ポルノ撮影の現場をおさめた写真展『It’s Just Love』が開催中だ。フランス人写真家のソフィ・エブラード氏が4年間にわたりポルノ映画の監督に密着して撮影した。

一連の作品はポルノ業界における個人の人間性に光を当てる。撮影の前後に見られる出演者たちの表情はすごく自然で、日常風景そのものだ。考え込んだり、アイロンをかけたり、笑いあったりする。
なぜポルノ産業をテーマにした個展を開こうと思ったのか。BuzzFeedは来日中の写真家ソフィ・エブラード氏に聞いた。

——タブー視されがちなポルノ産業を切り取る意図はなんでしょうか。
そもそもは決まった考えがあってポルノ業界を扱ってみたい、という意図はありませんでした。むしろ偶然が重なり、幸運にも私の知っている世界とは遠く離れたポルノ業界へと足を踏み入れることができました。
通常、ポルノ業界は知り合いがいるなどツテがない限りアクセスできない閉ざされた世界です。
そして、多くの人がポルノにある種のイメージを抱くのと同じように、私自身も現場に着くまでは、ある種の既成概念を持っていました。でも、実際には想像していたものとはまったく違う世界を発見しました。
ポルノの撮影現場ではみんなお互いにとてもリスペクトし合っていたし、仕事に情熱を持っていた。私はそこに美しさを感じたんです。

そして、初めての撮影が終わった後に、このプロジェクトをこのまま続け、この世界についてもっと知りたいと思いました。
『It’s Just Love』で私が捉えたものは、ポルノの現場も実際には他のどんな業界とも変わらない一業界であるに過ぎず、本当にただ“愛がある”ということだけなんです。
これは単なる写真の展示ではない
——日本で今回の展示はどのように受け止められると思いますか。
私は日本という国にずっと惹かれていて、いつか訪れてみたいと願っていました。ただこの展覧会の機会がやってくるまでそのタイミングは巡ってこなかったのです。
日本では『It’s Just Love』のイメージをこれまで公開していません。日本でどのような反応があるか、作品を目にした人たちがどんな捉え方をするのか、とても興味があり、楽しみにしています。
この展覧会は単なる写真の展示ではありません。私の創り出す世界、そして私自身のナイーヴな視点を通して見たポルノの世界へと浸る体験です。
だからこそ、最初から、展覧会を真っさらで無機質な空間で展示したくはありませんでした。どのような形にしろ、みんなにショックを与えたくはないし、作品を見てくれる人たちが安心して、どんな年齢や背景の友人も誘えるような個展にしたかったんです。
そこで、ロンドン在住のスウェーデン人のアートディレクター、ジーナ・ゲーガンと一緒に、アムステルダムの私のマンションで開催した初個展と同じ空間デザインを作り上げました。結果、どんな展示スペースよりも親密で個人的なあたたかい作品展示になったと思います。
『It’s Just Love』の写真はポルノ業界で働く人たちの人間的な部分を取り上げていて、時にはおかしな部分もあったりします。でも私は日本の人たちがこの要素を気に入ってくれると思っています。
これらの写真にエロティックな印象はありませんし、荒木経惟氏の作品がそうであるように、実際、性的な満足感みたいなものはほとんどありません。それはポルノに抱くイメージとは違うユニークなものだと言えます。

捉え方次第でポルノは美しくある
——展示によって日本の人たちに対してどのようなメッセージを届けたいですか。
このプロジェクトでは、レンズの前にいる個々人の人間性を引きだすことで、このビジネスのより軽やかな面を見せたいと思っていました。
仕事を通して生まれる職業意識がつなぐ、そこに集う人たちのやり取り、ふれあい、楽しみながら働く姿は他の職業人と何ら変わりありません。
『It’s Just Love』はポルノについて意見する作品ではありません。私は、純粋に作られ方や捉え方次第でポルノは美しくある、ということを伝えたいだけなんです。
ポルノグラフィーは世界で最も大きく収益性の高いマーケットであるということに驚いています。けれども、業界とその作品は依然として批判にさらされ、タブーもあります。
それでもなぜか不思議なことに、ポルノは道徳的な対立をすっかり通り越しているんです。ポルノの世界では、そこで行われることについては完全に自由、オープンで、見る人がどう受け止めようと、良し悪しは別に、常に新しい何かが生み出されているのです。
性教育とポルノ、その課題とは
——正しい性知識を身につける「性教育」という観点において、この展示はどんな役割を果たすでしょうか。
セックスは日本ではタブーな話題であることを理解しています。少なくとも両親とオープンに話すようなことではないですよね。
ヨーロッパでは若い人たちがポルノを見てセックスする方法を学んだりすることがあります。
しかし、それは男性支配的な市場であり、恋愛関係にある2人がお互いを愛し合うときに実際に起こることを必ずしも反映しているとは限りません。
その結果、若い女の子たちは、ポルノ映画で女性がするように「演技する」必要があると考えたりします。でもそれって少し間違っていると思うんです。
私はこの展覧会が、ポルノを違った方法で考え直すきっかけとなれるなら、そこがスタート地点かなと思います。この作品シリーズで、人間性や人と人とのつながり、そこにあるお互いに対する敬意という面を見せられることを願っています。
『It’s Just Love』というタイトルは、つくられ方や捉え方次第で、ポルノは美しくなり、その制作過程には多くの愛が起こり得るという気づきからつけました。
ソフィ・エブラード氏の個展『It's Just Love』は5月7日まで京都のFRANK WORK STUDIOで開催される。入場料は500円。
BuzzFeedでは4月17日から23日までの1週間を「性教育週間」(Sex Education Week)として、性にまつわる様々な記事を配信します。誰にとっても他人事ではないけれど、どこか話しづらい「性」。私たちの記事が対話のきっかけになることを願っています。
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