に対し、電気椅子が正常に機能するか不安だと語った。電圧が低すぎて致命的とならず、死刑囚が脳死状態になるのではないかというのだ。伝えられるところによると、ロイヒターは元テネシー州知事のフィル・ブレデセンに、椅子の使用を中止するよう申し立てたという。

    しかし、ホルトンの死刑執行は完了した。電流は2度流され、彼の体はそのたびに硬直してのけぞったという

    その椅子で死を迎える人間はザゴースキーでやっと2人めだ。彼は先ごろ、地元メディア『ナッシュビル・シーン』に対して、「薬物を注射されるという拷問を受けたくない」と述べた。「しかし、自分は死を恐れてはいない」



    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:遠藤康子/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan