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男性の外見のまま女湯に? トランスジェンダーめぐる言説を当事者や専門家が批判「バッシング、看過できない」

LGBT関連の法案が国会で議論される中、トランスジェンダーバッシングと解される言説が流布しているとして批判の声が高まっています。当事者や専門家、LGBT議連事務局長に取材して検証しました。

生まれ持った生物学的な性別に違和感がある「トランスジェンダー」。

WHO(世界保健機関)は「性同一性障害」を「精神疾患」の疾病分類から外すことを決め、生きづらさ解消を求める声が高まる中、政治の世界でも与野党から対策法案が出され、議論が始まっている。

Taa22 / Getty Images

トランスジェンダーバッシングと解される言説が蔓延っている

一方、こうした動きへの反発も目立ち、「自称トランスジェンダーが男性器がついたまま温泉や女性用トイレなどを使い混乱する」といった言説も繰り返されている。

そんな中、元参議院議員、松浦大悟氏が4月23日に発表した論考「国会で性別の定義変更の議論が始まろうとしている」も同様の主張を展開。当事者や専門家から「トランスヘイトを助長する」と批判の声が上がる。

BuzzFeed Japan Medicalは、当事者や弁護士、GID(性同一性障害)学会理事長、LGBT議連事務局長に取材し、こうした言説を検証した。

トランスジェンダーを含むLGBTの権利を保障する法整備の動き

日本で2003年に作られた「性同一性障害特例法」は、生まれ持った生物学的な性別に違和感を抱く人に、身体変更や生殖腺切除などを要件として戸籍の性別変更を可能とする法律だ。

WHOは2018年6月「国際疾病分類」の最新バージョン(ICD-11)を公表し、性同一性障害を「精神疾患」の分類から外すことを決めた(2022年に発効)。代わりに「Gender incongruence(性別不合)」という項目が設けられた。

これを受けて日本学術会議は、提言「性的マイノリティの権利保障をめざして(Ⅱ)―トランスジェンダーの尊厳を保障するための法整備に向けてー」を2020年9月23日に出した。

  1. 精神疾患としての診断・治療に基づく「性同一性障害者特例法」に代わり、本人の性自認に基づく性別変更手続のための新法
  2. トランスジェンダーを含む性的マイノリティの人権が侵害されることがないよう、性的マイノリティの権利保障法
  3. 包括的な差別禁止法

という3点を求めている。

国内でもトランスジェンダーを含むLGBTの生きづらさ解消を求める声が高まる中、政治の世界でも自民党から「LGBT理解増進法」、野党から「LGBT差別解消法」が出された。

超党派の「LGBTに関する課題を考える議連」(馳浩会長、谷合正明事務局長)ですり合わせの議論も始まっている。

一方、トランスジェンダーの権利保障をめぐっては反発が根強くあり、「女湯や女子トイレに男性器がついた人が入るのを止められなくなる」「女子スポーツにトランスジェンダーが参入することで、公正な競争が成り立たなくなる」といった批判が度々なされてきた。

「性自認」は自己申告? 男性器のついたトランス女性が入ってくる?

そのような流れの中で、松浦氏が4月23日にアゴラに寄せた論考は、国会で始まっている議論について、「左派のLGBT団体」の主張は危険だとして批判する形を取る。

アゴラ

松浦大悟氏がアゴラに出した論考「国会で性別の定義変更の議論が始まろうとしている」

具体的には「Gender Identity」の翻訳である「性同一性」「性自認」という日本語のうち、「左派のLGBT団体は『性同一性』ではなく『性自認』という用語を採用してほしいと、いま必死に議員会館をロビーイングしている」と指摘する。

そして、「性同一性」という言葉は自己の性別に統一性、一貫性、持続性が求められる上、社会からどう見えているかが肝要であるとする一方、

「性自認」という言葉には「アイデンティティの意味が反映されないので、時間軸も社会軸も関係なく『自分の性別は自分で決める』という思想が侵入するようになっていった」と主張。

「自己申告で性別の変更ができるようにするためには性自認という言葉の方が都合がよい」という独自の解釈を示した上で、

「手術要件をなくしてしまえばほぼ要求が通ってしまうことは容易に想像がつく」と「性自認」という言葉と手術要件の議論を結びつけ、

海外では男性器のついたトランス女性が女性専用シャワールームに入ってきたり、女性刑務所で性暴力を繰り返したりというトラブルが後を絶たず、性別適合手術をしていないトランス女性が女子スポーツに出場して不公平が訴えられていると主張する。

さらに、「日本で考えなくてはならないのは温泉や銭湯の問題」だとし、「たとえ男性器がついていようとも、法的に女性となった人を女湯から排除することは差別になる」と、トラブルを防ぐことができない状態になると懸念を示す。

自民党の「性的指向・性自認に関する特命委員会」アドバイザーとなっている活動家も、勉強会などで同様の主張を繰り広げている。

トランスジェンダー当事者の一人は、「この活動家は、『私が女ですといえば、女なんです。そして女湯に入っても問題ないでしょう、となってしまう』『女性を危険にさらす』と言って、自称トランスが女性に性暴力を働くかのような言動を繰り返しています。この活動家の影響を受けて、リベラル批判にトランスの問題を利用しようとしている人がいる」と影響の広がりを心配する。

「性同一性、性自認、どちらも意味は同じ」

それでは実際に、彼らが主張するような問題は生じ得るのだろうか?

まず、「性自認」「性同一性」という用語について、BuzzFeed Japan Medicalが当事者や弁護士、支援者、医師を取材したところ、「いずれもgender identityの和訳で同じ意味」と認識している人ばかりだった。

その上で、どの用語を採用すべきかという意見も様々で、一枚岩ではない。

自身もトランス女性で、弁護士の仲岡しゅん氏は、「むしろ『性同一性』の方が誤解を招かなくていい」と主張する。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

「誰がそういう主張をしているのか主語を明確にして論考を書いてほしい」と話す仲岡さん

「『性自認』も『性同一性』も表現のしかたの違いであって、本質的な違いはありません。もっとも、『性自認』と言うと、一時的な自称も含まれるかのように誤解する人もいるので、時間的・社会的な同一性、一貫性というニュアンスが表れる『性同一性』という表現のほうが望ましいと考えます」

LGBTの子ども・若者支援に関わるトランス男性の遠藤まめた氏は「どちらの和訳も同じ内容を指しており、実社会ではどちらも使われています。条例などに『性自認』が使われているので、この言葉を残したいと主張している団体もありますが、自称すれば性別を決められるようにする目的で『性自認』という言葉への統一を求める主張は聞いたことがない」と話す。

LGBT差別禁止法の制定を求めている「LGBT法連合会」は4月2日、医学界や行政などでの用語の使われ方を調査した結果、「どの分野でも『性自認』で定着していることが改めて確認され、医学の識者からも『性自認』の方が良いとも指摘されている」として、法制化は「性自認」の言葉を使うことが妥当という考え方を公表している。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

どちらも同じ意味だが、既に自治体や医療界でも定着している「性自認」という言葉を法制化では使うのが妥当と主張しているLGBT方連合会事務局長の神谷悠一さん

実際に自治体の条例では「性自認」を使うことが多く、「性同一性」という言葉を単体で使う自治体はない。医学や助産学の教育テキスト、公認心理士試験などでも「性自認」が既に使われているという公的な場面での広がりを重く見ている立場だ。

同会事務局長の神谷悠一さんは、こう話す。

「昨年末頃から『性自認という言葉では、朝は男で、昼は女で、夜は男という勝手な自称が成り立つ』という主張も聞かれますが、いずれもジェンダーアイデンティティの和訳で意味に違いがあるという主張はおかしい。性自認は、自分の気分で性別を変えられるという概念ではありません」

GID学会理事長、LGBT法連合会「意味は同じだが性自認が望ましい」

性別適合手術や診断にも関わるGID(性同一性障害)学会理事長の中塚幹也氏も、「性自認」と「性同一性」の指す内容に違いはないと語る。中塚氏自身、普段の診療や講演でも両方使っている。

「確かに『gender identity』をどう日本語に訳すかは議論のあるところですが、それぞれの言葉が指す意味は変わりません。いろんな説を唱える人はいますが、『性自認』も『その時点での自称』というような軽いものではありません」

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

GID学会理事長の中塚幹也さん

一方で、gender Identityは生涯揺るぎないものではないことに注意が必要だとも指摘する。

「『性同一性』だったら一生変わらないし、他人から見てもその性別に一致しているものと主張する人もいますが、医学的に言うと『gender identity』は、『性同一性』と訳すか『性自認』と訳すかはともかく、絶対変わらないものではないし変わり得ます。一生のうちに揺れる人はいくらでもいます」

ただ手術を考える場合、性別が手術後に変わると困るのは確かだ。

「だから、不可逆的な手術はよく考えてから行いましょうというだけのことです。今本当に手術しても大丈夫なのかということは医師や心理士、外部の委員などからなる適応判定会議を開いて慎重に協議します。診断に迷わないとしても、今手術して大丈夫な状況かどうかも含めてよくよく考えて判断するものです」

「手術はその認識が変わらないであろうという人を慎重に選んで行います。その人の認識が揺れていない場合でも、適合手術を受けることでその人が不利益を受ける可能性があればそれも十分話し合います」

また、手術でなるべく体を傷つけたくない、お金がないなどの理由で手術を避ける人もいる。ホルモン療法で生理が止まっていれば子宮や卵巣を取らなくても我慢できるという人もいる。

「様々な理由で手術や治療を受けない人はいますし、治療中の人もいます。ただし、『見た目のことでトラブルに遭いたくない』という人がほとんどです。子宮や卵巣を取らなくても、海水浴に海パンで行きたいからと乳房だけ取る人もいます」

松浦氏の論考では、中塚氏について「精神科医は当事者から『門番』と疎まれており、GID学会では医師である理事長の解任動議が何度も出されている」と触れている。つまり、当事者の中には医療中心的なGID学会を好ましく思わない人がいる、という主張だ。

「私は産婦人科医ですが、医師が手術で体を変える人だけを優先しているかのように受け止める人もいます。見た目にとらわれず、医療を介さなくても自分が思う性別で生きたいという人たちの中にはGID学会は医療に傾いていると受け止める人もいます」

「ただ、学会のホームページでも、私たちは手術しないと戸籍が変えられないのはおかしいと表明しています。学会は手術を必要としないトランスジェンダーの人にも寄り添いたい。私を批判している人たちの声を利用して、結局その人たちを排除しようという意見があるなら、それは私の考えと違います」

「性同一性」という言葉に、短絡的に、身体と心の性の関係の「同一性」、時間経過での「同一性」を求めすぎると誤ったメッセージになると中塚氏は言う。

そして「性同一性障害」という言葉も今後は使用されなくなること、「性同一性」という意味がわかりにくいことなどを考えると、「性の自己認識」つまり「性自認」を使う方が望ましいのではないかという立場を中塚氏は取る。

自称トランスが女湯などに侵入する危険はあるの?

また、「自称トランスが女湯など女性専用の場所に侵入する可能性がある」という懸念は、現実的に見てどうなのだろうか?

トランス女性の弁護士、仲岡しゅん氏はそのような混乱は日本では起きにくいだろうと考える。

「温泉や公衆浴場の問題にしろ、刑務所の問題にしろ、施設管理者の運用の問題です。日本の刑務所は、良くも悪くも極めて保守的で厳格であるため、性別適合手術を経ていないトランス女性や、男性の『なりすまし』を一般女性と同じ房で処遇するという事態は想定し難いです」

「温泉や公衆浴場の場合、不特定多数に裸体をさらす場なので、浴場の管理者としては、特段の承諾などをしていない限り、基本的には身体の外観をベースに振り分けるでしょう」

そして、なりすましが女性専用の場に侵入して女性を襲う危険については、トランスジェンダーの権利保障とは無関係だとして混同する主張を批判する。

「女装した男性が覗き目的で女湯に立ち入るという事件も時折報道されていますが、トランスジェンダーが社会的に認知される以前から発生していた事象であって、トランスの権利擁護とは直接関係のない問題です」

「また、トランスだと『自称』すれば覗き目的での侵入が正当化されるというものでもありません。そもそも多くの一般当事者は、それぞれの状況に応じて、何らかの折り合いを付けながら生活しており、犯罪的事象と混同したり、一部の当事者の問題行動を全体の問題かのように捉えるのは適切ではありません」

トランス男性の遠藤まめた氏も、「むしろトランスジェンダーは、周りにどう見られるかを気にして避けながら生活している人が多い。男性器があってもトランス女性を女湯にいれるべきだと、あたかも当事者や支援団体が主張しているかのように訴えるのは藁人形論法だ」と憤る。

中塚氏も、女性専用の場所に入り性暴力を振るうような人はジェンダークリニックで診ているような当事者にはまずいないと感じている。

「お風呂に男性が入ってきたら、逆に思わず叫ぶような人たちです。なりすましで入る人もいるかもしれませんが、それはトランスジェンダーではなく、シスジェンダー(身体的性別と性自認が一致している人)の痴漢行為なだけです。トランスジェンダーの問題ではありません」

「ジェンダークリニックを受診する当事者の中には、『心は女性ですが治療途中ですし戸籍の性別は女性になっていない。女子トイレに入りたい。でも痴漢と勘違いされたら困る』と持ち歩くために診断書を求める人もいます。多目的トイレしか使わない人や、外ではトイレを我慢する人までいます。むしろ周りからどう見られるかビクビクして暮らしている人が多いのです」

そういう思いで生活しているトランスジェンダーを加害者のように見る言説は、当事者を傷つけ、分断する可能性があり、ずっとトランスジェンダーの生きづらさを診てきた中塚氏は胸が痛む。

「女性装でなりすます痴漢は昔からいるでしょうし、トランスジェンダーの権利擁護と分けて議論すべきです。見分けにくいという主張はあるかもしれませんが、それはトランスジェンダーの人の責任ではありません」

こうした「手術を受けていないトランス女性が招く混乱」への懸念について、「ファクトに基づいて、それぞれの分野でルール作りを進めていくべきだ」と話すのは、LGBT法連合会の神谷氏だ。

「女湯の問題は施設管理者がルールを定めることで解決する問題です。性器が露出している場合、施設として制限するのは差別に当たらないという解釈を示す弁護士もおり、それぞれの施設でルールを明示したり、当事者の意見も聞きながら業界の中でルール作りをするのが望ましいと思います」

さらに、LGBT法連合会は5月4日、「法案作成に関連する動きの中で、一部において、トランスジェンダーに対するバッシングと解される言説が流布されていることに対し、強く憂慮する。法案によりトランスジェンダーバッシングが助長されるようなことが仮にあるとすれば、断じて看過できない」と憂慮する声明を出した。

スポーツ競技 トランスジェンダーが弾かれている現状がある中で

スポーツについては、日本ではトランスジェンダーの人たちは試合出場などから弾かれているのが現状だ。

仲岡氏は、一般レベルとアスリートレベルと分けての議論が必要だと語る。

「一般的に女性ホルモンの長期摂取によって筋力は落ちますし、あるいは二次性徴前の児童の場合、体力に男女差はあまりありませんから、一般人の趣味のレベルでのスポーツ参加は問題ないでしょう」

「他方、アスリートレベルとなると慎重な検討が必要です。そもそも競技スポーツに男女区分があるのは、男女での身体的性差を前提としていますし、実際にIOCがガイドラインでテストステロン値の抑制を基準としているのも、筋力などの男性優位を暗黙の前提としているからでしょう」

「したがって、従前の身体ベースでの男女区分を前提とする以上、トランスの競技者をどのように位置づけるかは必然的に生じる問題なので、その基準の合理性・公平性について議論すること自体は、トランス差別的だとは思いません」

「しかし問題は、少なくとも日本国内では非常に雑な認識に基づいた排除論が目立つということです。例えば競技の性質ごとに基準をもうけるとか、参入は良いけれど特別記録にするなど、様々な可能性も踏まえつつ、各種専門家や当事者を交えての丁寧な議論が図られるべきです」

神谷氏も「議論の上、スポーツ界でルールについて合意を図る努力が必要だ」として、こう訴える。

「体格や骨格、男性ホルモンなどによる有利な条件だけを見るのではなく、そもそも当事者が参加さえできない状況になっているのをどうにかするという視点も必要です。体格や骨格や身長などは、性別による違いだけでなく個体差も激しいものです。様々な条件を事実に基づいて議論し、合意形成することが必要です」

LGBT議連事務局長 「性別の定義変更の議論を始めたことはない」

では、実際に国会で法律を作ろうとし、見直している政治家はどう受け止めているのだろう。

松浦論考で名前も挙げられる超党派のLGBT議連事務局長の谷合正明参議院議員(公明)は、BuzzFeed Japan Medicalの取材に対し、自身のホームページで公式見解「性的マイノリティの方々に対する 不当な差別や偏見はあってはならない」を公表した。

時事通信

LGBT議連の事務局長を務める公明党参議院議員の谷合正明氏

まず、LGBT議連の役員会では「手術要件の見直しをすると決めたことはありません。性別の定義変更の議論を始めたこともありません」と、松浦氏の指摘を否定した。

さらに与野党協議の中で、「Gender Identityの訳として法文上『性自認』を使うのか『性同一性』を使うかを確かに議論しています」と認めた上で、

「公明党性的指向と性自認に関するPT座長として、法律上も『性自認』を使うのが相応しいと考えます」との認識を示した。

その理由として、「これまで国会答弁、行政文書、教科書、自治体条例等では『性自認』を使用しています」とし、2019年3月の参議院予算委員会での総理答弁、厚生労働省委託事業による2020年3月発行の「多様な人材が活躍できる職場環境に関する企業の事例集~性的マイノリティに関する取組事例~」でも「性自認」が使われていることを挙げた。

その上で、「多様なトランスジェンダーの方々への理解の欠如による偏見がうまれないよう、法整備を進めていく所存です」「分断ではなく協調を旨に、与野党の合意形成に粘り強く取り組んでまいります」として、偏見や分断を煽る言説に釘を刺した。

※BuzzFeed Japan Medicalは5月1日、松浦大悟氏に論考に対する批判への考えを問う質問状を送っている。7日正午現在、回答はないが、届き次第、追記する。

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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